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第七十二話 姿を求めて

「流石に待ったをかけたくなるだろう?」

「確かにっ! 恐らくは火王国中に降り注いだ、始原の白泥とやらの影響なのでしょうがっ!」

「森の外周が色付いているのは、どういうことでしょう。マリエンネさんに聞いてみましょうか、一応」


 一応、の一言に、マコトは微苦笑する。


「レティシアさんがいるから、それはまた追ってかな。それよりどうやって情報を拾うかだけど……」

「リアナ殿からの映像と照らし合わせるに、それ程奥まで捜索範囲を拡げずとも良さそうですねっ!」

「……前向きですね、ジェインさん」

「お気になさらずっ!」


 変わり果てた己が故郷を見て尚のジェインの言葉に、彼女は懸念を示すも、それは杞憂のようだった。


「北と南、どっちだと思う?」

「……リアナ殿たちが我が国とエルゥ族の関係をどの程度把握されていたかによるとも思いますが……街道北の森は比較的人の手が入っていますっ! 行軍はしやすいでしょうっ! 逆に南は完全にエルゥ族の領域ですっ! 道のりは険しいですが、見つかりにくくもあるでしょうっ! その上でどちらを選ぶかと問われれば……小生であれば街道南の森を選ぶでしょうっ!」

「その心は?」

「隠密性を重視すべきだからですっ! リアナ殿たちがなまじ武闘派だったことを鑑みると、それを考慮したのではないでしょうかっ!」

「……なるほど」


 そう即答する彼に、マコトは少し考える素振りをする。


「北側は僕が担当して、南側に人員を配した方がいいか」

「同感ですっ!」


 方針はたった。

 マコトはエウロパを見、それに彼女は小さく頷く。

 二人の高度は下がり、それを追う様にマコトは螺旋を描くように下って行った。


***


「只今戻りましたっ!」


 地上に降りブラックウィドウへと帰還したジェインは、そのまま拘束服姿の少女の隣に腰掛ける。


「おかえりー。で、ロパ姉、何があったの」

「撮影してきた映像を投影します」


 エウロパの宣言と共に、先ほど眼下に広がっていた、奇妙な風景が映し出された。

 皆押し黙り、ただ食い入るようにそれを見る。


「何とも……異様だな?」


 ようやっとの第一声は、ヘルムートは率直な感想だった。

 確かにそう評するほかない光景ではあるのだが。

 何やら視線を感じ、彼はあたりを見回した。

 その視線が、ライムとかち合う。

 咎めるような眼差しだった。

 心当たりなく首をひねるヘルムートの目に、彼女の隣で苦笑を浮かべるジェインの姿が映る。


「気にされ過ぎです、ライム殿っ! 小生は大丈夫ですともっ!」


 緩く首を振る彼をを見る彼女の視線は、気づかわしげだった。


「そういうことか……すまんジェイン少年、配慮が足りなかった」

「心凪いでいるとは申しませんが、取り乱しているとも申しませんっ! 未だ挽回が出来ると信じておりますっ!」

「あ、痛い。心が」

「そんな心はもうないでしょ、マコっちゃん」

「……お前なぁ」


 何やら居心地悪そうにしていたマリエンネが、ここぞとばかりに茶々を入れる。


「まあマコトの心のあるなしは置いておいてだ」

「ありますからね? 僕にも人の心」


 それを汲んだのか容赦のない事を言うカリストに彼は食い下がるが、それを放ってカリストは話を進めた。


「リアナ殿からの映像を鑑みるに、この真白の領域に到達する前に襲撃にあったようだ。街道ではなく木々の合間を抜けての行軍のようだったが、ブラックウィドウの車体では不可能な芸当だな」

「足で稼ぐしかなさそうですね……」


 げんなりとした様子で、エウロパが頷く。


「待機組と、捜索組に分けて……捜索組を更に分割するかだけど……」


 難しい顔で、イオが唸った。

 捜索効率を上げるのであれば組み分けするのが常道だが、襲撃を受ける可能性が濃厚である以上、極端な細分化は避けたいところだ。


「……僕とエウロパ、ギニースさんがブラックウィドウで待機、ジェイン君とライム、ヘルムートさんで一組、カリストさんとイオさん、レティシアさんで一組でどうだろう」

「ロパ姉とギニースちゃんの待機は順当かな。マコっちゃんはどうするの?」

「僕は『鳥』を飛ばす」

「あたしはー?」


 名前の挙がらなかったマリエンネが、不満そうに自分を指す。


「難しいところなんだけど……ブラックウィドウの護衛兼、捜索組の援軍要員かな……」

「えー?」

「えー? じゃない。森の中だぞ。お前が下手に魔法を使ったら、森林火災待った無しだろ」

「あ、そっか」


 納得、とばかりにマリエンネは頷いた。


「そういう意味では、レティシアさんを捜索組に回すのは、結構博打なんですが」

「まあ、マリーちゃんレベルの外効系魔法の使い手なんて、滅多にいないと思うけど」


 イオがそう続け、ちらりとレティシアを見やる。

 その視線を受け、彼女は少し考え込んだ。


「……そうですね。私は一通りの内効系魔法と、液体を操作する魔法を修めています。ご心配頂くことはないかと」

「まあ、マリーほど相性の悪い手合いは、流石にないか」


 しみじみと頷くマコトに、彼女は不服気に口を尖らせた。


***


 それぞれに出立していく捜索組の背を見送り、マコトは改めて着席する。


「そういえばどうして、今回その探索術を使う気になったんですか? ブラックウィドウの走行中なら、特に不利益はなさそうなものですが」


 思い出したように言うエウロパに、彼はやや後ろめたげに言った。


「いや、今までそんなに使いどころもなかったし……それに殆ど初対面の相手が一人席に座って目を閉じてたら、対話拒否してる感じ悪い奴だと思われない?」

「あー、確かに……特にカリスト姉様が気にしそうですね」

「そんなこと気にする心とかあったんだ、マコっちゃん」

「お前の中の僕のイメージがどんななのか、頭を開いて見てみたいよ」

「怖っ」


 くつくつと笑いながら言うマリエンネに、彼は辟易とした表情を見せる。


「……捜索組は、南側を決め打ちだから……北側に飛ばす」

「はい、お願いします」

「顔に落書きしていい?」

「引っ叩くぞ」

 

 がっと威嚇するように言い、そしてマコトは目を瞑った。


 『鳥』を二羽生み出す。

 一羽をブラックウィドウの真上に定点観測させ、もう一羽を北へと飛翔させた。

 画面が二つに分割された映像窓を見るような違和感と忙しなさを覚えつつ、森の木々を掻い潜り『鳥』は北上していった。


***


「エウロパって」

「何ですか?」

「……ん-ん、何でもない」

 にこりと笑う彼女に、マリエンネはふるふると頭を振った。

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