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第七十五話 双剣を構えて

 波動の剣を空振り、鞘へと納める。

 ふうと一息ついて彼は、ジェインは振り返った。


「ヘルムート殿、念話は繋がりましたでしょうかっ!」


 そう声をかけられ、ヘルムートははっと我に返る。


「あ、ああ、まだ通じない……なあ、ジェイン少年、いやさジェイン」

「急にどうされました、ヘルムート殿っ!」

「お前……何をやった? 何が起こったんだ?」


 彼はジェインの足元に目をやりながら、そういった。

 辺り一帯には、累々と横たわる獣型呪痕兵の残骸。

 二十を越えるそれを、打ち倒したのだ。

 結晶体を出すことすらなくジェイン一人で、その場から動くことなく、だ。


 端から見れば、彼が一人呪痕兵の群れに飛び込み、二刀を振るい、それを倒した。

 ただそれだけの、ことなのだが。

 それがヘルムートには、うまく咀嚼出来ていない。

 異様、だった。

 何がどう、と説明できないもどかしさが、えも言えぬ焦燥を抱かせる。


「……申し訳ございませんっ! 小生もまだうまく言葉にできないのですがっ」


 言ってジェインは頭を描いた。


「恐らくですが、念話が届かないのは、結界の影響でしょうっ!」

「結界……ですか?」

「はいっ! 外効系魔法の出力を減衰させるものと思われますっ! マリエンネ殿対策なのでしょうが……少なからず小生も標的となっているかとっ!」


 首を傾げるライムに、彼はそう頷きかける。


「知っての通り、小生の『古今(ポテンシャル・)到来(クリスタライズ)』は外効系魔法(アウターマジック)っ! 少なからずその影響を受けている自覚がありましたっ! 」


 念話の不通が発覚した際、ジェインは『古今到来』の使用を試みた。

 そして直感する。

 平時の精度と強度の結晶体を出力するのは恐らく不可能で、数、距離、そして最適性、その何れもが低減するであろうことを。


 故に彼は、通常は無意識に行っている想定予測の演算に、『古今到来』を出力するための演算能力を追加した。

 その結果が、足元に散らばるこれだ。

 獣型呪痕兵が、現れるのが()()()

 故に彼は先んじて、そこに飛び込んだ。

 呪痕兵の、動きが視えた。

 それらの行うであろう、先の軌跡が青く煌めき、先んじて視界に映る。

 そしてその軌道に『古今到来』を出現させようとする。

 例え平時の出力とはならずとも、有効打であることは間違いないからだ。

 そう思い、それを演算しようとして、ジェインは唐突に理解した。


 自分は今、確定した未来を視ている。


 そして『古今到来』の本質は、未来の可能性の現出だ。

 無限にある未来の可能性、それを選び呼び出すことが本懐だ。


 故にこの二つは、無限の未来を司る『古今到来』と、確定した未来を視る『孤刀(アイソレート・)一錐(フューチャー)』は、相容れぬものと、理解した。


 故に彼は、ただ一つ虚空に浮かぶ未来に、身を委ねた。

 緩やかに、見通したままに身を躱し、双剣を振るう。

 呪痕兵達が如何様に動こうとも、導かれる様に彼の刃はその身に突き立ち、そして彼らの爪牙は掠める事すらない。


 まるでよく出来た演武の如き、彼の立ち居振る舞い。

 いっそ優雅ですらあるその動きに、しかし刻々と呪痕兵は数を減じていく。

 そして彼は、汗一つかくこともなく、かすり傷すら負うこともなく、獣の群れをを殲滅してみせた。


 最後の一頭を切り払い、そして彼は血振る様に空を薙いだ。




「つまりジェイン様には……未来が見えていたと?」

「そういう事かと……思いますっ!」

「何で自信無さげなんだ」

「小生が幻想を視ているのではないかとの懸念が払拭出来ませんでっ」


 まるで夢幻の様な、そんな感覚が拭えずにいるジェインは、やや後ろめたそうに言う。

 そんな彼の返答に、ヘルムートは呆れた表情を見せた。


「そんなあやふやに身を委ねるような騎士じゃないだろ、お前さんは。失敗は許されないんだろ? 王の無念を雪ぐんだろう? そんな気概のお前さんが、信じてもいないことを武器に、自分を危険に晒すのか?」

「……」

「そうじゃないよな。理解は追いついていないのかもしれないが……ぶっちゃけ俺は殆ど理解出来ていないが……お前の心は、それを確信しているよ」


 だからこそ、ああ成せたのだと。

 彼は言う。


 当初は災いの元ですらあったこの力。

 それを研ぎ澄まし、宝剣として振るい続けた。

 そして彼女に出会って、もっと出来ると、まだ有れると、先がを望めると確信した、確信していた、出来ていた。


「……そう、なのでしょうね、そのようにこれを、言葉には出来ませんでしたがっ」


 延々と、連綿と紡いできたこれを、己が心は無疑に信じていたと。

 その結果が、このもう一振りの宝剣なのだと。

 自らの腰に佩く、双剣の様に。


「ありがとうございます、ヘルムート殿っ! 腑に落ちましたっ!」


 頭を下げるジェインに、彼はいいってことよと手を振った。

 そして下がったそばから、跳ね返ったように彼の頭が上がる。

 その挙動に、ヘルムートは身を仰け反らせた。


「ど、どうしたジェイン」


 彼の言葉に答えず、ジェインは後方を眇め見たまま、背の弓を素早く構える。

 何らの警告もなく放たれた力の弓の一矢が、鬱蒼と茂る木々の狭間を抜け……

 弾けて、消えた。


『敵性体、検出。脅威度、算出します』


 無機質な声が荒涼と、鬱蒼と茂る木々の狭間から矢の代わりに、返る。

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