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第百四十六話 共闘は妥結して

「そもそもなんだけど、この世界が滅ぶっていうのも、いいように操作された情報ってことはない?」

「ない」


 マコトの疑念に、ドートートは首を振る。


「根拠は?」

「マナ循環の観測結果、だな」


 今のこの世界、アルジアスを廻るマナの流れは、現在極めて脆弱だ。

 外部寄りのマナを引き寄せる、無為なるマナの誘引者がいるにもかかわらず。

 周辺世界との繋がりを強める、無垢なる光脈の牽引者が巡ったにもかかわらず。

 今この世界の状況は、人間でいえば老年期のそれ。

 果実でいうなら、完熟したそれ。

 人なら倒れ、実なら落ちる。

 そんな、刻だ。


「仮に俺が、『七曜』の手綱を握ったとしよう。そして転生体の不具合を……余分な機能を絶ったとしよう。その上で君たちは、我々の計画に乗るか?」


 その言葉に、一同は顔を見合わせる。


「信用ならぬと乗らなかったとして……世界を滅ぶを前提とした、対応についての代案はあるか?」


 容赦はないが、真理でもある問いかけだった。

 座して死を待つか、それとも本意ではないにしても、生き残る術に縋るか。

 確かに、代案なければ、選ぶしかない。

 それは確かだ。

 だが。

 手が、挙がる。

 皆の視線が集まる。

 エウロパに。


「対応策があると?」

「……正直まだ思いつきの段階ですし、先ずはマコトさんに通すべき話なんですが」

「僕?」


 自らを指差す彼に、彼女ははいと頷く。


「……実は先日、ライムさんにかけられていた帰還魔法の解析が出来ました」

「確か時限式で発動する、転送門を開く魔法でしたか?」

「はい」


 ライムの言葉に、彼女はこくりと頷いた。


「それで?」

「私がマコトさんを『取り寄せ』た際に取得した座標とそれを組み合わせれば、マコトさんの故郷に『門』を開くことも出来るでしょう。そうすれば既存の魔道具である転移門で、アルジアスとそこを繋げることも、理論上は出来るはずです」

