表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/149

第百三話 見知らぬ頼りの声が届いて

 今の今まで滞在していた邸宅が、光と共に消えていく。

 最早見慣れてしまった、不思議なはずの光景。

 それを尻目に、一同はブラックウィドウへと乗り込んでいく。

 リアナとレティシアは、既に出立していた。

 無事の帰還を祈るばかりだ。


「報酬のためにもな」

「……」


 ヘルムートの軽口に、エウロパから胡乱な視線を向けるが、それを気にした風もない。

 溜め息をつき、彼女は首の後ろをさする。


「どうした、エウロパ?」

「何だかかさぶたが痒くって……それだけです」


 そうか、とカリストは首を傾げるが、それ以上は聞かなかった。


「森を抜けるのに、どれくらいかかるの?」

「そうですねっ! この速度でしたら、休憩無しで丸1日位でしょうかっ! 夜営するなら、明日の昼には抜けられるかとっ!」

「本当に深い森なんだな……」


 驚嘆混じりに言って、マコトは窓の外を見る。

 当たり前だが代わりばえのない鬱蒼とした木々が、高速で後ろに流れていった。


***


「で、何の話をしていたんだ?」


 発車してから暫く経ち、微かな走行音が響く車内、マコトの隣へずいと寄るのはカリストだった。

 過保護な彼女の振る舞いに、頼もしさと呆れを感じつつ、彼は苦笑いする。


「マリーの古巣に対する疑念について、すり合わせをしてました。もとより皆と共有するつもりではあったんですが……」


 ちらりとマコトは、マリエンネへと視線を向けた。

 彼女は気にした様子もなく、ただ肩を竦めるのみ。

 それに彼は頷き返し、カリストだけではなく他の皆にも向けて、口を開いた。


 マリエンネの目的としていた全人類のドゥルス化、実際はアルジアスという星を維持するための手段であったこと。

 彼女らの盟主たる『赤き戦慄』は、恐らくは外の世界より呼び出されたものであること。

 そしてそこに、悪意ある意図が関与しているであろうこと。

 その黒幕を、『星』と推察していること。理由として、その名と共に高度すぎる技術が散見されるため。


「『黒幕』の目的はこの世界の過熟、爛熟による落下、だと思う。意図はわからないけれど……それともう一つ」


 そこまで言って、マコトは一度言葉を切り、今一度彼女へと視線を向けた。

 当のマリエンネは、その意図を図りかねるのか、首を傾げるばかりだ。


「『七曜(彼ら)』が未だ、全人類のドゥルス化を邁進する理由だ」

「……あー、あたしには悪いけどって?」

「そう」

「どういうことでしょう」


 首筋をさすりながら、エウロパは控えめに口を挟む。


無為なるマナの(カラーレスマナ・)誘引者(テンプテーター)による星の成熟の加速、それを何とか止めたいのが『七曜』の目的のはずなんだ。でも全人類のドゥルス化が、それに貢献するとは、僕には思えない」


 マコトの推論に、一同は黙り込む。

 それぞれに黙考する中、イオがぱっと顔を上げた。


「……あっ! 一時的な無為なるマナの減少には貢献できないかな? ファン族、エルゥ族、ダーナ族に比べて、ドゥルス族の必要とするマナは多いよ。肉体をそれに『転生』する過程でマナを大量に消費することになるから……」

「世界に循環するマナが減少する……でも、流石にその場しのぎに過ぎるんじゃ。物体が生み出すマナは、存在の維持に消費する分より多い。マナ生成能力に優れたドゥルス族ならばなおのことです」


 彼女の意見に、エウロパがそう指摘する。

 一時的に緩衝したマナなど、大した暇なく還元されることになるはずだ。


「うーん、そっかぁ。でも……」

『その場しのぎでいいとしたらー?』


 突如として頭の中に響く、覚えのない声……念話。

 ギニースを除く一同が全員、視線を交錯させた。

 空いた窓際の席を埋めるように『ジェイン』が現れ、外を警戒する。


『やほー、おはよー、あーしが来たよー』

「……誰だ?」


 いかにも能天気な調子の念話に、返事のつもりもなくマコトが呟く。


『んふふー、誰だと思うー?』


 ()()()()()()彼の言葉に、それは反応した。

 マコトは咄嗟に、『ジェイン』達に視線を送る。

 窓の外を警戒していた『彼』等は、それを受けるも返ってくるのは否定の仕草。


『あ、近くにあーしは居ないよー。コラキスの森の、西の出口にいるから悪しからずー』

「よく小生らの居場所を、特定できましたねっ!」

『んふふー、すごいでしょー?』


 ジェインの誘導尋問には引っかからず、その声の主はただ自慢げだった。


「で、結局どちら様? 今こちらで話題沸騰中なのは、『星』のレラリンさんなんだけど?」

『あー、残念ー、違うねー』


 試すように言うイオの言葉に、気安い響きの念話が応える。


『あーしはカーリン。『月』のカーリン・シュバルツシルトだよー、よろしくねー。ていうかマリりん、聞こえてるでしょー』

「……聞こえてるけど。誰だと思うー、にあたしがド正解しても興醒めでしょうよ」

『あー、確かにー。その気遣い、いいねー』


 敵意も悪意もつかみどころもない、親指でも立てていそうな彼女……カーリンの言葉に一同は顔を見合わせた。


「我が妹が人違いを失礼した、カーリン殿」

『いいってことよー』


 カリストの謝罪を、彼女は寛容に受け入れる。

 当のイオは、理不尽な名指しに不服げではあったが。


「それで、カーリンさんに置かれましては、私達の疑問に答えて下さると?」

『うん、そだよー』

「ありがたいお話ですが……?」

『うん、懸念は、あるよねー? あーしも色々任された身だからさー、このことは顔を合わせて―、お互い目を見てお話しよーよー』


 エウロパの探るような言動に、カーリンは尤もらしい事を言う。


「……話し合いなら、望むところだけど」

『あーたらも、あーしとお話したいってこと? いいねー。じゃあ、待ってるからねー』


 マコトの言葉をどう取ったのか、彼女は嬉しそうにそう言い、そして念話が途絶えた。


「……」


 嵐のようであり、けむに巻かれたようでもあり……

 沈黙するほか、なかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