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第八十二話 かつての理想は地に落ちて

『ドゥルスの同士を探しているってー話でしたが』

『ええ、その通りですわ。この念話もドゥルスのみに通じる特殊な広域念話ですの』

『てーことは、パメラさんは近くにはいらっしゃらないんですかねぇ』

『ええ。ですのでそもそも、ヴォルフラムさんがどちらにいらっしゃるかも分かりませんの』

『……当方は、プレゼビディア氏族領に居りますねぇ』

『あら、エルゥ族の出ですの? 純血を是とするため、ドゥルスであっても異種は排されると伺っていましたが』

『……それに仕える鹿獣人の集落の出、ですねぇ』

『獣人族出のドゥルス?! 正に選ばれし者ですわね! 妬ましいですわ』


 選ばれし者?

 妬ましい?


 そんな彼女の、パメラの評価にヴォルフラムは困惑する。


 今まで自分にそんなものを見出したものは、一人としていなかった。

 平和ながら倦怠の雰囲気漂うこの地に、そんなことを言い出す者など絶無であった。


 新しい風。


 彼女の言葉は彼にとって正に新しい風で、倦んで淀んだ空気を吹き散らすかのようだった。


『妬まれるような身分とは、思えませんがねぇ』

『あら、どうしてですの?』


 しばしの逡巡こそあったが、ヴォルフラムは自らの疑念に答えるものを、ついに得たとの思いもあった。

 故に彼は、幼少の頃より抱いていた疑念を、パメラにぶつける。

 ハウアー鹿獣人族の来歴を。


 伝統を。

 習慣を。

 慣例を。

 掟を。


 自らの今の、そしてこれからの境遇を。


 最初は思い出すかのように訥々と語っていたが、最後には熱に浮かされたように、まくしたてる様に彼女に語った。

 相当に、鬱屈としていたのだと思う。


 思いのたけを吐き出し、しかし返ってきたのは沈黙だった。

 流石に初対面の相手に不躾過ぎたかと、彼は一瞬後悔する。

 だがその沈黙は、単なる沈黙ではなかったのだ。


『……』


 無言。

 ただそこには、ふつふつとした怒りの波動が滲むのを感じる。


『……あー、パメラさん?』


 無性な焦りを感じ、ヴォルフラムは彼女へと声をかけた。


『……すわ』

『え?』

『正にそれ、ですわ!』


 得心と、そして怒りを込めての念話が響く。


『語るまでもなく、我々ドゥルスは独尊に優越な種族ですわ! 強靭にして頑健な肉体、潤沢にして膨大なマナ生成力! 非の打ち所などないと言えるでしょう? なのに!』


 嘆かわしい、と頭を振る姿が目に浮かぶような、彼女の物言い。


『世界の覇権を取ったのはファン族で、その国々でも要職に就くドゥルス族は極僅か、ドゥルス族に向けた政策などはなく、日王国においてはあろうことか、非差別対象ですらありますのよ?!』

『……パメラさんは、ドゥルス族が今置かれた現状を打破しようと?』

『その通りですわ。我らには寄る辺がない。故に周辺に(おもね)るほかなかった者が大勢いるはずですわ。日王国などその最たるものでしょう。またなまじ優秀であるが故、個人単位での厄介事など、他に頼る必要なく解決出来た者も、ままありましょう』

『だから、ドゥルスは群れないと。そしてそれ故に、貴女は同志を募るのだと』

『そうですわ。私が目指すのは、ドゥルスの国、ドゥルスの建国』


 国。

 思わず、笑いそうになる。

 国どころか、村と呼べるほどのドゥルスが集った事例など、過去にもない。

 だが、笑えなかった。

 彼女は、パメラは。

 その気宇壮大な絵空事を、本気で現実の地平へと降ろそうとしているのだ。


***


 そして今や偉大なる『央』の下、ドゥルスの国が成りつつある。

 それを望んだ彼女はおらず、あるのは無機なる人形ばかり、だが。


「どうされました、ヴォルフラム様」

「……なんにもありはしませんねぇ」


 色褪せたような風景の中、そう声をかけてくる『峻厳(シビア)』に、彼は頭を振った。


「承知しました。では、ご指示を」

「……『英雄』改めマコト・タチバナは当方が相手をするので……『均衡(バランス)』、あとはまあ、任せましたねぇ」

「……了解しました」


 どこか投げ槍なヴォルフラムの物言いに思うところがあるのか、時計頭の聖痕兵は気遣わしげに頷いた。

 彼は破甲の枝に飛び乗り、機械の視界をあてにしてマコトを追うべく、それを伸ばす。

 残されたのは三機の聖痕兵(スティグマータ)と、獣型呪痕兵(ブランドール)の五個小隊百機。

 相対するのは……


「識別名『侍女』『糸遣い』、そして『火』のマリエンネ様」

「ふむ、他二人は兎も角、マリエンネ様を相手にするのは、呵責がありますな」


『峻厳』の言葉に、『慈悲(マーシー)』がそう相槌を打つ。


「侍女って……ネーミング雑過ぎない? あたしが着替えたらどーすんのよ」

「ああ、『ヘルムート』が同じことを言っていましたね。ご要望あれば、修正致しますが」


 呆れた風に言うイオに、『峻厳』が思い出した様に言った。


「ヘルムート殿が名乗ったのか? まあ名乗りそうではあるが……」

「礼節であるからと。『ジェイン』も『ライム』も続いてくださいましたね」

「……『糸遣い』はカリストに修正しておいてくれ」

「承知しました」

「カリ姉さん?!」


 驚きの声を上げるイオに、『峻厳』がじっと視線を向ける。

 彼女は大きく溜め息をつき、


「『侍女』はイオで」

「はい」


 その言葉に、どこか嬉しそうに『峻厳』は頷いた。

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