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第十五話 反撃の狼煙を上げて

「混沌領域とは言い得て妙ですね。辺り一帯は本当に混沌を極めています」

「確かにね。この岩は何? シンちゃん」


 突如として口を開けた洞窟の中、イオは辺りを見回しつつ言う、


「……シンちゃんは止めてくれ、イオさん。これは核となる石を成長させて有利な地形を造形する『防具』。合流出来たのもこれのお陰だけど、ただ、エウロパさんが言いたいのは、これのことでは無いよね?」


 シンがそう言葉を向けると、彼女は頷く。


「はい。周囲一帯、かなりの範囲に渡り、彼女の側脈(バイパス)が刻みこまれています。その時に使用されたマナの膨大さにあてられ、かなり動揺しましたが……」


 もう大丈夫です、と一つ息を吐く。


「思うところは色々あるが、喫緊の懸案は二つ」


 カリストの科白に、一同の耳目が集まる。


「一つ、彼女に指を指されると灰になること。二つ、攻撃をしても通用しないこと」


 沈黙。


「聞いただけで、絶望的なんだけど……」


 ようようと、イオが呻く様に言った。


「あの『指差し』は、防げないと思ったほうがいいね」

「あの、鏡の障壁の事ですか」


 エウロパの指摘に、シンは首肯する。


「あれ、隕石の直撃にも耐えた代物なんですけどね……」

「隕石、ですか。世界樹の枝葉を彷徨う、星界の迷い子ですね。とある伝承では、ひとかけらの隕石の落下で、都市一つが壊滅したとされていますが」

「……聞きたいことは色々はありますが、その隕石です」

「あんな小娘の人差し指がそんなに重いの?」


 自分を棚に上げて、イオは驚愕の表情を浮かべた。


「ただ、それとさっきの大岩の灰化から、推察出来ることもあります」

「それ、は?」

「『六夢鏡協(むむきょうきょう)傅符(ふふ)』も、『岩山(がんざん)石林(せきりん)礫川(れきせん)枯庭(かれにわ)』も、元を辿れば一つのもの。96枚で一つの障壁だし、枯庭に至っては一つの石から分化している」

「なる、ほど」

「いや何が分かったのギニースちゃん?!」


 納得の表情を浮かべる末妹に、イオが突っ込みを入れる。


「彼女の、認識次第と、いうこと」


 マリエンネが指差した物体が燃え尽き灰となる、という事象が発生するのであれば、『指差し』一つで全ての鏡は燃え尽き、岩山の一角どころか、分化した全ての岩々は全て灰となり、彼ら纏めてその下に埋もれているはず。

