第二十話 貴女に出会って
「ねえ、こんな服しかないの?」
イオと同じ侍女服を着せられ、マリエンネは不服そうに頬を膨らませる。
「すぐ出せる、背丈のあった服がこれしかなかったんです」
我慢して下さい、とエウロパが諭した。
ブラックウィドウは現在、マリエンネが管理者をしていた結界塔ではなく、その北へ向かっている。
彼女の言から壊走していると思われる、水王国の部隊の救援のためだ。
マリエンネという管理者は押さえているし、最終防衛戦も崩壊している。
最悪、木王国から破壊工作の人員を派遣してもらってもいいだろう。
「まあゼータク言える身分じゃないけどさ。で、それで何が聞きたいの? さっきも言ったけど、あたしそんなに話せることないよ?」
言って彼女は一同を見渡す。
ジェインとカリストに挟まれ、対面にはマコトとエウロパが座っていた。
自動操縦に変更した運転席には、ギニースに代わってイオが座っている。
当のギニースは一番広い後部座席でうつらうつらしていた。
一応、完全には気を許していない構えではあるが、ギニースと、ことマコトについては一切警戒していない素振りだった。
「それでも、小生達より知らぬと言う事はないでしょうっ!」
そんな彼に思うところはあるようだが表には出さずに、ジェインは隣の少女を睥睨する。
「そりゃまあ、そうだろうけどさ」
「そちらの目的は……聞いたから取り敢えず良いとして、次は陣容かな。『七曜』と名乗っていたみたいだけど」
唇を尖らすマリエンネに、まあまあとマコトが話を向けた。
「文字通り、七人いるんですか?」
「うん」
エウロパの追加の問い掛けに、彼女はあっさりと頷く。
「聖痕を持った七人のドゥルス族で構成されてるよ。木火土金水日月で、あたしが『火』。セルゲイが『木』ね」
「セルゲイ……彼は結界塔を造ったが、管理者ではないと言っていたが」
「そう、セルゲイは別命でラボ籠りしてるらしいよ。何をしてるのかは知らないけど。あと『水』は、我らが央の専属護衛だね。残りの五人で、結界塔を防衛してる」
思い出した様に言うカリストの言葉を、マリエンネはやはり肯定する。
問いを黙秘するつもりはさらさらないようだが、深い情報かというと微妙なところだった。
「では、今向かっている、一つ北の結界塔についてですが」
「水王国の部隊が敗走したとこね。そこは金が防衛についてる。我らが央に心酔してて、『水』をすっごい妬んでて、あたしも当初はすっごい目で睨まれたな」
「『水』については分かりますが、貴女に対しても?」
「うん。何でかは知らない」
「本当に何も知りませんね、貴女っ!」
「だからそう言ったじゃん!」
思わず声をあげるジェインに、彼女はほら見たことかと、何故か勝ち誇った様に言う。
「そ、そう言えばジェインさん、水王国の派遣部隊に知己がいるみたいでしたけど」
過熱しそうな様相に、エウロパは何とかそう水を向けた。
「……スイクン機械兵団の団長、ソノ・モモイ殿ですねっ! 実は一度、非公式で手合わせしたことがありますっ! 卓越した銃剣捌きと、二輪駆動機の操縦技術を御持ちでしたっ! 生半に遅れを取る方ではないはずですがっ!」
「……御無事を祈るしか、ありませんか」
「強い人なら多分大丈夫でしょ、多分ね」
「ねえ、ちょっとあれ見て!」
またも険悪になりかけた空気を吹き飛ばすように、運転席のイオが叫ぶ。
窓の外を見れば、黒い煙が狼煙の様に立ち上っていた。
「エウロパ、ギニースを起こせ。イオ、そのまま現場に向かえ。警戒を怠るな」
***
横転し、爆発炎上する側車付き自動二輪機から離れ、少女は立ち尽くす。
足元には女性が一人、横たえられていた。
車輪が破裂し、自動二輪が制御を失う寸前に、運転手たる彼女の襟首に食らい付き、共に脱出したのだ。
立ち尽くす少女の前に、数体の呪痕兵が姿を現す。
流動し、全身を波打たせる奇妙な外観のそれは、停滞なくその腕を刃と化し斬りかかった。
少女から、抗いの手は伸びない。
両腕を胸元で交差するよう設計された、白い革製の拘束服で繋ぎ止められているからだ。
少女はなす術無く切り伏せられる……事はなかった。
少女は長い緑の髪を小揺るぎもさせず、最小限の動きで斬撃を躱すと、お返しとばかりに蹴打を浴びせてその足を蹴り散らす。
転倒したそれの胴中央と頭部を踏み抜き、反動をつけて別の一機に飛び付いた。
肩、と言うより背中で体当たりを敢行、その呪痕兵を吹き飛ばす。
それに巻き込まれ、転倒した二体の頭部をまとめて蹴り抜き、最後の一体に向き直った。
だがそれは、少女が手を……足を下すまでもなく、高速振動する刃で真っ二つに分かたれる。
「御無事ですかっ!」
全機の沈黙を確認して、少年は立ち尽くす少女に向き直り……その動きが止まる。
それが、ジェイン・ジェア・ジェイルと、無何有のライムの、初めての邂逅となった。




