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第三十四話 束の間に邂逅して

「お疲れさまでした、皆さん」


 ブラックウィドウに合流した二人を迎え、改めてエウロパが言う。


「最後の最後でお役に立てず、汗顔の至りですっ!」

「そういってくれるな、ジェイン殿。今回に限っては、私も立つ瀬がない」

「こればかりは仕方ないでしょう、カリストさん」


 毒というものの害悪がよくわかる、戦闘体験ではあった。


『……あの』

「ん? どしたのギニースちゃん」


 緋緋色甲冑(ひひいろかっちゅう)からの末妹の声に、イオが振り向く。


『出たいので、マコトさん、と、ジェインさん、車内に……』

「失礼致しましたっ!」

「至急引っ込みます」


 男二人は連れ立って、ブラックウィドウへと入っていった。

 その様子を見、ギニースが呟く。


『脱着』


 背の操縦口が開き、粘液に塗れた、下着姿の彼女が露わとなった。


「便利、だけど、何とか、ならないかな……」


 辟易とした様子で何とか顔を拭いながら、地に降り立つ。

 二度目の体験ながら、耐衝剤、耐熱剤の使用には思うところがあるようだ。


「ギニース様、お手を私めに」


 ぼやく彼女の前に、拘束服姿の少女進み出る。


「私めに触ってみてください」

「え、でも」


 汚れてしまう、の言葉を遮り、ライムはもう一歩ずいと寄った。

 観念し、恐る恐るといった具合に、ギニースは彼女の服を指先で突く。

 途端、彼女の全身に纏わりついていた凝膠体(ぎょうこうたい)が、後方へと一斉に吹き飛ばされていった。

 目を丸くするギニースに、ライムが微笑みかける。


「やはり。『清浄』の魔法は私めに接触したものにはきちんと機能する模様。クラリッサ様も、気に入りのスカーフが汚れた際に、同じことをされていました」

「え、そんなことしてたの、彼女」

「マコト様はまだ引っ込んでいてください」

「はい」


 車内から顔を出しかけた彼を、やや強めに牽制する。


「ライムちゃん」

「? はい」

「……できれば向きを考えて、やって欲しかったな」


 ギニースのほぼ真後ろにいたイオが、全身粘液まみれとなって訴えかける。


「も、申し訳ございません!」


 彼女は慌てて、侍女服姿の少女へと駆け寄った。


***


「モモイさん」


 車内に入ったマコトは、何故か座席の上で正座をしている彼女へと声をかける。

「マコト殿。無事のご帰還何よりです」

「これを」


 彼は手にしたものを、モモイへと差し出した。

 銃剣、『昏い星間』。


「お役に、立ちましたでしょうか」

「最後の一手となりました」

「……ありがとうございます。これで幾許か、面目を保てたでしょう」


 目を伏せ、彼女は静かに礼を言う。


「モモイ殿、この後はどうされるおつもりですかっ?」

「……一度、本国に帰還しようかと。いつまでも厄介になる訳には参りませんし、何より団員達の確認と回収を行わなければなりません」

「それはっ……」

「大丈夫です。襲撃現場には発信装置を残してあります。本国からの救援部隊も、既に向かっているはずですので」


 ジェインを宥める様に、彼女はにこりと笑う。


「それに、これで終わりにするつもりはありません。補給の後、必ずや追いつきます」

「承知致しましたっ! ですがモモイ殿の到着を待たずして、小生らが全てを終わらせているやもしれませんっ!」

「心強い」


 微笑を浮かべモモイは、席を立った。


「モモイさん?」

「ここから現場は、そう離れていません。ここで失礼いたします。……ライム殿の件ですが」


 ジェインの背筋がびくりとする。


「マコト殿、お預かりいただくこと出来ましょうか」

「僕は勿論、構いませんが……」

「お願いします。知己の方がいる方が当然良いでしょうし、ライム殿を水王国の人間に接触させるのは、あまり好ましくないかと思われますので」

「……ご判断、感謝します」


 頭を下げるマコトに、彼女は首を振った。


「礼には及びません。では、またいずれ」


 車外へと歩み去るモモイの後に、彼らも続く。

 佇むカリストに、彼女は声をかけた。


「ここで暇とさせていただきます、カリスト殿」

「急なお話ですね、モモイ殿」

「実は本国から救援部隊が派兵されているのです。私は現地に戻らなければなりません」

「……承知しました。その部隊に、結界塔の破壊をお任せしても?」

「え?」

「我々はこのまま、最北の結界塔……月王国との境界に向かわなければなりません。手も時も惜しいのです」

