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第三十六話 才能に懊悩して

『夕食の準備が整いましたので、皆さん食堂にお集まりください』


 エウロパからの、極めて便利な念話によるお知らせが、屋敷の皆の脳裏に響く。


『わーい』


 一際いい反応をするのは、マリエンネだった。

 兎にも角にも美味い飯というものに飢えている彼女に、カリストの料理は好評だった。

 異世界人たるマコトをして美味と感じるだに、彼女の料理の腕前は相当なものと言える。

 いそいそと食堂に入ってみれば、既にマリエンネが卓についており他一同もばらばらと集まってきた。

 ただ一人、ライムを除いて。


『ライムさん?』

『申し訳ありません。私めは後程いただきますので、皆様お先に召し上がられますよう』


 そんな言葉が返ってくる。

 一同は顔を見合わせ、そして視線はマコトに集中した。


「……」


 何と答えたものかと、彼は腕を組む。

 そんな彼を尻目に、ジェインはカリストに声をかけた。


「ライム殿に届けて参りますので、盆をお借りできますかっ?」


 彼女は一つ頷くと立ち上がり、厨房へと姿を消す。

 ややあって戻ってきたカリストの手には、かなり大きめの長盆が携えられていた。

 無言でそれをジェインに渡す。

 彼は眉を上げ一礼すると、二人分の料理を盆に載せ、今度は一同に礼をすると足早に食堂を後にした。


「ナイスお節介」


 彼を見送った後、イオは長姉に親指を立てる。


「もう食べてもいい?」


 卓の縁に手を乗せ、マリエンネがうずうずと声を上げた。


「……どうぞ、召し上がれ」

「いただきまーす」


 溜息交じりに言うカリストをよそに、満面の笑みを浮かべて手を合わせる彼女。


「んまい」

「それは重畳」


 凄まじい勢いでぱくつくマリエンネを、彼女は満足げに見る。

 他一同も食事に手を出しだすが、彼女ほど能天気ではあれないようだった。


「あの格好で、どうやって食事を摂るのかと、疑問には思っていましたが……」


 視線と共に、エウロパはマコトに問いかける。


「……彼女、体が物凄く柔らかい上に、足先も器用でね」

「それは、ちょっと見てみたい気もするね」


 イオの茶化すような言葉に、彼は苦笑を返す。


「まあ普段は、彼女の主人が食べさせてあげてたけど」

「どっちが主人なんだ、それは」

「何にせよ、些か頑なに過ぎませんか? マコトさんは、事情をご存じなんですよね?」

「勿論知っている……けど、僕が話すのも……」

「しかし常にああでは、不測の事態に陥りかねないぞ」


 彼女の個人情報をマコトが話すのはどうかという話だし、だがカリストの主張も理解できる。


「マリー」

「ん?」


 この会話に全く参加せず、一人食事の手を止めていなかったマリエンネが、ちろりと視線を彼に転じた。


「君のその色眼鏡は聖痕を隠すための物だろうけど、外すこと自体は特にやぶさかじゃないよね」

「まあ、ね。見てあんまり楽しいもんでもないだろうから、普段から外しはしないけど」

「じゃあその眼鏡がないと、見境なしに目から熱線を照射して、辺りを火の海にするとしたら、外すかい?」

「あたしを放火魔かなんかだと思ってる? 外すわけないでしょ、そんななら」

「……ライムさんの拘束服が、そうであると?」


 エウロパの言葉に、他一同が驚きの視線を向ける。

 マコトは、否定しなかった。


「僕が知っている頃から変わりがなければ、それと類似した事態になるのは想像に難くないね」

「……思ったよりも、深刻なのだな」

「流石に伊達酔狂で、あの格好はしないですよ。ただあれを外した時の彼女の力が、僕の最初の冒険で勝利の決定打となったのも、事実なんですけどね」

「強すぎる薬は毒と同じという話か」


 カリストの言葉に、マコトは頷く。


「本当、こういう時、自分の凡人具合が嫌になりますよ」

「凡人ですか? 職業英雄を謳っていた貴方が?」


 皮肉とも取られそうな彼の言葉に、エウロパは首を傾げる。


「それは売り言葉だよ、エウロパさん。僕自身、特殊な才能がある訳じゃない。ただたまたま、強力な道具が使えるってだけで、ライムの様に懊悩するものがないんだ。彼女の問題解決に、僕は力になれない」

