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第二十一話 貴女に再会して

 表情もなく、ただ視線を向けているだけで何も見ていないような金色の瞳に、彼は声もなく見入る。

 時間は無限のように感じられたが、それは実際ほんの僅かな時の経過でしかなかった。

 数瞬の後、少女の体が糸が切れたように崩れ落ちそうになる。

 とっさに前に出、ジェインは彼女を抱きとめようとした。

 彼の動きを受けてか、少女は踏みとどまり、逆に地を踏みしめて、彼に蹴打を放つ。

 足の脛を狙った蹴りを、ジェインは右足を上げて躱した。

 瞬時に引き戻される彼女の左足は、今度は高々と振りかぶられ、彼の側頭部を狙う。

 重い一撃を、それでも翳した右腕で受けきった。

 その反動を利用して、彼女は更にもう一度引き戻し……


「お待ちくださいっ! 小生は貴女の敵ではありませんっ!」


 理性も躊躇いも感じられない、機械的で正確な攻撃を繰り出す少女に、ジェインは必死に声を上げる。

 その言葉が通じていないのか、それとも耳に入っていないのか、彼女は戻した左足を留めることはなく前蹴りを放った。

 胴を狙ったその一撃を、彼は半歩右に踏み込み、それを右腕で抱えるように抑え込む。

 そしてそのまま彼女の身を押して前進し、押し倒した。

 倒れ込む先に自らの結晶体を生み出し、腕の使えない彼女の頭部を、柔らかく受け止める。

 共に横倒しになりながら、ジェインは少女の顔を見て言う。


「もう大丈夫ですっ! お疲れ、さまでした」


 観念したのか、あるいは状況が理解できたのか。

 少女の動きが、ぱたりと止まった。

 未だ警戒を残しつつ、彼は起き上がり、少女の背に手を回して上半身を起こす。


「ジェイン君大丈夫ー?!」

「はいっ! 大丈夫ですっ! 一名保護しましたっ!」


 イオの問いかけに、彼はそう返し、片膝をつく。

 そして改めて、隣の少女を見た。

 立ち上がれますか、と声をかけようとし、一度は崩れ落ちかけた彼女の姿を思い出す。


「失礼しますっ!」


 ジェインはそう少女に言葉を投げかけ、その背と膝下に手を回し、横抱きにして立ち上がった。

 そしてその重さに驚く。

 少女自身の重さというより、この拘束具の重量だろう。

 革製に見えたそれは、重金属のような、ずっしりとした手ごたえを感じさせた。

 こんなものを着た上でのあのような鋭い動きに、肝が冷える思いだった。

 少女は特に抵抗するでもなく、抱かれるがままに身を委ねている。


「そちらは如何ですかっ?! 二人乗りの二輪車のようですが、この方には運転は無理ですっ! 運転手の方がいると思うのですがっ!」

「いるよー! 変わった格好の女性で、多分武官の方かな! 大きい怪我はないけど、気絶してる!」


 少女を抱いたまま、ジェインは声の元へと歩み寄る。

 イオと共に、倒れた女性を見るのはエウロパだ。

 カリストは、ブラックウィドウを離れずに周囲を警戒している。

 ギニースとマコト、そしてマリエンネの姿は外にはない。

 おそらくギニースが運転席に戻り、マコトはマリエンネを監視しているのだろう。

 ジェインの接近に気づいたイオが、彼の様相にひゅう、と口笛を吹いた。

 それには答えず、彼は横たわる人影に視線を落とす。

 白い胴衣に緋袴を穿き、桃色がかった黒髪を頭の後ろの高いところで一つにまとめた女性が横たわるのを認め、


「モモイ殿……」

「彼女が、例の?」

「はい、一体何が……っ」

「……とりあえず、車内に運びましょう」

「はいよ!」


 ひょいとイオが女性……モモイを肩で担ぎ上げた。

 彼女らに続いて、ジェインは物言わぬ少女を抱えたまま、足を進める。

 視線を感じ、左下を見ると、目が合った。

 照れもなくひたと見据える少女に、彼は笑顔を返した。

 何かが通じた分けでもないだろうが、少なくとも不正解ではなかったようだ。


「……?」


 奇妙な熱を、左の手の甲に感じるが、流石にこの格好で確認する術がない。

 いったん置いておいて、彼らもブラックウィドウへと乗り込んだ。


「どうだった?」

「予想通り、水王国の特戦隊の生き残りでした。ジェインさんの言っていた、例の部隊長です。それともう一人、奇妙な風体の女の子が」


 マリエンネに付いていたマコトの問いに、エウロパが背後の彼らを指さした。

 頷き、そちらに視線を向け……驚愕の表情を浮かべ、彼は突然立ち上がる。


「ど、どうしたのマコっちゃん」


 マリエンネのマコっちゃん呼びに突っ込みを入れることすら忘れ、彼はジェインの抱えた少女の姿に目を見張る。


「ライム……?」

「え?」

「……この方のお名前ですかっ?」


 それには答えず、マコトは恐る恐るといった風に、二人に近づいた。

 尋常ではない彼の様子に眉を顰めつつ、ジェインは身をかがめ、抱いた少女を座席に座らせる。

 マコトは少女の目の前で片膝を付きその瞳を見る。


「ライム、僕だ、マコトだ。わかるか……?」


 その少女は確かにライム、という呼びかけに反応し、彼に視線を向けるも、返答はなかった。

 そんな彼女の挙動に、マコトは表情を暗くする。


「まさか、また自己封印術式を使用してるなんて……一体何があった?」


 言って彼は、自らの左手の甲を見た。


「まだ僕に、権限があれば……」


 すると何もなかったそこに、花弁のような形の小さな光が一つ灯る。

 彼はそれを見、一つ頷き、呟く。 


「第一種表層封印、解除」


 その言葉に、目の前の少女の額が輝いた。

 マコトの手の甲の光と同じ形の紋章が、そこに浮かび上がっている。

 ジェインは左手に奔る蟻走感に、思わず目を落とした。

 そこには彼女の額の輝きと同様の、弁の如き光が三つ、輪を成すように光り輝いている。


「おおっ?!」


 困惑に声を上げるも、ややあってその光は収まった。

 今まで表情らしい表情もなかった少女の顔に、柔らかさが宿る。

 たった今、瞳が開かれたようにまぶし気に、目を眇め。

 そしてしぱしぱと目を瞬かせ、そして正面の人影に見据えた。


「……マコト様?」


 その言葉に彼は、マコトは目の端に涙を浮かべた。

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