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第二十八話 思惑は交錯して

『エウロパさん!』


 マコトへの返答の間すら惜しみ、紡いだ『引き寄せ』の魔法が発動する。

 マリエンネの姿が、エウロパの前に現れる。

 彼女は膝を崩し、両腕を床に付き咳き込んだ。

 吐き出された血が、床を汚す。


迂闊(うがづ)……」

「しゃべらないで! 伝えたいことがあるなら念話を!」


 苦しげに唸りつつ血の泡を零す彼女を、エウロパは横臥させた。


『エウロパさん! モモイさんとライムも引き上げて、すぐに! ギニースさん、出来る限り下がれ! 近づくな!』

『わ、わかりました』

『一体、何?』

『毒だ!』


 ギニースの疑念に、マコトは端的に答える。


「……何が下賎だ、毒使いが」


 怒りを滲ませ、彼は前進を開始した。

 マコトの様子に、パメラ達の表情は怪訝なものとなる。


「愚鈍なる凡夫! ご自身の体調の変化すら、鈍くていらっしゃるの?」

「あいにく健康優良児でね、毒や病気には無縁なもので」

「……その指輪、ですわね。忌々しい。あの方からの恩寵を、福音を拒むなんて!」


 未だ輝くそれを睨み言う彼女に最早答えず、マコトはさらに踏み込んでいく。


 彼の左手の指輪は唯一、過去の異世界から自身の故郷へ持ち帰ることが出来たものだ。

 『恒常の指輪』。

 彼の体へ悪影響を及ぼすものを除去し、一定の状態を保つというもの。

 本来は極端な寒暖差や湿気など、命にかかわりかねない自然環境に対抗する為のものであったのだが、その方向性から副次的に病毒すらも抗した。

 生水を飲んでも腹を下さず、逆に酒にも酔えないようになるが、いかなる世界の如何なる環境でも、彼の体調は左右されない。


 彼の前進に合わせて、『ジェイン』達も歩調を合わせた。

『ジェイン君、大丈夫なのか?』

『これらは毒を想定する前の結晶体故っ! ただこれ以降、追加は難しいですっ!』

 毒という因子を考慮の外とした演算結果の、言わば平行世界からの『ジェイン』十人と、マコトが現状での戦力ということになる。


『マコト様、ジェイン様、私めも出られます』

『……何か毒に対抗する手段をお持ちでっ?』

『私めの拘束具には、『清浄』の魔法が施されております故』


 清浄の魔法とは、主に衣服など身に着けるものに使用されるもので、衣服であればそれそのもの着た者を、あらゆる汚れ、穢れから保護するというものだ。

 拘束具を自ら着込み、片時として脱ごうとしないライムに、彼女の主が手向けた贈り物であった。


『……わかった。出るタイミングは任せる』

『承知致しました』

『……マコっちゃん、ジェインちゃん』

『マリー?』

『ご無理はなさらずっ!』


 弱々しい思念に、思わず二人はそう声をかける。


『気を付けて、もうパメラの混沌領域の中だよ。銀の呪痕兵やら銀溜まりやらで隠蔽してたけど、たぶん最初から少しづつ、領域用の側脈(バイパス)を巡らせてたみたい』

『液体金属の分身と、毒の瘴気はその結果か』

『うん。普通の外効系魔法(アウターマジック)にしては、強力すぎる』

『考え得る、対応策はありますかっ?』


 ジェインの問いかけに、マリエンネの思念が僅かに止まった。


『……混沌領域は、聖痕(スティグマ)から供給されるマナを使った世界干渉、効率度外視の力押しなの。だから自動化することは出来ない。つまり、止めるには術者本人を倒すしかない』

