表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/175

第五十七話 それぞれに夢を見て

 目を覚まして最初に目に入ったのは、見知った部屋の天井ではなく、見知った車両の天井だった。

 薄暗い車内灯が、橙色に周囲を照らしている。

 自身が寝かされていたのは、例によって最後尾の座席だった。


「あ、起きたー?」


 身を起こすと、空気の動く気配を感じたのか、声をかけてきたのは運転席のイオだ。

 野営の番をしているのだろう。


「お疲れ様です。ご迷惑をおかけしました」


 拘束服姿の少女……ライムは声を殺してそう声をかけた。


「夜明けまでもう少しかかるし、まだ寝てていいよ」


 座席越しに、お道化たように彼女は手を振る。


「ご迷惑を、お掛けしました」

「何言ってんの、大活躍だったじゃん。格好良かったよ、ライムちゃんの手」


 言われてライムは、少なくとも肯定的な、少しばかり困ったような笑みを浮かべた。


「……ありがとう御座います」

「ん」


 満足そうに、イオは笑顔を浮かべる。


「あの後は……どのように?」

「結界塔は破壊できたけど、土の塊の本体は逃げられちゃった、ごめんね」

「いえ。しかしこれで、結界塔の破壊は完了ですか?」

「その筈。朝になったら、確認予定だけど」


 彼女の返答に、ライムは頷いた。

 ふと、あたりを見渡す。

 幾つかの座席は倒され、そこに累々と各人が雑魚寝をしていた。

 しばし視線をさ迷わせ、己の右隣りでそれが止まる。

 ジェイン・ジェア・ジェイル。

 彼が、横たわっていた。

 何となく、そのままではいられず、彼女はジェインに寄せて座り直す。

 横にはならず、座席に背を預け、横目で彼の寝顔を覗き込んだ。

 それで何かが変わるわけでもないが、胸の内に何か暖かな火が灯った気がする。

 安らかな気持ちで、彼女はもう一度瞳を閉じた。


 そしてその様を、イオは後写鏡越しに、にまにまと眺めていた。


***


 これは夢だ。

 そう漠然と、しかし確信して、その上で彼は思う。

 自分は単なる異分子であると。

 脇役であり、添え物であり、二番手であると。

 眼前の光景を睥睨し、そう思う。


 火の様に燃え盛る何かに立ち向かう光の人影が、降り注ぐ何かを突き崩していく。


 それに付き添う、介添え人に過ぎないのだと。

 それぞれの世界にはそれぞれの世界の、物語があり、在り方がある。

 自分はそれを、僅かに彩る端役でしかなく、根を張る土壌を失った、土無し草なのだと。

 それ故に、寄る辺なく彷徨い、揺蕩うのだ。

 そこに自らの役割を求めて。

 僅かばかりの期待を込めて。


***


 これは夢だ。

 そう漠然と、しかし確信して、その上で彼は思う。

 これは己の物語であると。

 自分の前に道は無く、故にそれを切り開き、進んでいくのだと。

 眼前の光景を睥睨し、そう思う。


 火の様に燃え盛る何かに立ち向かい、共に行く光と闇で、降り注ぐ何かを突き崩していく。


 大いなる力の、大いなる責務を背負い行こう。

 自分の、自分たちの世界の為に、抗い挑もう。

 失った矜持を、郷土を取り戻す為に戦おう。

 反撃の為、反旗を翻すのだ。

 それを自らの役割として。

 折れること無き希望をもって。


***


 白々とした日の光が、ブラックウィドウの車内をようやく照らし出した時分、静寂の帳を破るかのように、通信機の着信音が響く。

 寝ずの番をしていたイオは、非常識な時間に鳴るそれに眉根を寄せるも発信元を見、慌てて通話を繋いだ。


『あー、テステス、女王陛下が通話のテスト中』


 響く声にいち早く身を起こしたのはカリストだ。


『何故陛下がこんな時間に?!』

『わかんないよ!』


 姉の問い掛けに、彼女はぶるぶると頭を振る。


『映像は切れ、通話のみにしろ』

『やってる!』

『おるか、おるかー、聞こえておるか、おるかー? ん? ブレアよ、これは繋がっておるのか?』

『通話中表記になっていますから、繋がっています……なんだってこんな朝早くに通信するんですか、付き合わされる私とギニース達の身になって下さい』

『しかし吉報は早く伝えたいではないか!』


 微妙に不敬なことを言う内政官を、しかし気にせずスカイアは声高に主張した。


「……女王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」

『おお、カリスト! 良い朝じゃな! 息災か?』

「勿論です。陛下の恩寵がございますれば」

『うむ』


 恐らく頷いたであろう衣擦れの音に、満足げな声が続く。


『して、何故音声のみなんじゃ』

「恐れながら、昨夜は車中泊で皆雑魚寝をしておりまして……身支度もままならないため、陛下のお目汚しなるかと」

『なんと! それは気がまわらなんだ、許せ』

「いえ、お気になさらず。それよりも、陛下より吉報が賜れるとか?」


 愕然とした声音で謝意を示すスカイアに、カリストは如才なく先を促した。


『おお、そうであった! 実は結界塔に派遣した部隊より報告があってな、そなたらの指摘通り、維持回路と中枢の破壊に成功したと言うことじゃ』

「おお、それはなによりです」

『それだけではありません』


 陛下に代わって、今度はブレアが言葉を継ぐ。


『水王国の部隊長、モモイ殿より連絡がありました。増援と無事合流し、同じく結界塔を破壊したと』

『あー! 何でそなたが言うんじゃブレア!』

『朝から通話の接続の為だけに呼び出されたんですから、これくらい言わせて下さい』


 スカイアの抗議に、内政官は澄ました風に言った。

 女王陛下は誤魔化すように一つ咳払いをし、


『ともかく! 結界塔も残すは一本と言うことじゃ!』

「陛下、恐れながらそれについてご報告が」

『む?』

「実は昨夜の内に、月王国所管の結界塔の破壊に成功しました」

『何と! それはまことか?』

「はい、月王国の兵員と、合同してではありますが」

『いや問題ない。むしろ望ましい展開じゃな』

『……車中泊ということは、貴方たちはいまシャコルナク外に滞在中なのですね?』

「その通りです、ブレア内政官」

『分かりました。月王国と至急会談を行います。別命あるまで、そのまま待機してください……ご苦労様でした』

「承知しました」

『それからギニース』


 唐突に名を呼ばれ、彼女は席を立つと、カリストのそばまでとととと駆け寄る。


「はい、ブレア様」

『貴女もご苦労様です。休息はきちんととるように。では通信終わり』

『おまっ……!』


 ぶつ切れたスカイアの声を最後に、木王国からの通信は途絶した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