「……」


 納得いくような、そうでないような微妙な表情で、エウロパは押し黙った。


「だからジェイン君やマリーの様な特異な能力の持ち主に、彼女の相談に乗って欲しいとは思っていたんだけど」


 視線を向けれられたマリエンネは、ん? とばかりに首を傾げる。


「その手の悩み、無さそうだな」

「馬鹿にしてる?」

「いや、褒めてる」

「そ」


 言って彼女は、最後の甘味を平らげて、ごちそうさまと手を合わせた。


「お粗末様でした……そういえばエウロパ、陛下に何か『取り寄せ』しろと言われていなかったか」

「あ、はい。そこの箱二つがそうです。マリエンネさん宛てのようで……」

「え、あたし?」


 素っ頓狂な声を上げ、彼女は自分を指差す。


「はい、箱の上に、貴女宛ての手紙が置いてありました」


 食堂の入り口脇に置かれた、一抱えはある大きさの保管箱へ彼女は歩み寄った。

 その上に乗った封筒を拾い上げる。

 彼女は顔を顰めた。


「どしたの?」


 興味も津々に、マリエンネと同じく箱に寄ったイオが声をかける。


「あたし、字、読めないんだけど……」

「あたしが読んだげよっか?」

「うん」


 マリエンネは素直に頷き、それを手渡す。

 彼女は懐から封切りを取り出し、封筒上部を切り開いた。


「読み上げるよ?」


 イオの確認に、彼女は再び頷く。


「『親愛なるマリエンネ殿。この度は我が臣下への御助力、謹んで感謝を申し上げ、これを与えるものとする。出身、種族を鑑みるに、其方の境遇は想像に余りあるもの。カリエイン家一同どのものも心優しき者たち故、甘やかされるのがよろしかろう。ユピタール木王国女王スカイアより』……ナニコレ」


 およそ一国の王が書く手紙の内容には思えないが、封蝋まで押してあった以上、本物なのだろう。

 微妙に嫌そうな顔で、マリエンネは一箱目を開けた。

 中に入っていたのは、大量の服飾品だ。

 平服に始まり夜会服、寝間着、髪飾りに靴、装飾品等々。

 その大きさを見るに、彼女の為のものと見て間違いない。


 もう一つの箱も、開けてみる。

 冷蔵機能を施されていたものらしく、開けた途端に白い冷気が立ち昇った。

 中には、王都でも有名処の菓子が所狭しと詰め込まれている。

 見たこともない物も入っているので、それはおそらく宮廷料理人の手によるものだろう。

 わーお、と覗き込んだイオが感嘆の声を上げた。


「ええ……ちょっと何これ。あんたらの所の王様、何処の誰とも知れないような得体の知れない輩の為に、こんなもん送り付けてきたの?」

「必要なことへの投資は、惜しまれぬ方ですので……」

「これのどこが、必要なことなのよ」

「君の境遇を考えれば、必要だろう? 精々甘やかされて、甘いものでもたらふく食べればいいよ」

「……」


 マコトの軽口にマリエンネはぷいとそっぽを向き、そのまま食堂を抜け出す。

 イオは服飾入りの箱を持ち上げて、その後を追った。


「マリーちゃーん、お着換えしましょー!」

「こっちくんなー!」


 愉快な鬼ごっこが始まったようだ。

 ギニースは無言で立ち上がり、菓子入りの箱を持ち上げると、ゆっくりと彼女らの後に続いた。

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