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第二十二話 彼らの出会いに期待を持って

「……流石に説明はして、もらえますね? マコトさん」


 感動の再開な風をしている状況に、申し訳なさそうに口をはさんだのはエウロパだった。

 他一同も無言で頷く。

 特にジェインは、もの言いたげだった。


「ああ、勿論……と言いたいところなんだけど、僕にもわからないことの方が多いな」


 目元を拭って、マコトは彼らに向き直る。


「私めが、何かご迷惑をおかけしましたでしょうか」


 おずおずと、渦中の少女が声を上げた。


「いや、そうじゃない、こっちの問題だ。ライム、この人たちは僕の今の仲間で……」


 そんな彼女に、彼は首を振り、一通りの他己紹介をする。そして。


「……皆、僕のした昔話は覚えてる?」


 翻って話を彼らに戻した。


「それは、流石にな」

「……もしかして」


 やや戸惑う様にカリストは頷き、何かを察したイオが驚きの声を上げた。


「そう。彼女は僕の最初の冒険を共にした仲間。僕を召喚した魔術師の従者で……」

「ファルファニア王国がハーゼンクレファ家付下僕、ライムと申します」


 椅子を降り、床で膝を折り深く深く頭を垂れる少女。


「……そういうのはやめてくれって、口酸っぱくして言った筈なんだけど」

「申し訳ございません! 染み着いた性根、未だ拭い去る事出来ずに居りますれば……」


 慌てて立ち上がり、そして椅子に座り直す彼女に、マコトは頭を抱えた。


「……少し混乱してきたな。つまり、ライム殿もマコトと同様、異世界からの召喚された者ということか」

「そうなのですか? マコト様がいらっしゃるので、ここがチキュウのニホンなのかと思っておりましたが」


 カリストの言葉に、ライムは首を傾げる。


「……残念ながら、そうじゃない。いや、幸運にも、かな。それにしても僕と君が同じ世界から召集を受けるって、一体どんな確率だ? いやそもそも、ライムはどうして召喚されたんだ」

「呼び声を、聞きまして。私めもその時人を探しておりました故、その声に応えましたところ、私めの知る王宮とは違うも、豪奢な室内に突如として転移することとなりました。そこでまた拉致されたものと判断しまして、封印術式を行使し、今に至っております」

「不穏な単語が出てまいりましたねっ! 過去に拉致されたご経験があるということですかっ!」


 ジェインの言葉に驚いたような表情をしてそちらを見、そして慌てた風に口を閉じた。

 そんな彼女へ、彼は頷き、そして笑いかける。


「……彼女は少し特殊な力を持っていて、過去にその力の利用を強要されることがあったらしい。それを助けたのが」

「クラリッサ・ハーゼンクレファ様。私めの主にございます」


 マコトの口ぶりから、特に秘密にすべきことでもないと判断し、そう付け加える。


「その方が……?」


 伺う様に、エウロパがマコトを見る。

 彼は目を閉じ、そして頷いた。


「……封印術式っていうのは?」

「クラリッサ様にかけていただいた、私めに精神的、肉体的な制限をかける魔法です。使用すると特定の権限を持った方が解除するまで、私めの精神は自閉し、肉体は拘束されることとなります。マコト様が今、第一種表層の精神自閉を解除してくださいましたので、こうして会話ができるようになった次第です」