『分かりやすいけど、それが一番難しそうだな』


 十字剣で分身体と切り結びながら、マコトは苦い思考を走らせる。

 辺り一面、銀雫を滴らせる樹木、銀溜、そしてパメラの銀色似姿だらけだった。


『マリエンネさんが混沌領域を展開した時は、膨大なマナの奔流を感じましたが』

『……あたしの時は、ゼロから一気に展開するために、大量のマナを使って一帯に側脈を巡らせる必要があったから』

『今の敵は徐々に側脈を仕込み、準備の段階から欺いていたと』

『……うん』

『混沌領域の維持にも、マナを消費するんですよね?』

『……うん、相当ね。あたしの初回ほどじゃ、勿論ないけど』

『成る程』


 エウロパはそれに頷き、思考を纏める。


『混沌領域の維持を自動化出来ないのであれば、本体は私が見れば判別できます』

『そっか、ロパ姉は他人の作った側脈とマナの流れを感知できる。マナの供給を受け、側脈への采配をしている個体があれば、それが本体だね!』


 良い考え、とばかりにイオは手を打った。


『……だが、毒に汚染された領域内の相手を、どうやって確認する』

『マリエンネさんの症状を鑑みるに、恐らく肺を侵されています。蔓延しているのは、不燃の綿かと。であれば、息さえ止めれば……』


 カリストの疑念への、エウロパの回答の思考が尻すぼむ。

 凡そ、現実的な考えではなかった。


『この念話の様に、思考ではなく視覚を共有する魔法は有りませんかっ!』

『残念ながら……』


 ジェインの提案に、彼女は否定の念を送る。


『……ねえ、エウロパちゃん』

『何ですか?』

『……映像でもいいの?』

『はい、大丈夫です』


 過去、第一次奪還軍が持ち帰った資料から、呪痕兵の召喚式を割り出したのだ。

 現在進行形の映像でも、読み取ることに全く問題はない。


『なら、一つ手が……』

『……大丈夫なのか? その手とやらではなくて、君が』


段々とか細くなっていくマリエンネの思念の声に、マコトがやや不安げに言う。

それに、少しばかりの笑みを含んだ声が返ってきた。


『しょーじき、しんどい。本当は、あたしがやるべきなんだけど』


無理そうだわ、と息を吐く。


『だからこれ、ギニースちゃんにあげる』


***


 マリエンネを直接この手で打ちのめしてから、この混沌領域の、『金甲瘴鉱(きんこうしょうこう)病禍事(やまがいのこと)』の本領を発揮させるつもりだった。

 高濃度の鉱毒の散布などで倒したとて、全く以って満足ならない、納得できない、実感できない。

 だがまあ、多少の気は晴れた。

 無事では、いられ無いだろう。

 後はこの下賤を討ち滅ぼし、ゆっくりと溜飲を下げよう。


 そもそも、あの新参者が分を弁えないのが悪いのだ。

 もともと、自分と他二名の結社だった。

 ドゥルス族たるを誇り、己が力を知らしめる為、結成された組織……とは名ばかりの殆ど世捨て人の様なものだったが。

 子供の夢の如き夢想は、あの方が加わったことで、気宇壮大な野望となった。


 『水』と『木』、そして『土』を率いた彼女は、自分達が細々と築いた版図を瞬く間に、七王国中に拡大した。

 彼女に屈服し、心酔し、忠誠を誓い、そして聖痕を賜った。

 他二人や『水』達の様に、何時の間にか得ていたのとは違う、選ばれ、賜ったのだ。


 誇らしいこと、この上なかった。


 そして人は集い、各地に協力者を置き、そして世界に、ドゥルスの王たるを示して見せたる日は来た。

 火王国の山々を潰し、それを世界へと晒し。


 そして彼女が来た。


 生意気にも、両の瞳に聖痕を宿して、何か知った風な口をあの方に叩いていた。

 偉大なるあの方の、何を知るというのか。


 高を括っていた自分の目に映ったのは、心迷い、動揺するあの方の姿。

 胸を押さえるあの方を、宥める様に『水』が肩に手を当て、『木』が彼女を落ち着かせ。


 そして彼女は『火』となった。


 あの方に(まみ)える前から聖痕を得、あれ程にあの方の心を揺さぶる彼女。


 許せる筈も、なかった。

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