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第五十一話 顔を合わせて見合わせて

 確かに、彼女の緋緋色甲冑(ひひいろかっちゅう)の操作技術は素晴らしい。

 本来あれ程の動きを為すためには、相当な期間の習熟訓練が必要になる筈だ。

 それをひっくり返したのがあの翠の光、彼女の魔法にあるのだろう。

 マリエンネが彼女に、あれを譲り渡すのも理解は出来る。


 だがどれ程に彼女が優秀だととしても、只人には真にあれを使い熟すことは出来ない。

 恐らく彼女も、そのことを理解している筈だ。

 今、実感している筈だ。

 燃費度外視の出力設定、内臓したマナ貯蔵器の容量で賄える稼働時間など、たかが知れている。

 操縦者が、聖痕保持者であること前提の設計なのだ。


『あとどれ程に動けるかな、ギニース女史』


 嘯き、ドートートは『ビヒモス』の腕を緋緋色甲冑へと、彼女へと伸ばす。


『マリー、働け』

『わかってるよ!』


 火が燃え盛り、世界が揺らぐ。


「万却無塵・簡易版!」


 マリエンネの宣言と同時に、世界の見え方が変わる。

 彼女の世界に渦巻く外なる力が、悉く露呈されていった。

 マリエンネを拘束していた、地面が燃える。

 『拘束した』という概念が燃え果てたのだ。

 更には彼女にかかる過重すらも、燃え尽きる。


『馬鹿な、俺の領域内だぞ! この短時間で奪い返したというのか?!』


 目を剥き、ドートートが唸った

 混沌領域に限らず、結界など場所を必要とする魔法が重なる場合、それはいわば術者同士の陣取り合戦となる。

 いかにして相手の『領地』を奪うかの争いとなるのだ。

 そして既に『占領』された部分を奪うのは、更の領域に陣取るのに比べはるかに難易度が上がる。

 のだが。


「すごいでしょ! センセーがいいし、それに簡易版だから」


 自己流で側脈を編んでいたマリエンネにとって、エウロパの講釈は新鮮なものだった。

 彼女は外効系魔法(アウターマジック)に特化せざるを得なかった、正負の意味で達人と言える。

 先ずは芯を次に指向を設計し、側脈を織り連ねて。


 そしてドートートの発言も、大きな気付きとなった。

 混沌領域は、変えてもいい。

 それを前提とするならば、己の領域の、万却無塵の構築を根底から覆し、再構成すべきだ。

 そう、彼女は自ら設定した『絶対燃焼』を排除し、混沌領域を展開したのだ。


『ほいほい変えるものではないと、言っていたではないか!』

「応変しない奴の気が知れないって言ったのは、ドーさんでしょ!」


 言葉の応酬をしつつ、彼女はその身を空へと投じた。

 燃えるような赤い髪を、背からの炎と靡かせて、マリエンネはギニースを背後から抱き付く。

 降り注ぐ土石は悉く『燃え』つき、ただ鬱陶しいだけの添え物に成り下がった。


『デカブツは私が止める。ギニース、一旦下がれ。マリエンネ、補給を頼む』

『はい』

『りょーかい!』


 カリストの念話に応じ、ギニースとマリエンネが『土天蓋鳴(どてんがいめい)』を突き破り、『大いなる世界』からの離脱を図る。

 が、ドートートがそれを黙って通す筈もない。

 奪われた領域を取り返すべく側脈を編み、そして『ビヒモス』の両腕がそれを追う……


『何だ? 動きが……』


 その動きが、先ほどまでとは比べるべくも無く、緩慢なものとなった。


「う・ご・く・な」


 カリストが両手の糸を引き絞る。

 その言葉通り、『ビヒモス』の動きが更に緩慢なものとなっていく。


『疑似伝達系の異常か? 間がよすぎるぞ!』


 離脱していく二人を一旦放置し、ドートートは『ビヒモス』の自己診断算譜を奔らせる。


『何だこれは、糸?』


 仮想窓に写し出された『ビヒモス』内部は、無数の糸が巡らされているを示していた。

 当然だが、ドートートによるものではない。

 一体、いつの間に?