 そうはならなかったと言うことは、彼女が、独立した一つの物体と認識した物にしか、影響が及ばないということ。


「つまり?」

「囮が、有効」

「成る程っ! 小生の出番ですねっ!」


 物分かりよく、ジェインが言う。

 そんな彼を見、ギニースは物言いたげにシンを見た。


「どうしました?」

「……ここは、貴方に、有利を成す、地形との、ことだけれど――」


 彼女の説明と提案に、彼は眉を上げ、立ち上がる。

 そしてそのまま壁に手を付く。

 硬い岩が蕩けるように、横道が開いた。


「繋がりました」

「ありがとう」

「待ってギニース。イオ、貴女も同行して。『武器庫(アームザック)』の整備用工具を使って」

「分かった。行こ、ギニースちゃん!」


 ギニースは頷き、立ち上がる。

 そして彼女はシンに一礼し、姉と連れ立って横穴へと姿を消した。


「……あの子が自分から、あんな事を提案するとは」


 意外そうに、少しばかり感慨深げにカリストが唸る。

 ブレア内政官の言葉を尊重した上で、何が出来るか検討した、その結論なのだろう。


『実現出来れば、有効な策ではありますねっ! となると、残るは最後にして最大の問題ですがっ!』


 攻撃しても、通用しない。

 『指差し』を凌ぐ手立てがあっても、倒す手段がなければ、何れ倒れるのはこちらだ。


『で、直接やりあったお二人さんの感想としてはどうなの?』


 イオからの念話に、シンとカリストは沈思する。


『……クッションでも殴ったかような感触でしたね』

『布の束に糸を滑らせたようだったな』

『あとは?』

『……何かが』

『燃えるような音が、聞こえた』


 沈黙が落ちる。

 訳が分からなかった。


『燃えるって、何がでしょう』

『見当も付きませんねっ!』

『……攻撃が燃えたんじゃないの?』


 イオの言葉に、再び沈黙が落ちる。


『攻撃が燃えるって、何だ……?』

『そんなこと言ったら、指さしたら燃え尽きて灰になるって何って話になるでしょ。そういうものなんじゃないの、その……混沌領域っていいうのは』

『……確かにそれが、一番適した表現かもしれません』


 エウロパが彼女の言葉を肯定した。


『周辺一帯を、彼女の側脈が相当の密度で張り巡らされています。もはや侵食の域……彼女の『体内』と言っても過言ではない程です』

『何があってもおかしくはないと?』

『そこまでは言いませんが、彼女にとって都合のいい空間にはなっているのは確かかと。ただどれほど状況をお膳立てしようとも、これほどの強力な効果を何の条件付けもなくできるとは思えません』


 シンの問いかけに、彼女は肯定とも否定とも取れない返答をする。


『彼女の言葉を信じるならば、聖痕(スティグマ)より供給される膨大なマナを使い、側脈を編み巡らせて、一帯を自身の一部と看做し、擬似的な内効系魔法(インナーマジック)を行使していると考えられます』

『親和性のない物体の光脈(レイライン)の代わりに、いずれ消え去る側脈を埋め込んで無理矢理拡張型(エクステンド)内効系魔法としているのか。何という浪費……』

『というか、内効系魔法はそんな無茶な事が出来るんですか?』

『出来なくは……ないかと思います。過去、己の身体を稲妻や炎に変じさせた大魔法使いの逸話もありますし。通常では成し得ぬことを、自己の内にて完結させる、という条件付けあっての事かとは思いますが』

『マリ……エンネの混沌領域もそうだと』

『だけでは足りないと思います。拡張型内効系魔法と同等の条件だけでは、あれ程の効果は発揮できないでしょう』


 他に条件があるのだとしたら。


『認識』


 呟くような念話が響く。


『ギニース?』

『視覚による、事象の、認識、だと思う』

『何かあったの?』

『この動甲冑、尋常じゃない数の、光学感知器が、搭載されてる。普通の人では、処理できない、情報量に、なるはず。でも彼女は、それを扱っていた。彼女にとって、一番重要なのは、目』


 何かの作業中か、やや念話に雑音が混じるものの、確信の込められた彼女の言葉。


『整理しよう』


 それを受けて、カリストは言う。


『彼女は周囲に多数の側脈を仕込み、それを以って一帯を己の『体内』と看做すことで内効系魔法を行使している。『指差し』による対象の灰化と、『攻撃燃焼』による攻撃の焼却? 無効化? は彼女への接触が条件か。加えて視覚による認識が必要である』

『『指差し』対策としては囮と遮蔽物で常に身を隠すこと』

『お任せくださいっ!』

『『攻撃燃焼』については……不意を突く等、彼女の認識を搔い潜った攻撃をする必要がありそうですが、カリスト姉様の鋼糸を見抜くとなると……』

『いや、それについては考えがある』

『僕にも多少、思うところがありますね。エウロパさんの協力も欲しいところですが』

『何なりと』


 胸に手を当て、エウロパは頷く。


『イオ、ギニース、そちらはどうだ?』

『細々したところは終わってるよ! あとは大物だけだけど……』

『先行、させます。先に、初めて下さい』

『よし。では……』


 カリストの言葉に、全員が立ち上がる。


『反撃、開始だ』


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