第四十七話 雌雄見えて
『待って下さい、マコトさん。何をするつもりですか』
黒髪の少年からの不穏な念話に、エウロパは思わず問いかける。
『さっきのブラックウィドウの、十倍位の爆発物を投下しようかと』
想像以上に物騒な事を言う彼に、彼女は額に手を当てた。
『ヘルムート様から言付けがあったのですが』
『!!……あの光、やっぱりヘルムートさんか。彼が何と?』
『怪我人の治療の為に、呪痕兵の残骸が欲しいと。命に関わる負傷者は治療済みらしいのですが、下手に動かすのが危険な方達が、まだ多数いるのでそれが必要だと』
『なるほど』
『……なるほど、なんですね。正直なところ、何故呪痕兵が必要なのか、さっぱりわからないんですが……今は置いておきましょう』
『うん、折を見て説明する。先ずは時間稼ぎか』
『それはあたしがやるよん』
ひょいと手を上げ、マリエンネが会話に加わる。
『あたしが相手なら、いきなり叩き落とされることもないでしょ。聞きたいこともあるし』
『そう、だな』
『私も、行く』
言葉少なく、割って入ったのはギニースだ。
頭を振りながら身を起こす緑金髪の末妹を、カリストは気遣わしげに支える。
『無理するな』
『大丈夫。マリーさんの、おかげで、寧ろ、調子が良い』
ありがとう、と彼女はマリエンネへと頭を下げた。
『いいってことよ』
親指を立てて良い笑顔をする赤髪の少女に、ギニースも微笑みを返す。
『緋緋色甲冑で、出れば、呪痕兵を、走査、できる。エウロパ姉さんで、回収できるはず』
『あたしが乗っても良いんだけど……』
『マリーさんは、もう乗らないほうが、いい』
『……そう?』
首をかしげるマリエンネに、彼女は頷いた。
『しかし呪痕兵の残骸を集めたとて、どのように城壁まで届けますかっ! 流石にブラックウィドウでは向かえないでしょうっ!』
ジェインが尤もな事を言う。
包囲の輪を崩すことはできないが、然りとて大荷物を運搬できるのはブラックウィドウだけだ。
『それは私が何とかします。どのみちヘルムート様とも念話を繋ぎたいですし、城壁までは私が行きます』
『何か手段がお有りですか』
エウロパの言葉に、ライムが声を上げる。
『はい、大丈夫です』
こくりと頷く彼女を、カリストも是として頷いた。
『イオ、運転は私が代わる。『武器庫』から緋緋色甲冑を出してくれ』
『え゛……本気で言ってるの、この非常時に。絶対ダメだからね? ギニースちゃん、代わって』
『はい』
何の擁護もなく、ギニースが立ち上がる。
傷ついた表情をする長姉の肩に手をやり、エウロパはふるふると首を振った。
『えーと、じゃああたしは先に出るから、ギニちゃんは準備が出来たら追ってきて? マコっちゃんはどーするの?』
何となく気まずい雰囲気に、マリエンネは努めて明るい風に言う。
『……この体格差じゃ、『悪鬼螺鈿の義腕』での牽制も限度がある。マリーが来るなら一旦消えて、場所取りに専念するよ』
『りょーかい、んじゃ出るね』
『……その格好でいいんですか?』
エウロパに言われ、彼女ははっと自分を見下ろす。
青白基調の、麗糸を飾る瀟洒な、およそ向かない華美な服。
マリエンネは顔を彼女へと向け、長い白手袋の端をぐいと上げるとにやりと笑う。
『訓練の成果をお見せします、センセー』
***
炎の翼を羽ばたかせ、マリエンネは宙を舞う。
目指すは一対の巨大な黒い義腕と格闘している、土石の巨人だ。
彼女の姿を確認するや、マコトは『悪鬼螺鈿の義腕』を消し去り、頷きかけると『隠身歩通』姿を消した。
「ドーさん!」
警戒も顕に周囲を見渡す土人形に、マリエンネは元気もよろしく声をかける。
『……おお、マリエンネか。めかし込んだな、見違えたぞ』
「へへん」
思いの外好意的な低めの男性の声に、彼女は胸を張った。
『それで、どうした? もう此方に戻る気になったのかね』
「いや、まだしばらく休暇続行のつもりだけど……ドーさんは裏切り者ーとか言わないの?」
純粋に疑問そうに、マリエンネは赤い髪を揺らして首をかしげる。
『言わんさ』
器用に巨人の肩を竦め、ドートートは言った。
『お前はあの方を『見た』。であるならば、真の意味であの方を裏切れまい。パメラの馬鹿者は、理解出来なかったようだがな』
「ま……そうだね。じゃあ、いまからあたしのするお願いも、そういう風に聞いてくれる?」
『……聞くだけ聞こうか』
その間が彼の意向心境を如実に語っていたが、彼女は構わず言葉を続ける。
「通して」
『無理だ』
「……即答?」
余地も、にべもない言葉に、彼女は苦笑する。
『そうとも。お前の仕え方が、寄り添い方があるように、俺にもそれがある。そしてそれは、お前のそれとは相入れない』
「で、あの都市を襲撃してるのは、その一環?」
振り返らず、ただ右手の親指だけでマリエンネは背後の城塞都市を指した。
『その通りだ。内乱に窮する主要都市を捻ってしまえば、こちらに手出しする猶予などなくなるだろう』
「だとしても、ドーさんらしくないね。遠きに眺めてほくそ笑んでるもんだと思ってたよ」
『……この段に至って、未だ内輪揉めなど見るにも耐えんよ。引導を渡してやるのが、俺なりの温情と言うものだ』
やや含みのある物言いに、彼女は鼻を鳴らす。
そして何かを思い出したように、ぱっと顔を上げた。
「ああそうだ! ドーさん、あたし友達ができたんだよ。紹介するね!」
熱風が渦を巻き、陽炎に空が揺らぐ。
朱金の巨体が、マリエンネの背後より姿を現した。
『緋緋色甲冑?! 馬鹿な、その機体は……!』
『……そういう、認識は、あったんだ。やっぱり、考えを、改める必要が、ある、か』
驚愕の声を上げるドートートに、彼女は呟くように応じる。
『ユピタール木王国所属、ギニース・カリエイン』
朱金の装甲に翠の光を灯し、ギニースは改めて、そう名乗った。
『私は貴方を、糾弾する、つもりだった』