『……土中に隠し、土石の補充時に俺が自ら招いたというのか!』


「ご明察」


 『ビヒモス』の動作不良、それはカリストの奥義『意図(ウィック・ウィ)犯糸(キッド・リトゥン)』によるものだった。

 鋼糸を更に四分割した、極細の糸。

 それを対象内部に潜り込ませ、生物であれば神経系を、機械であれば伝達系をそれで乗っ取り、思うが儘に操る彼女の奥の手だ。

 単体相手ならば必殺に等しい効果であり、あまりに外法であるため封じていた魔法ではあったのだが……


「この段階に至って、出し惜しむのは愚の骨頂だ」


 カリストは更に糸を送り込み、支配を盤石なものにせんとする。

 これほどの巨大な物体の乗っ取りを図ったことは無く、未だ完全制御には至っていない。

 だが、彼が仕事をこなすには十分な状況のはずだ。


『働け、マコト』

『分かってますよ!』


 思わぬ方から飛び火をもらい、苦笑交じりに彼は応える。


『言われてやんのー!』

『喧しい!』


 嬉々として茶々を入れてくるマリエンネを一喝し、マコトはそのまま『ビヒモス』が撒き散らす土の雨の、更にその上を陣取る。

 降り注ぐ土は一定程度下降すると、急激に加速することから、混沌領域の影響にも高度制限があるようだった。 

 彼はそのまま、『ビヒモス』の直上で両手を合わせる。


「来たれ『聖者の落涙』」


 その手の内に、小さな青い光の粒が生まれた。

 合わせた両の手を、離す。

 それはそのまま、重力に引かれるがままに下へと落ちていく。


 まずい。

 直感的に、ドートートはそれをそう判断した。


『伸展拡張『赤き方へと(レッドシフト)』!』


 瞬間、世界は加速する。

 先ほどまでの鈍った動きはどこへやら、平時以上に動きを機敏なものとして、『ビヒモス』の肩部が伸び上がった。

 落ち来る青い雫を受け止めるべく、盾の様に先端を変形させながら。


「なんだ?」


 突如として変貌した不可解な動きの加速に、カリストは鋼糸の制御を更に緻密なものにしようとする。

 だがそれは、彼女の意図以上に過敏に蠢き、精密な制動が効かず一部『ビヒモス』の外部に飛び出すものすらあった。


「私の糸も加速しているのか!」


 ドートートが『大いなる世界』に追加した『赤き方へと』は、領域内にある万物の『加速』だ。

 『(かしづ)く害悪』、『土天蓋鳴』と組み合わせ土の雨を必殺の礫とする、或いは『加速』へ無作為に緩急をつけ、相手の動きを乱すことを目的とした進展拡張だが、今回は単純に己の動きを加速する為に行使している。

 そうでなくても繊細な制動を必要とする『意図犯糸』の制御の箍が外れることとなったが、これは副次的な効果に過ぎなかった。


 『ビヒモス』の下半分の大半を崩し、細い柱一本で大質量の上半分を支える。

 『大いなる世界』がなければ、ありえない造形だ。

 落ち行く青い光が、最早人型とは呼べぬほどに伸び上がった『ビヒモス』と接触する。

 その瞬間、目も眩むほどの大爆発が巻き起こった。


 『聖者の落涙』は、自由落下以外の移動方法を持たない破壊領域の発生装置だ。

 それは落着地点より真球状に爆発的に広がり、範囲内のあらゆる物質を分解する。

 土を足して肥大化しようとも、防げるものではない、のだが。


『近いな!』


 予想よりも遥かに高い地点での起動に、マコトは更に上空へと離脱しようとし……

 突如として目の前の風景が変わる。

 エウロパの『取り寄せ』だった。

 咄嗟の事だったのだろう、鉛の山の天辺に彼は降り立ち、体勢を崩してそのままそれを転がり落ちる。


「だ、大丈夫ですかマコトさん!」

「助かりました、エウロパさん。あれに巻き込まれるよりよっぽどましです」


 未だ青い光の爆裂収まらぬ空を見、痛みに顔を顰めつつも彼は言った。


「マコトか?」


 その背に、懐かしい声がかかる。


「……ヘルムートさん」

「やっぱりそうか! また会えて嬉しいぞ! ……ん? 何か顔立ちが変わったな? それに背も伸びてるような……」

「お久しぶりです。そりゃ背ぐらい伸びますよ」

「え? 十日も経ってないのにか? ニホンジンは成長が早いんだな」

「え?」

「ん?」

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