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第六話 内情を交感して

「実質800対5だったわけですが……やれるものですね」


 さりげなく自身を除外しつつ、エウロパは感慨深げに言う。


「御謙遜を。エウロパさんがいるだけで、補給を度外視できるんですから十分でしょう」


 先ほどの一戦の後、弾薬の補充と車両整備の為に、一時停泊することとなった。

 そしてその弾薬も、整備用機材も、ブラックウィドウに搭載していたものではなく、エウロパの転送魔法で、王都より『取り寄せ』たものを使用している。

 彼らが現在腰掛けている、簡易野外設営用具一式も同様だった。


 卓を囲んでいるのはギニース以外の5名である。

 先の最大の功労者は、絶賛車両整備中であった。

 休む暇もない立役者に対して心苦しさはあるものの、肝心な整備技術を持つのはギニースだけなので致し方ない。

 他一同は休憩がてら、食事を摂っている。


「功績と言えば……」


 思い出したように、カリストがちらりとジェインに視線を向けた。


「最初に窓に取り付いた呪痕兵を落としたのは、ジェイン殿だな?」

「はい、そうですっ!」


 勿体ぶるでもなく、何時もの様に快活に彼は答える。


「あの時、妙なことを言っていたが」

「はい、申し上げましたねっ!」


 隠すでもなくやはり明朗に、彼は頷いた。


「……どういうことか、伺っても?」

「そうですねっ! お見せしたほうがわかりやすいでしょうっ!」


 言ってジェインは椅子を引いて立ち上がる。

 三人同時に。


「……へぇ?」


 イオが素っ頓狂な声を上げた。


「こういうことですっ!」


 答えたのは、未だ座ったままの一人目の……あるいは四人目の彼だ。


「いや、どういうこと?」


 思わず後ずさって言うイオ。


「これは小生の可能性ですっ!」

「席を立つ時、そのまま立ち上がるかもしれませんっ!」

「或いは右に一歩踏み出すかもしれないっ!」

「若しくは左に一歩踏み出すかもっ!」

「そんな小生の起こり得る未来、あるいは起こり得た過去を、現在に再現するっ!」

「これこそが小生の『古今(ポテンシャル・)到来(クリスタライズ)』ですっ!」


 口々に、ジェイン()が言う。

 そして、『右』の彼は軽食をとりわけ皿に載せ、それをギニースの元へ届けるべく小走りにかけていく。

 残る『央』と『左』の彼は、音もなく姿を消した。

 そして何事もなかったように佇むのは、未だ座ったままの彼。

 何を言うでもなくただにこにこと、何時もの様に微笑んでいる。


「……変わった力の持ち主、それなりに見てきましたが……」


 半ば呆れたような口調で、シンが呟く。


「ここまで奇矯な能力を見たのは初めてですね」

「全くですね……特殊で高度な外効系魔法(アウターマジック)でしょうか」


 同じく相槌をうちながら、エウロパは総論的に言った。


「外効系魔法?」

「……シン様におかれましては、魔法についてはお詳しくない?」

「恥ずかしながら、力と技と武器の攻撃力で押していくのがウリでして」


 臆面もなく力押しを主張する彼に、彼女は苦笑しつつ人差し指を立てる。


「魔法の種類は、大きく二つに分けられます。内効系魔法(インナーマジック)と外効系魔法ですね。その名の通り、使用者自身に影響を及ぼすか、外部に影響を及ぼすかで分けられます。内効系魔法が基本であり、外効系魔法は応用となります。何故だと思いますか?」


 急な問いかけに、シンは首を傾げた。


「内効系魔法は、術者自身の骨子たる光脈(レイライン)を利用出来るためです。生成されたマナに指向性を持たせ、光脈に巡らせることで、例えば身体能力の向上や感覚の鋭敏化、肉体構造の変化などを図ることができます。対して外効系魔法ですが……」


 言って彼女は、立てたままの指先に火を灯す。

 そして当のエウロパが、やや驚いたように目を見開いた。


「どうしました?」

「いえ、思ったより火の勢いが。それにさっきから転送魔法といい、ちょっと調子がいいんですよね……」


 訝し気に首を傾げるが、気を取り直すかのように咳払いする。


「このように火を熾そうとした場合、周囲に都合よく火となり得る光脈がある訳がありません。ですので疑似的な光脈……側脈(バイパス)(バイパス)と呼びますが……を作り出す必要があります。自身のマナを術式を行使し加工して側脈を生み出し、そこにマナを流して火を形作るわけですね。手間がかかる上に、効率の面でも内効系魔法に劣ります」


 その分対応力は高いですが、とエウロパは続けた。


「ではギニースさんやカリストさんの魔法も外効系魔法?」


 確かに車両や鋼糸に作用している魔法だった。


「あれは一応内効系魔法に当てはまる。拡張(エクステンド)型内効系魔法といって、術者と親和性の高い物品の光脈を介して作用させている為だな」


 そう補足して、カリストは小さな、しかし先ほどの張りぼての猛禽よりは遥かに密度の高い鳥の針金細工を取り出した。赤銅色の光が灯り、それは羽ばたきくるくると周囲を飛び回る。


「また、限定的ではありますが、疑似的に外効系魔法を出力する道具もあります」

「さっき薪に火を付けるのに使っていたような?」

「そうです。魔道具と呼ばれているもので、装置の内部に導線ガイドが組み込まれており、それにマナを入力することで簡易的な側脈を形成することができます。日用品から兵器まで、用途は様々ですが」

「小生の弓は魔道具に当たりますねっ! ブラックウィドウの火器は炸薬を使用されているようですがっ!」


 兵器として、魔道具を使うか火薬による火器を使うかは一長一短ある。

 例えば魔道具の場合、弾数が使用者のマナ総量によって異なるが、銃器であれば弾数は使用者によらず画一的である、等々。


「御歓談のところ、失礼いたしますっ!」


 そう声をかけてきたのは、先ほどギニースに食事を届けに行った『右』のジェインだった。


「ギニースさんから伝言ですっ! もうすぐメンテナンスが終わるので、出立の準備をとっ!」


 そしてそれはそうとだけ告げ、それと同時に姿を消す。

 一同は顔を見合わせ、そして立ち上がった。


***


 暗い部屋だった。

 その中心、中空に、()()の身の丈ほどの地図が投影される。

 彼女のいる現在地を中心に、同心円状に十数個の円が描かれていた。

 そしてその外周に、一つの青い光が灯る。


「見ーっけた」


 愉し気に彼女は呟き、中空の地図に指を当てた。

 もっとも内側の円の淵に当てたそれを、青い光めがけて滑らせていく。

 二、四、十……最外円を巻き込み伸ばされたそれが、標的たる青い光点にぶつかった。


「『金』ももう始めてるみたいだし、こっちもやっちゃおっかぁ」


 首の骨を鳴らし、その姿は足元からの魔法陣の光の中に溶け、消えた。

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