「本当によろしいのですか、カリスト殿」


 暗に花を持たせるという彼女に、モモイはやや苦しそうに言う。

 そんな彼女に、カリストは何のことかとばかりに首を傾げて見せた。


「かたじけない」


 一礼の後、モモイはライムを見据える。


「ライム殿には、本当に迷惑をおかけした。私は一度水王国の部隊と合流する故、ここまでです」

「え……では私めは」

「とーぜん、私たちと一緒だよね? マコっちゃんの仲間なら私たちの仲間だし!」


 言ってイオは、少し高い肩と肩を組んだ。


「問題なければ」


 彼女はカリストとライムに、交互に視線を送る。

 カリストは頷き、ライムは深く頭を垂れた。

 モモイは満足げに頷き、そして踵を返す。


「では、またいずれ」

「モモイ様!」


 ライムの声に、彼女は振り返った。


「御武運を」

「貴女も、ライム殿」


***


『ねー、なんか通信機の着信音が鳴ってるんだけど』


 歩み去るモモイの背を見送った直後、一同にマリエンネからの念話が届く。


『起きたのか、マリー。大丈夫か?』

『エウロパちゃんに治癒魔法もらったし、あたしも自己治癒魔法なら使えるから。まだ呼吸すると痛いけど。それよりこれどーすんの? 結構長く鳴ってるから出ちゃうね』

『なんでお前が出るんだ!』


 カリストが慌ててブラックウィドウへと駆けこんでいった。

 残された一同は一瞬顔を見合わせ、遅れて車内へと向かう。


『あー、テステス。女王陛下がただいま、伝声装置のテスト中』


 マコトたちが入るころには、既に何やら緊張感に欠ける音声が、車内に響き渡っていた。

 マリエンネはカリストに首根っこを掴まれ、ずるずると後部へと引きずられていく。

 映し出される立体映像は、宣言通りの女王スカイアだった。


『おるかおるかー、聞こえておるかー? ん? ブレアよ、これは繋がっておるのか? 大丈夫か?』

『比較的大丈夫ではありませんので、陛下は一旦御口を閉ざされますよう』

『そうか、主がそういうのなら大丈夫そうじゃな』

『……』

「……陛下に置かれましては、ご機嫌麗しく」

『おお、エウロパ! 息災か?』

「はい、陛下の恩寵のおかげにございます」

『うむ』


 エウロパの言葉に、彼女は満足そうに頷く。


「それにしても、陛下御自らの通信とは、何事かございましたでしょうか」

『うむ、結界塔の守護者を打破したと聞いてな、矢も楯もたまらず回線を開いた次第じゃ』

「なるほど。お気にかけていただきありがとうございます。また、第二の結界塔の守護者も、今さっき水王国の部隊と合同で討伐致しました」

『なんと』


 吉報に、スカイアの目が大きく見開かれる。


『相違ありませんか?』

「はい、ブレア内政官。ただ一つ、問題が生じています」

『何でしょう』

「水王国の部隊がひっ迫した状況にありましたため、我らの攻略対象である結界塔の破壊に至っていないのです『マリエンネさん、結界塔の機能停止はどのようにすれば?』」

『塔最上階にある、結界維持用の回路と宝珠を壊せば止まるよ』

『派兵が必要ということですね』

「その通りですが、防衛機構は崩壊していますし、塔も最上階の宝珠を破壊すれば機能を停止するとのことです。少人数で問題ないでしょう」

『……()()()()()()?』

「……」


 ブレアの切り返しに、エウロパの返答が一瞬遅れる。


「実は、結界塔の守護者を保護いたしました」

『保護?』


 ブレアに代わって、今度はスカイアが声を上げた。


「はい、彼女は日王国出身のドゥルス族です。全世界に投影された火王国の山脈破壊の放送を見て出奔し、合流したようなのですが」

『ああ……なるほど』

「陛下のご推察通り、恨み骨髄を良い様に使われ、最前線に立たされてしまったようなのです。それで説得し、保護致しました」

『ちょっと……!』

『黙っていろ』


 文句がありそうなマリエンネの肩に、カリストは手を置く。


『なるほどな。しかしてエウロパよ、そなたが考えるに、そのものは信ずるに値すると?』

「はい。彼女がなければ、第二の結界塔の守護者を打倒することは難しかったかと」

『あいわかった。直ちに少数精鋭の、工作部隊を派遣する』

『陛下』

『なんじゃ、ブレア』

『……いえ、承知いたしました』

「迅速なる処置、感謝いたします」


 深々と首を垂れるエウロパに、スカイアは王者の貫禄をもって頷きかけた。

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