「……!」


 エウロパのその発言に彼は、マコトは背を仰け反らせる。


「それで何の解決が? 『移住先』の事情はどう勘案する? 彼の故郷とやらは、アルジアスの全住民を迎え入れ出来るほど、懐深い世界なのか?」

「……そうだね、懐は深いよ。底なしだ」

「ほう?」

「何しろもう、僕しかいないからね」

「……何?」

「僕の故郷は滅亡してる」


 悲壮感もなくただの世間話のように言って、マコトは肩を竦めた。

 滅びぬように、敗れぬように、負けないように、呼び出し乞われ救助の手を伸ばし続けた彼だが、故郷を救うことは出来なかった。

 そして時間は戻らない。

 だから。


「終わったことだ。だから場所を提供することは、やぶさかじゃない」

「滅んだ理由は何でですかねぇ」

「ヴォルフラム」

「大事なことでしょう? 毒やら病気の蔓延が原因なら、おいそれと足を踏み入れる訳にはいきませんからねぇ」


 咎めるようなドートートの声に、ヴォルフラムは首を振った。

 尤もな懸念ではある。が、


「原因は不明だけど、その心配はないよ」

「と、言いますと?」


 マコトは黙って、左手の甲を曝した。

 正しくはその中指に嵌められた、青い宝石が輝く銀の指輪を。


「『恒常の指輪』。病毒や自然環境の変化に反応し、それが及ぼす僕への影響を打ち消すって代物だけど、故郷でこれが反応したことはない」

「……」

「ちなみにパメラの鉱毒が効かなかったのは、これのおかげだね」


 彼の返しに、ヴォルフラムの眉間に皺が寄る。


「それに心配なら、君らの情報を開示してくれればいいんじゃ? そちらも次の移住先に、目星はついてるって話だったと思うけど」

「……その通りだな」


 ドートートの呟きに反応して、その傍らに仮想窓が立ち上がった。

 マコトの目からは、意味不明な文字列の羅列としか映らないが、彼には意味ある情報として認識できているようだ。

 最後に映し出されたのは、その星の圏外撮影された航空画像。

 半分以上を海洋が占める、青い星の写真だった。


「……ちょっと待ってくれ」


 左手を額に当て、右手をドートートへと伸ばし、マコトは呻く。


「どうした?」

「その映像、拡大できる?」

「? ああ」


 その要請に従い、彼は空中の映像を拡大した。


「……」


 それを見て、今度こそマコトは完全に言葉を失う。

 海洋、大陸、そして島。

 ……社会の教科書で見たような。

 彼のよく知る、世界地図のような。

 そんな写真だった。


***


「……まさかこんな写真を、再びお目にかかる事が出来るとはね」


 マコトの呟き。

 それに車内の視線が集まる。


 何なのだ、一体。

 この世界は。

 『彼女』と同じ顔の少女との邂逅に始まり。

 あまたの世界を渡って、一度たりとて起こり得なかった『再会』を果たし。

 そして行き着く先は、二つに分かれていたはずの道の、辿り着く先は、『故郷』。

 

 何時もの様に呼び出され、流されるように手を伸ばし、漫然と流れ作業のように、世界を救ってきた。

 そんな中、奇跡のように訪れたこの世界。

 期待、していると。

 嘗て彼女に言った。

 この世界に、希望があると、それを期待していると。

 そう言った。

 だがそれは、今はもはや、張り巡らされた陰謀のように感じられていた。

 お膳立てられた道をたどり、この世界に。

 希望ある、期待ある世界に、追い立てられたかのような感覚。


 だが、だとしても。

 助けを求めてきた声を、拒絶する理由になりはしない。

 大きく、息を吐く。


「マコっちゃん?」

「地球だ」

「チキュウ?」


 マリエンネの問いかけに、マコトは仮想窓を指差し答えた。


「チキュウって……この映像がか? お前の故郷の?」

「はい」

「……つまり我々が当てにしていた移住先は、彼女の想定した案と同一ということか」

「そういうことだね」


 呻くように言うドートートに、彼は最早何時もの様に言う。


「どう? 対案は出たよ」

「……馬鹿な、草案すらない構想を対案だと主張するのか? こちらは『代陸』の準備さえできれば、即実行可能な状態だ」

「そうだね。時間的利点は、そちらの方があるだろう。でも彼女の案は、技術的に不可能な訳じゃないんだろう? それにそちらに比べて、心情的にはどうかな」

「……」


 今現在の共闘状態は、『木』のセルゲイの暴走に端を発したものだ。

 その解決が為されれば、この関係を維持することは出来ないだろう。

 結局のところ、七王国と『七曜』の対立関係が解消することはない。

 だが、とドートートは思う。

 以前と同様の態度が示せるのかと言えば……怪しいものだった。

 そもそも互いに手の内を晒している、力で簡単に制圧できるような手合いでないことを認識してしまった。

 対話をせざるを、得ないだろう。

 その上でこの、『七曜』主導の全人類ドゥルス化計画が是となることは、有り得ない。

 だからこそ、計画を強行したのだから。

 対して彼女の、エウロパの案は、既存の技術である転送門を利用する物。

 反発は殆どないだろう。

 始原の白泥、そして無為なるマナの誘引者がいれば、資源の不足による頓挫はまずない。

 問題は、国家間どころは星間移動という距離的な問題が解消できるのか、そしてどれほどの時を要するかという点だ。


「検討をしてはもらえないかな? そしてそれに芽があると判断できれば、協力をして欲しい」

「……確約は、出来ない。俺が長ではないからな。だが、『央』に取り次ぐ。ここまでは約束しよう」


 ここが落としどころだろう。

 こくりとマコトは頷いた。

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