「そこまでする?」

「私めが望んだことです。肉体拘束は、何時ものことでもございますし、それ前提の訓練を受けております故」


 イオの言葉に、ライムは神妙な顔で言う。


「ライムさんがこの世界に召喚されてから何があったか、教えていただけますか?」

「申し訳ございません、精神自閉中は短期的な記憶しか残っておらず……先ほどの戦闘行為の記憶が最新のものとなっております」


 エウロパの質問の答えに、ジェインが頷く。


「よい動きでしたっ!」

「その節は申し訳ございませんでした」

「お気になさらずっ! 当然の自衛行為と言えるでしょうっ! ……小生からも、宜しいでしょうかっ!」

「なんなりと」

「これは、なんでしょうかっ」


 言って彼は、左の手の甲を見せた。

 そこには花弁の様な刻印が三つ、輪を描くように浮かび上がっている。

 それを見て、ライムは驚きに目を見開いた。


「私めの拘束術式を、開放する権限の証です。刻印一つで一層の解除が可能で……三つということは、完全解除の権限をお持ちということになります」

「なぜ、それが小生にっ?」

「……わかりません。解除権限の付与は、拘束術式自身の判断によるものでございますれば」

「解除したほうが、よろしいでしょうかっ」

「……願わくば、このままにしていただきたく」

「わかりましたっ!」

「ええ? いいの?」


 その判断の速さに、イオが驚きの声を上げた。


「自らの拘束を、自ら望まれるということは、相応の事情がおありなのでしょうっ! 意に反することを、小生も望みませんのでっ! ですがっ!」


 そこまで言って、ジェインは彼女の前で膝を付き、視線を合わせる。


「解放を望まれるのであれば、いつでも申し付け下さいっ! それに伴う責任も、小生が負いましょうっ!」

「え?」

「大いなる力には、大いなる責任が伴うっ! 我が王より賜った言葉ですっ! ライム殿に大いなる力があり、それ行使する責任を負いきれぬと判ずるのであれば、その開放の権あるものが、それを担うのが当然と言えましょうっ!」

「なぜ、そこまで……」

「今この世界は、未曽有の危機に瀕しておりますっ! 取り得るあらゆる手段を講じたいっ! それがひいてはライム殿の安全も繋がるでしょうっ! まあそれでなくともっ!」


 茫然とこちらを見る彼女に、そう力強く頷き、そして視線をマコトへと向けた。


「今の小生の心理、ライム殿の主に力を貸した、マコト殿のそれに通ずるものがありますねっ!」

「……そこで僕を引き合いに出さないでくれるかな?」


 苦笑する彼に、ジェインは呵々と笑う。


「あの、えっと……」


 彼の言葉の意味するところにようやく思い至ったライムが、顔を真っ赤にして口ごもる。


「まあ追々、ご検討いただければっ! それでモモイ殿の状態は如何なものでしょうっ!」


 彼女にそう笑いかけ、ジェインはエウロパに次の話を向けた。


「さっきも言った通り、大きな怪我はありませんでした。あとは意識さえ戻れば、といったところです」

「とはいえ時間は惜しい。彼女の意識の回復は待たず、次の結界塔に向かおう」

「じゃあさ、その話はこっちで進めておくから、ジェインちゃんはライムちゃんに状況説明してくれればいいんじゃない?」

「なんでお前が仕切るんだ……」


 急に割って入ったマリエンネに、カリストが呆れた風に言う。


「でもいい考えだと思うんだけど」

「……まあ、そうだな。そういうわけだ、ジェイン殿。ライム殿のことは任せる」

「承知致しましたっ!」

「え、ええぇ?」

「あ、ご迷惑でしたら、無理にとは申しませんっ!」

「いえっ、迷惑などとは!」

「では、宜しくお願い致しますっ!」

「は、はいぃ……」


 顔を真っ赤にしたまま、ライムは消え入りそうな声で返事をする。

 それを遠巻きに見ながら、マリエンネは満足そうに頷く。


「あたしいい仕事したんじゃない? マコっちゃん」

「マコっちゃんて言うな。……まあ、見事なボーイミーツガールではあるね……」

「ジェインちゃんてあたしには当たり強いけど、中々好青年ではあるよね。好少年?」

「君に当たりが強いのは仕方ないだろう……」

「そこまでにしておけ」


 呆れ果てたように、カリストがため息交じりに言う。


「失礼しました。ライムは自己評価が異常に低くて、これを機にそれが少し改まるといいんだけど」

「親か」

「それに近い見方は、していたかもしれない。それにしても」


 私事で恐縮だけど、とマコトは座席にもたれかかる。


「『期待』が持てるかもね、この世界は」

「……浅ましくも第一に願うのは、この地の平穏ではありますが」


 その横顔に、エウロパは言った。


「貴方の心にも平穏が訪れることも、祈っております。マコトさん」


 その言葉にマコトは、嬉しそうに。

 笑った。

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