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第七十九話 岩と復讐で目を眩ませて

 ヴォルフラムの立つ岩盤に、亀裂が奔る。

 割って出ずるのは石の槍……ではなく、木。

 大樹の幹が、枝葉が岩を砕き、その姿を顕とした。

 恭しく差し伸べられた手の様な枝に……枝と言っても男性の腰ほどの太さはあるが……彼は飛び乗る。

 そしてそれは自ら持ち上がり、マコトの高度へとヴォルフラムを誘った。


「咲け!」


 彼の一言に応じて、巨木の枝先に花が咲く。

 真っ赤な大輪が。


『破甲の花……! マコトさん、避けて!』

『避ける?』


 咲いた花を避けろという理解不能なエウロパからの念話、それは次の瞬間理解可能な事象となった。

 大輪の付根が爆発する。

 真っ赤な花が回転し、花びらをまき散らしながら弾丸もかくやな速度でマコトを狙い撃った。


 意味不明な状況ながら、彼女の進言もあって『僭壁(デイメンジョン)引鈎(・ピッカー)』が間に合う。

 左手で引き絞った空間の修復、反動で赤い弾丸を消し飛ばした。

 それと同時に花は爆裂し、舞い散る花びらを巻き込んで爆裂が連鎖する。

 萼が花弁が、滴る蜜までもが爆発を誘った様な有り様だ。


『エウロパ、あれについて、分かるだけ教えて』

『はい。あれは破甲の花という魔法植物です。エルゥ氏族『プレゼビディア』の信仰対象で、最も繁栄したエルゥ氏族と言われていましたが……』

『いましたが?』

『……近年で、唯一滅んだ氏族でもあります』

『原因は?』

『不明です……』

『……まああんな爆発物、ちょっと扱い方を間違えれば、滅びもするか?』


「ふむ、ヴォルフラム様、彼らはこの花の事を存じ上げている御様子」


 突如ふたりの念話に割り込む、念話でない声。

 男とも女ともとれない、正しく響く合成音声に、マコトは眉をひそめる。


「そーですか、それは博識ですねぇ」


 その声は無論、ヴォルフラムにも届いていたようだ。

 頷き、そして地に降りたマコトへと視線をやる。


「あ、この声は気にしなくていーですよ。こいつは『均衡(バランス)』、ただの覗き屋ですからねぇ」

「語弊があります。当方はただ、『均衡』の為」

「保たれていないと? 侮られたものですねぇ」

「……」


 その一言に、『均衡』は沈黙した。


「さぁて、仕切り直しといきましょうかねぇ!」


 それに満足したのか、彼は両腕を広げた。

 四方に花咲き満開となり……全てが弾ける。

 それに抗う様に、八方から岩の壁がせり出した。

 マコトを守るべく出現したそれは、しかし悉くが魔華の爆裂にて砕け散る。


「……岩を砕くって、どんな花だよ。というか、『日』のすることか? セルゲイじゃなくて、君が『木』なのでは?」


 晴れゆく煙の帳の中で、傷もなく現れそういう彼に、ヴォルフラムは皮肉気に口の端を持ち上げた。


「後付けの称号で判断しないでくれますかねぇ! これこそ! この力こそ! 当方が運命の(くびき)から解き放たれた証明なんですからねぇ!」


 高らかに吠える彼を無視して、マコトは破甲の花の根元、突き破られた石の床を修復し、幹からそれを断ち切ろうと試みる。

 膨張する岩が大樹へ食い込み、だが零れ落ちる樹液が外気に触れるや否や爆発し、岩盤を紙のように吹き散らした。

 自らを傷つけ、しかし締め上げる岩の存在が無くなると樹液は固まり、己をより強固なものとしていく。


「いい判断ですが、無駄ですねぇ!」


 のたうつ様に伸び来る魔性の樹は、もはや植物と評するのが難しいありさまだった。


『エウロパ、確かエルゥの氏族は植物を信仰し、動物を操るって話だったけど』

『はい、その通りです』

『……プレゼビディアが使役する獣は、なに?』

『確か……麋鹿(びろく)だったかと……あ?!』


 何かに気付いたか、エウロパの念話の音調が跳ねた。

 その反応に、マコトも頷く。

 一枝の先端に立つヴォルフラムを油断なく見つめ、彼は口を開いた。


「エルゥ氏族プレゼビディア」

「うん?」


 唐突に出たその言葉に、枝分かれする重厚な角のドゥルス族の青年は首を傾げる。


「滅ぼしたのは、君だな?」


 異界の英雄の言葉に、ヴォルフラムは細い眼を更に細め、笑った。


「最も繁栄した氏族ということだけど……君たちみたいなものまで使役していたのだとしたら、納得もいく」


 単なる動物を使役するだけでなく、それに類する獣人族を同様に使役できたのであれば、それを踏み台として更なる繁栄を見込めたことだろう。


「見てきたように言いますねぇ……まあ、おーむね正解ですよ。さんざ鹿獣人を良い様にしてきたこの力、今や当方の慰み者ですからねぇ」


 皮肉気に、彼は言う。


「で、その同胞の皆様は?」

「同胞? 当方は鹿獣人出自のドゥルス族。同族などいやしませんねぇ。まあ、隷属に慣れ、最後まで下賎に顎で使われていた鹿獣人は、いた気がしますがねぇ」


 マコトの言葉に、ヴォルフラムの表情に愉悦と、そして嫌悪の色が混じった。


「……なるほどね。被害者がなまじ力を手に入れて加害者を排斥し、その立場に成り下がったってことか。よくある話だね」

「貴様に何が分かる!」


 彼の揶揄に、ヴォルフラムは激高する。

 そんな彼の感情の発露に、破甲の花はうねり花実を咲かせた。


「貴様に、貴様などに当方の生き様を否定する権利などない! まして! 当方の先を照らした、パメラを奪った貴様などには!」


 花が落ち、花弁は舞い、実は熟し爆ぜる。

 そんな地獄の様な空間で、マコトは肩を竦めた。


「復讐は甘美で胸がすく、気が晴れる、清々しくなる。何も生み出さないって言うけど、実際成し遂げれば、気分は上々だろうね。……退廃的で後ろ向きで、とてもお天道様に見せられたものじゃ、ないけど」

「黙れ!」

「いや、黙らない。……それで今からそれを繰り返すんだろう? あの毒女の、仇を取るんだろう? 復讐をするんだろう? それで気が、晴れるんだろう?」

「黙れぇ!」


 それ以上の言葉は無く、ヴォルフラムはその細い眼を見開き、掴みかかる様にマコトへと迫る。


 飛び掛かる彼の真下の地面が、裂けた。


 朱金の巨体が顕現する。

 マリエンネ操る緋緋色甲冑が熱風を纏い、その拳をヴォルフラムへと叩き込んだ。

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