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第二十六話 悪意へ連れ立って

「さて、ジェイン君の意向を全く考慮せず、決めてしまった訳だが……」


 マコトの言葉に、一同は一斉に当の特務騎士を見る。


「……ここで小生が、否と首は振れぬでしょうっ」


 苦笑いを浮かべ、ジェインは応えた。


「禊が必要なら、要望してくれてもいいよ?」


 彼女にしてみれば大分神妙な様子で、マリエンネは言う。

 ライムも気遣わしげな視線を、彼に向けた。

 それにジェインは、気取った風もなく、何時ものように笑う。


「そんなものは必要ありませんっ! 貴女が親兄弟の、国の仇という訳でもなし、責め立てる理由がありませんねっ!」


 それでも貴女が悪党であれば、と彼は続けるが……

 ライムを除いた他一同、笑う他無かった。


「それじゃあ……?」

「歓迎する、と単純には申しませんが、受け入れるとは申しましょうっ!」


 そうは言いつつも、彼は拍手をする。

 釣られるように、それは車内に広まった。


「やっぱ好少年じゃん。いい男に捕まったね、ライムちゃん」


 何と返したものか、彼女ははにかみ俯く。


「さてそうなりますと、あとはモモイ様ですね」


 未だ座禅を組み瞑想する彼女を見、エウロパは顎をひいた。


「まあ同じ服を着たよしみで、ちょっとは庇ってあげよう」

「ありがとーイオちゃん!」

「……多分あたしの方が年上なんだけどな……」


 微妙に唸る彼女をよそに、カリストがモモイへと足を向ける。


「モモイ殿」

「……聞いていました。ジェイン殿が是とされるなら、私から申す事は何も御座いません」


 姿勢は崩さぬまま目を開き、彼女は思いの外静かにそう応えた。


「確認しておきたいのですが、彼女が貴国の攻略担当だった結界塔の守護者だったということで間違いは」

「ないよ」


 向けられた視線を受け止め、マリエンネは頷く。

 そして彼女は色眼鏡を外した。

 その有り様に、モモイは息を飲む。


「あたしは『七曜』が『火』のマリエンネ。お見知り置きを。そしてあんたが相手をしたのはあたしの同僚、聖痕保持者(スティグマホルダー)『金』のパメラ・ダンクルベール」

「元、ではないのか?」

「捨てたつもりは無いんだよね。いうなら休職中?」

「そのような半端な心根で、この先を挑もうと?」

「そう」

「『あの方』の進む先に、皆の破滅しかなかったとしたら?」

「その時は、あたしが『あの方』を倒して、あたしが央になるしかないね……」


 彼女は肩を竦める。


「そうならないように、せいぜい足掻くよ」

「……ならば私から言う事は、やはり一つも御座いません」


 言ってモモイは、再び瞳を閉じた。

 マリエンネも、色眼鏡をつけ直す。

 そして彼らに向き直り、


「それじゃ、そう言うことで」


 ヨロシクね? と彼女は笑った。


***


「敵影」


 ギニースの飾り気のない一言が、空に響く。


「あたしのことじゃないよね?」

「反応が、曖昧。形態計測、不能?」

「じゃああたしのことじゃないね?」

「黙っていろ」


 マリエンネの戯言を、カリストが切って捨てる。

 助手席に駆け寄ったイオが計器に取り付き、表示を確認した。

 平時は光点で表示される召喚方陣、或いは呪痕兵。

 今はまるで霧がかかったかのように、ぼんやりと仄かに光を放っている。


 ギニースちゃん、と声掛けしようと、イオが彼女を見上げようとしたところで、車内に緑の光と、警報が走る。

 ギニースは懸架装置を切り替え、操舵装置を急旋回させた。

 ブラックウィドウの巨躯が反転する。

 本来なら身体を椅子に固定していない乗客は吹き飛び、窓を割って外に飛び出しかねない暴挙とも言える運転だが、『機操展改(ザ・マニピュレーター)』はそれを許した。


 続いて響くのは、車両側面後部に設置された機銃の音。

 見ればいつの間にか進行を阻むかの様に、銀色の壁が塞いでいた。

 機銃の掃射でそれの破壊を試みるも、それは深い水底に沈む小石のように、波紋をたてることしか出来ない。


「嫌に、なる」


 眉を顰め、不愉快そうに彼女は呟く。

 ここまで武装が役に立たないとなると、ぼやきたくもなるものだった。


「奴か……!」


 窓の外の様子に、モモイが呻くように言う。

 忘れようもない、銀に侵された悪夢のような光景が広がっていた。


「……あたしが出ようか?」

「そんな試すような真似を、するつもりはないぞ」


 マリエンネの提案に、カリストは渋い顔をする。


「そういうんじゃなくて、打つ手あんまりなくない?」

「まあ確かに、実体のある攻撃は通用しそうにないね……」


 悔し気に、呻くようにイオは言った。


「あたしは『火』だし、『金』には強いよ? あと通りそうなのって、ジェインちゃんの弓と、マコっちゃんの銀剣くらいじゃない? マコっちゃんは他にもなんかありそうだけど」

「マコっちゃん言うな。……まあ、期待には沿えるよ」

「それじゃあ」


 言ってマリエンネは、躊躇なく上着を脱ぎ捨てる。


「何で脱ぐ」

「だって燃えちゃうじゃん」

「あれは合理的な恰好だったのか……」


 呻くように言うマコトを無視して、彼女は真っ赤な水着の如き出で立ちとなった。

 蹴破るように外へと飛び出し、


砲炎弾羽(Blasting)!」


 彼女の背から炎の翼が生じ、それが炎の弾丸となって銀の壁を爆砕し、周囲に澱む銀の溜まりを蒸発させた。

 彼女に続いて姿を現したのは、『選びし者の剣』を携えたマコトと、二人のジェインだ。

 ジェインは各々、双剣と大弓を構えている。

 あたかも彼らを率いるように登場したマリエンネに、しかし皮肉げな言葉が投げ掛けられた。


「『火』のマリエンネともあろう方が、今や首輪付きですの? 嘆かわしい限りですわ」

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