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第十話 英雄の荒唐無稽なるを見て

 エウロパ・カリエインは、啞然として、シン・タチバナを見つめていた。

 走る彼の姿が、何の予兆もなく空を舞う。

 風に乗って滑るかのように、急速に呪痕兵たちへと肉薄していった。

 振りかざした右腕には、赤く輝く戦槌が握られている。

 天地の区別なく旋回するように宙を駆け、振り下ろしたそれは盾に防がれた。

 一拍おいて、戦槌目がけて稲妻が落ちる。

 直撃を受けた呪痕兵は、白煙を上げ、奇怪な痙攣と共に地に伏せた。


 稲妻の余波を受けて動きの鈍る周囲の呪痕兵達を、薙ぎ払う様に打ち据える。

 横向きに奔る電光が、次々と連鎖しながら一帯を感電させていった。

 まともに動けなくなった呪痕兵に向け、彼は左手で空を掴み、引き絞る。

 歪んだ時空の修復に伴う衝撃波は、棒立ちの呪痕兵たちの頭部を、胸部を打ち抜き破砕した。


 地面に降り立つと同時に、赤光放つ戦槌は虚空に消え去り、代わって彼の周囲に無数の柄無き切っ先が浮かび上がる。

 彼の手の一振りで、千に近い数の剣先が舞い、呪痕兵へと殺到した。

 それらは呪痕兵の表層を削るも、切断には至らない。

 すると宙を舞う刃のうち三本が重なり合い、融合した。

 厚みも鋭さも増した刃は、呪痕兵の頭頂へと突き立ち、頸部から飛び出す。その他の刃も同様に三剣一体となり、踊るように切りかかった。

 まるで雲霞の如き剣の群れが高速で飛翔し、飲み込まれた呪痕兵たちは見る影もないほどに切り刻まれ、磨り潰されていく。


 その中心にいる彼に手を出しあぐね、呪痕兵たちは距離を取りつつ手にした武器を銃器へと変形させていった。

 取り囲み、剣呑な飛剣の群れへと光の弾丸が撃ち込まれる。

 ……撃ち込まれる直前、群剣が消え失せた。

 それに代わって現れたのは、磨き抜かれた鏡面を持つ、無数の六角形。

 彼を守護するようにそれらは組み合わされ、防壁を成す。

 飛来した赤い弾丸を受け止めると、それは微かな振動と共に白い凝集光を生み出し、撃ち返した。

 狙い違わずそのまま銃口へと光は返り、それを焼き尽くす。


 それと同時に六角形の群れは消え去り、巨大な一対の手甲が現れた。

 武器を失い、次への対応の遅れた呪痕兵達を、上から叩いて潰していく。

 ひしゃげたそれらを掴み砕き、敵影に向けてばら撒くように投擲した。

 盾を構え、礫を受ける呪痕兵へ向け、黒く輝く手甲は虚空を掴む素振りを見せる。

 引き絞り、放たれた衝撃波は、未曽有の破壊力を以ってあたりを更地へと変貌させた。


 エウロパ・カリエインは自らの目を疑った。

 ……彼女は、他者の織る側脈(バイパス)を『視る』ことができる。

 先天的に内効系魔法(インナーマジック)を一切使用することができない身に備わった、ある種の代替機能だった。

 防衛線の内訳が読み取れたのは、その効能によるものだ。


 だが、見えない。

 シン・ダチバナの成す挙動に、一切の側脈を見出すことができなかった。

 空を駆けるのも、事前に見た『僭壁(ディメンジョン)引鈎(ピッカー)』も、幾つもの武具を呼び出す際にも。

 何一つ、見出すことが、出来なかったのだ。


 だが、ありえない。

 空中を歩く『技術』など。

 虚空より現れる武器など。

 あるはずがない。

 魔法であるはずなのだ。

 あるはず、なのに。

 そんな彼女の眼前で、『悪鬼螺鈿の偽腕』が一帯を平らにする。


 ……カリストが、『天網恢恢』で戦場を分かったのは、その時だった。


***


 もうもうと土煙立ち込める戦場とは裏腹に、燦然と日は輝く。

 それを背に一つ、一際大きな光の柱が聳え立った。

 その内より顕れたのは、恐らくは、呪痕兵だ。

 恐らくは、というのは、その外観があまりにも今までのそれらとはかけ離れていたから。

 外装は白金ではなく朱金を帯び、血の滴るような真紅の呪痕が全身に奔る。

 大きさは二回りほどもある巨体。

 その背から、翼のように炎が噴出する。

 そしてそれの右腕はある一点を差し示し、大きく翼を羽ばたかせた。

 無数の炎の羽が驟雨の如く、戦場に舞い落ちる。

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