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第七十話 思いを温めて

「……以上の情報を共有いたします。待機の命に反したこと恐縮の至りですが……より多くの情報回収ができるほぼ唯一の機会と判じ、出発を決定いたしました」

『……』


 カリストの言葉に、ブレア内政官の胸像が、口元に手を当て考え込む。

 あの後取りまとめた情報を木王国へと送り、すでに動いているを彼女へと報告したのだ。

 建前は建前で本心ではあるが、情がないとは言えないところが胸の張れないところではある。


『貴女の判断は正しい、騎士カリスト』

「ありがとうございます」


 彼女の内心を知ってか知らずか、ブレアは顔を上げそう評した。


『確認ですが、これ以外の情報は無いのですね』

「はい。この情報をもたらしたのは、元々は我々と同じ立場である後詰の手練れです。生中な手合いでは、最早探りを入れる事すら難しいと言えるでしょう。或いは数にものを言わせるかですが……」

『今更そのような戦術はとれません。そして……貴方達以上の戦力を派兵など出来はしません。忸怩たる思いはありますが……」

「ブレア様」

『ギニース?』


 その呼びかけに、俯きかけた内政官の顔が上がる。


「お任せ、下さい」


 ギニースの言葉に、ブレアがやや弱々しく笑った。


『……木王国を出発する時に言った私の言葉、忘れないでください。必要な物資、要望があれば随時要請してください。可及的速やかに用意しますので』

「ありがとう、ございます」

『では……後を頼みます』


 通信が途切れる。

 ギニースは両の手をぎゅっと握り締め、きびきびと後部座席へと移動し、


「寝る」


 そう宣言して横たわった。

 時刻としては宵の口、まだ夜は長いが……


「休めるうちに休んでおいたほうがいい。レティシア殿、雑魚寝で済まないが」

「いえ、十分です。ありがとうございます」


 カリストの言葉に、彼女はゆっくりと首を振る。


「じゃあ車内灯落とすよ?」

「ああ。エウロパ、見張りを頼む。運転手交代の時に、私が変わる」

「分かりました。それでは」


 頷きエウロパは立ち上がると、ややおぼつかない足取りで車両前方の助手席に着席する。

 そしてイオの宣言通り車内灯は消え、ただ星の光が照らすのみとなった。


***


「眠れませんか、レティシア様」


 ぽつりと小声で、助手席に座るエウロパがそう呼びかける。

 二つ後ろの座席を倒し、目を閉じていたレティシアは薄っすらと目を開けた。


「……よく、お分かりで」

「眠った方の呼吸音ではなかったので」

「……そんなことまで分かるのですか」

「出たよ、ロパ姉の謎特技」


 前方を見据えたまま、イオが苦笑する。


「分かりやすいと思うんだけど」

「分かんない分かんない」


 エウロパの言葉を彼女は投げやりに否定し、それはレティシアの笑いを誘ったようだ。


「ヘルムート殿から伺ってはいましたが……姉妹仲が宜しいのですね」

「まあね! ってレティシアさんは違うの?」

「私は……どうなのでしょう。姉の事は尊敬していますがここ最近は、任務の事ばかりで中々姉妹らしい会話はありませんでした」


 イオの言葉に、彼女は少し考えてから、ためらいがちにそう答える。


「……仲の悪い相手に、あんな私信は残さないとは思いますが」

「そう、ですね……あれが最期の言葉にならぬことを、願うばかりです」


 会話ですらない只の伝言。

 それを思い返して、レティシアは天井を見つめた。


「……正直今回の行軍ってさ、多分に私情が入ってるんだよね」

「え?」


 そんな彼女を見てか見ずにかのイオの言葉に、レティシアは視線を天井から運転席へと移す。


「マコっちゃんのそれを、ロパ姉が汲んだ形」

「……否定できませんね。カリスト姉様が上手い事理論武装してくれましたが……本当はそこまでが私の仕事のはずでしたし」


 妹の言葉に、エウロパは苦笑した。


「……どういうことですか?」

「あの時のレティシアさんを、見てられなかったんでしょ。まあ実際、そうだったし……」

「すっかり毒されていますね、私たちも」

「そ、それだけの理由で動かれたのですか? 待機命令を無視して?」


 愕然とした面持ちで、レティシアは信じがたいとばかりに言う。

 会ってまだ幾ばくも無い、友人どころか同僚でもない他国の軍人が嘆くのを見て、動いたというのか。


「実際の所、今動いたのは結果的にはいい判断だったと思いますね。待って事態が好転する状況でもなかったですし」


 各国の斥候部隊が事実上全滅している以上、当初の予定通り待機したとて無意味に次の指示を待つしかできなかったのだ。

 英雄は決断した。

 であるなら後は、周りがそのおぜん立てをすればいい。


「マコトさんの思いが、無にならないことを願っています。勿論、レティシア様の思いも」


 その言葉に、彼女は目頭を抑えた。


「……眠ります」


 そう一言だけ告げ、レティシアは再び瞳を閉じる。

 今度は、眠れそうな気がした。




「だとよ、マコト」

「いい仲間に恵まれましたよ、今回も」

「大丈夫そうか?」

「……眠っているので、聞こえません」

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