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第六十六話 不吉を知らせて

 マコトたちがシャコルナク入りしてから、二日が経過した。

 初日は流石にごたつきはした。

 特にエウロパが色々を落とした姿をヘルムートとライムにも晒した結果、抱き着かれるは泣きつかれるはの大騒ぎとなったものだった。


 それは流石に一時の事で、今はもう何時もの野営……とは名ばかりの野営と何らの変わりはない。

 だが今までの行軍とは違い、待つことしかできないというのはなかなかにじれったいものだった。

 それでもイオやギニースはブラックウィドウの整備をし、マリエンネはそれを眺めながら編み物をしていた。

 ヘルムートはシャコルナク庁舎からの呼び出しに対応し、エウロパは自室で魔法の解読に時を費やしている。

 ジェインは何か思うところがあるのか、水王国式の瞑想に没頭し、ライムも同じく己の『手』と心に向かい合っているようだった。

 カリストは、提供された食材を吟味し、日々の献立に頭を悩ませている。

 そして完全な手持無沙汰となったマコトは、談話室で何をするでもなく時を潰していた。


 常に闘争の為に呼び出される身だというのに、こんな時間を過ごすことになるとは思ってもみなかった。

 日の傾きかけた夕暮れの時分、彼は漫然と夕日を眺めている。


「暇そうだな」


 談話室の隣に設えられた厨房からひょいと顔を覗かせるのた、カリストだった。


「暇というか、手持無沙汰というか……」

「それを暇というんだろう」


 頬杖をついてそんなことを言うマコトに、彼女は呆れた風に言う。


「まあそうなんですが。カリストさんは忙しそうですね」

「幸いなことにな」


 妙に可愛らしい前掛け姿の彼女は、軽く笑った。


「……待ちの状況になる事って、あんまりなかったんですよね」

「そうなのか?」

「ええ。そもそも今回結構な長丁場なんですよ。大抵三日ぐらい、長くても十日ぐらいで決着ついてましたからね。早ければその日のうちに終わることもありましたよ」

「異世界を日帰りでか。なかなかタイトなスケジュールだ。一番長くてどれくらいかかったんだ?」


 そう聞かれて彼はふと虚空を見上げ、


「ひと月……大体三十日くらいですかね」

「ほう」

「『昔話』でちょっと触れた奴ですよ。森の民と山岳の民の抗争に呼び出されたあれが、一番時間がかかりましたね」

「機械仕掛けの魔王の話だったか?」

「それです」


 カリストの指摘に、マコトは頷く。

 そんな話をしていると、にわかに階下が騒がしくなった。


「何の話してんのー?」


 開け放たれた扉から飛び出したのは、整備組とその見守り役のマリエンネだ。


「待ちは性に合わないって話」


 そちらに視線を向け、彼はそう答えた。


「ふーん? せっかちな男は嫌われるって聞くけど」

「そういう話じゃない」

「あ、カリストおねーさん、おなかすいた」

「自由だなこいつ……」

「もう少し待て」


 彼女の様子に呆れるマコトを尻目に、カリストが厨房へと引っ込む。

 イオとギニースも、マリエンネ同様、適当な席に腰を落ち着ける。


「ん?」


 それと同時に鳴り響く音に、イオが疑念の声を上げた。

 見れば部屋の片隅に据えられた通信機が、着信音を響かせている。


「連合軍の共用周波数じゃない。木王国から?」


 立ち上がったギニースがそれに近寄り、通話状態へと操作した。

 浮かび上がる立体映像は、ブレアのものだった。


「ブレア様」

『ああギニース。息災ですが?』

「はい。おかげ、様で」

『そうですか』


 彼女の胸像が、どこか満足そうに頷く。


「どうかされましたか?」


 その声に気付いたカリストが、手を拭きながら再入場してくる。


『良くない情報です』

「……聞く前から気が滅入りますが……どのような?」

『今朝方、斥候部隊より状況開始の連絡が入りました。朝、昼、夕の日に三度の定時連絡を指示していたのですが……』


 立体映像の彼女が、俯いた。


『昼の報告がありませんでした。そして夕の報告も』

「それは……そちらからの通信は?」

『無論試しました。が、やはり返答は無く』

「……最悪の状況を、想定するべきでしょうね。他国の部隊は?」


 カリストの問いかけに、ブレアは頭を振る。


『現在問い合わせ中です』

「分かりました、こちらでも確認してみます」

『お願いします。今後の方針を、現在協議中です。明日の朝に、結果を報告しますので、それまでは待機を』

「承知しました」

「ブレア様」


 憔悴した様子の彼女に、ギニースは心配げに声をかけた。


『……大丈夫です。ただ貴方達には、無理を強いるかもしれません』

「大丈夫、です」


 ブレアと同じように返すと、立体映像の彼女は笑みを浮かべた。


『頼もしい答えです。では、また明日』


 その言葉を最後に、通信は途絶える。

 残された一同は、顔を見合わせた。


「……全滅?」

「恐らく、そうだろうな」


 イオの呟きに、カリストは腕を組む。


「マリー?」

「いやあたしも分かんないよ? 結界があった時は警備なんて置いてなかったろうし。結界塔が落ちてからの展開した防衛網ってことでしょ」

「それはそうか」


 マリエンネの返答に、マコトは唸った。


「そもそもあの結界ってどんな効果だったの?」

「ドゥルス族以外の侵入を禁止する、ってだけかな」


 イオの疑問に、彼女は単純明快に答える。


「しかし、こうなると他国の斥候部隊も無事かどうか怪しいな……」

「ブレアさんが半端な人材を手配したと思えないし、結構ヤバそうだね……」


 カリストの懸念に、イオは首を竦めた。


「月王国の部隊は、確か昨日出立して順調に行けば今日の昼頃、火王国内に入ってるはずだよな」

「もしかすれば、無事な可能性もあるか」

『ヘルムートさん』

『……おう? どうした。今恩赦兵の今後の対応協議中なんだが』


 マコトの念話に、ややあってヘルムートからの返信が入る。


『すみません、でも緊急です。木王国の斥候部隊が通信途絶だそうです』

『……分かった。動向を確認する。ちょっと待ってくれ』

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