表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/175

第四十八話 面影を見て頭を振って

 ギニースの駆る緋緋色甲冑(ひひいろかっちゅう)が宙を舞うと同時に、ブラックウィドウ内部に無数の映像窓が浮かび上がる。

 その何れにも、破壊された呪痕兵が映し出されていた。

 彼女曰く、受信機の数を減らし、機体自身の処理能力を向上し、搭乗者の負担を低減する改造を施したとのこと。

 その上で、この仕事の速さである。

 彼女が危惧していたことを肌で感じつつ、エウロパはそれらを、流れるように確認していく。


「姉様」


 ややあって、彼女はカリストに視線をやった。

 彼女は頷き、通信機を立ち上げる。


「ヘルムート殿」

『おう、何だ?』

「城壁からこちらに、手を振ってもらえるだろうか」

『……念の為に聞くが……大事なことか?』

「無論だ」


 胡乱げに問うてくる彼に、彼女は大真面目に答えた。


『……少し待て』


 それに応じて、エウロパは天窓から屋上へと上がる。

 強風に靡く白頭巾を押さえ、彼女は前方を見やった。

 暫くして、何やら棒切れを振る、全体的に緑色をした人影が城壁上に現れる。


『おーい、これでいいかー?』


 少し遅れて、通信機からそんな声が響いた。

 それを背に受け、エウロパはその人物の足元、城壁の石材を標的に、出力を極度に抑えた『引き寄せ』を行使する。

 本来ならば彼女の手元に現れる筈の石材だが、低出力での行使によりそれが叶わず。

 逆にエウロパが石材の元に、城壁の元に『引き寄せ』られることとなった。

 対象が視界内にあることが前提の、裏技のような使用方法である。


「うおっ?!」


 突如として目の前に現れた白い外套の少女に彼、ヘルムートは思わず身を仰け反らせた。


「突然の訪問、失礼します。私はエウロパ・カリエイン。貴方様がヘルムート様で間違いございませんか?」


 冷静な挨拶に、彼の驚愕は一時のものとなった。


「ああ、相違ない。あんたがあの戦闘車両からの使者……!」


 だかヘルムートは、また別種の驚愕を感じることとなる。

 半端な所で途切れた言葉を怪訝に思うも、エウロパの暗緑の瞳が目の前の青年の表情を確認するや、得心したように頷いた。


「……似ていますか?」


 言いつつ彼女は、頭部を覆う白い頭巾を後ろに外した。

 彼女の金色の髪が露になる。その色は天頂に行くにつれ、白けたものとなっていくようだった。


「……マコトに言われたのか?」


 そう問う彼に、彼女はただ、微笑んだ。


「いや、今はそれどころじゃないな」

「はい、その通りですね。ご所望のもの、この辺に積んで宜しいでしょうか」


 雑念を落とすように頭を振って言うヘルムートにエウロパは頷き、かつては何か物資が積まれていたであろう敷物を指差す。


「そりゃ構わんが……手ぶらに見えるが?」


 彼の疑念に応えるように、彼女は手にした杖で石の床を突いた。

 光と共に現れるのは、積み上がる、呪痕兵の大小の残骸の山。


「すごいな。あんた……エウロパさん、空間魔法の使い手か。だからさっき、あんな登場の仕方をしたんだな」

「これで、足りますでしょうか」


 曖昧に笑うエウロパに、彼は薄紅色の瞳を細めて頷く。

 そしてヘルムートは、左手に握っていた鈍色の果実を天に掲げた。

 それと同時に、残骸の山を中心に金色の方陣が浮かび上がる。

 宮廷魔術師たる彼女も見たことがないそれは、何を意図したものか即座に判ずることは出来なかった。

 だか目の前で、呪痕兵の色が()()()いくのは解る。

 純白に禍々しい朱の呪痕が奔るそれが、彼の掲げる果実の色に、鉛の色に変じていった。


「これは……?」

「錬金術って、知ってるかい?」

「……はい。主に、薬学の一流派として扱われている学問ですね」

「主じゃないのは?」

「詐欺の代名詞です」


 その言葉に、ヘルムートは笑声を上げた。


「手厳しいね。だがまあ、そんなもんだろう。錬金術は等価交換、なんて言われちゃいるが、あくまで錬金術の観点からの等価交換だからな。経済的に見りゃ、およそ受け付けられんだろ」


 例えば、と彼は続ける。


「金を作るのが錬金術の命題の一つだが、それを作ろうとした場合、どれ位の量の銀が必要になるか、分かるか?」

「……作ろうとする金の量の、十倍くらいでしょうか」

「残念、二万倍だ」


 文字通りのけた外れの量に、エウロパは目を丸くした。


「だからまあ、真性の錬金術師が詐欺師扱いされるのも、むべなるかなって奴だ」


 錬金術的見地から等価であったとしても、経済的見地からすれば非効率の極みでしかない。

 そしてその言葉が締めであったかのように、山と積まれた呪痕兵の残骸は、すべてが鈍色へと成り果てる。


「よし」


 それと入れ替わる様に、ヘルムートの手にした果実模型は眩い黄金の輝きを宿していた。


「結局これは、何を為されたのですか?」


 彼の手元をしげしげと見やり、エウロパはそう疑問を呈する。


「『価値無き物()』を『価値有る物()』に成り上げるのが錬金術なら、その逆もあるってこった。『価値有る物(呪痕兵の残骸)』を『価値無き物()』に成り下げ、その差分を己のものとする。あらゆるものを最底辺たる鉛に変じる、言うなれば錬鉛術士って奴だな、俺は」

「そういうことですか……」


 納得したとばかりに、彼女は頷く。


「さ、俺はこれで負傷者を治療してくる。それが終わったら……大物狩りだな」

「あ、少々お待ちを」


 駆け出そうとするヘルムートを呼び止め、彼女は指先から金色の鎖を生み出した。

 振り向く彼の胸元に、それは沈んでいく。


「……これは?」

『こういうことです』


 耳からではなく脳裏に、目の前の金色に髪を染めた少女の声が響いた。

 驚きに目を見開く彼の内に、声は続く。


『貴方にお声がけたい方が、他にもいらっしゃいますから』

『それは……』

『ヘルムートさん』

『ヘルムート様』


 義弟予定の少年と、家付の侍女の声。


『……おう、久しぶりだな。ちょっと待ってろ直ぐに行く』


 それに応えて、彼は改めて詰め所を抜け、駆け出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