意外と貯まるもんなんだよな
新しい目標が出来た。
お金を貯めて、東京にいる彼に会いに行く。
目標を決めて以来、私は毎日着々とお小遣いを貯めて行き、気付けば一万を突破していた。お年玉も含めれば、三万近くはありそうだ。
「やったぁ〜!」
お小遣いは、精々貰えても500円が限界だ。道のりは遠くて険しいけど、貯め甲斐がある。中々貯まらない貯金の中で、あま姉から貰った五千円の存在はとても大きい。
「椎名〜!お小遣い貯めてるって聞いたんやけど、何に使うん?」
どこから聞きつけたのか、昼休みに夢子がお小遣いの使い道を尋ねて来た。まぁ、貯めてる理由は絶対に言わないけど。
「もしかして...私とのデート代?」
最近の小学生は、何故こんなにもませているのだろう...大人からすれば、恐怖でしかない。
まぁ、かくいう私も子供なんだけど。
「デートはまだ早いから、大人になって稼げるようになったら、一緒に遊びに行こ。」
「きゃ〜!椎名からデートに誘われちゃった♡」
夢子は、他の女の子の所へ行き、嬉しそうに自慢した。
「相変わらず、女子の扱いが上手いね。」
一部始終をそばで見ていた流陽が、呆れた様子で言った。
「悲しませないようにしてるだけだよ。今の親は怖いからね。」
「椎名って、時々大人みたいな事言うよね。」
「時々って何?いつも大人だよ。」
小学生に通用すると言う事は、私の性格は子供っぽいのだろうか?
「貴方もそう思ってたのかな...?」
「誰が何を思っとったって?」
流陽にひとりごとを聞かれてしまった。
「いや、何でもないよ!(汗)姉ちゃんも男の子に誘われたら嬉しいのかなって...(笑)」
焦っておかしな事を口走ってしまったけど、前世の記憶があるなんて言って、馬鹿にされるよりはマシだ。
「ふっ(笑)何だそれ、馬鹿がバレるぞ。」
流陽は鼻で笑うと、自分の席に戻って行った。
流陽も時々、大人に見える時がある。いや、仕草や話し方が彼に似ているのだろう。
「自分って馬鹿なのかな...?」
変人扱いされない代わりに、馬鹿な人間と思われてしまった。
その日の放課後、私は夢子と一緒に帰る事になった。半ば無理やりだったけど、女の子同士で話すのは楽しいから、嫌な気はしない。
「前から思っとったんやけど、何で椎名の喋り方って標準語なん?」
「えっ...(汗)」
「家族はここの喋り方なのに、何で椎名だけ訛ってないのか気になっとったんよね。」
前世の私は東京生まれ東京育ちだったから、どうしても標準語が抜けない。訛ってないとおかしく思われるけど、前世の記憶がある私は、逆に訛る方が難しい。今まで誰にも突っ込まれなかったから、大丈夫なんだと思って喋ってたけど、やっぱり違和感はあったみたいだ。
「そっそれは...テレビの見過ぎかな?」
適当に答えてしまったけど、今回は流石に誤魔化せないかも知れない...
「...ふーん、そうなんやね。私は、どんな喋り方の椎名も好きだよ。」
この時初めて、小学生が純粋で良かったと心から思えた瞬間だった。
家に帰り着くと、早速私は、家の掃除洗濯を始めた。今日は、母親は仕事で家にいない。こういう日は、母親が帰って来るまでに手伝いを終わらせてると、お小遣いを多めに貰えるのだ。
「よーし!手伝い完了〜!」
ガチャッ...
小さい体で一生懸命掃除を終わらせると、丁度あま姉が帰って来る音がした。
「あま姉、おかえり!」
「椎名ぁ〜!ただいまぁ〜!」
玄関までお出迎えをすると、疲れた様子のあま姉が勢いよく抱きついて来た。
「あま姉、苦しいよ〜」
「ごめん、ごめん(汗)お詫びにパンケーキ焼いてあげるね。」
「本当!?やったぁ〜!」
前世のパンケーキは、水だけで使ってたから物足りない味だったけど、この家では牛乳や卵を贅沢に使えるから美味しいパンケーキが食べられる。
私は、パンケーキを焼くあま姉の隣で、一枚目が出来上がるのを待ち構えた。
「後少しで焼けるけ、椅子に座って待っとって。」
「はーい。」
パンケーキが完成し、食べ終える頃には、母親も帰って来た。
「あら!今日もお手伝いしてくれたの?!ありがとう。今日のお小遣い。」
母親はそう言うと、ご満悦な様子でお小遣いを渡して来た。
「やったぁ〜ありがとう!」
「そんなに貯めて何するの?」
母親にお金の使い道を聞かれたけど、東京に行くからなんて正直には言えない。
「内緒!」
「そっか〜無駄遣いしないで偉いね。」
子供がこう言えば、大人は大体、深く詮索せずに笑って頷いてくれるのだ。
それから数日後、ある日の帰りの会で、先生が満面の笑みで課題を出して来た。
「授業参加では、お父さんやお母さんのお仕事について作文を読んでもらいます。2週間後までに調べて作文を書いて来て下さい。」
これには、苦くて懐かしい思い出がある...前世の私は、この課題を出された時、お父さんは公務員だと嘘を吐いた。結局、嘘がバレて、先生に家の事情を聞かれたり、クラスメイトから冷たい視線を浴びせられたりした。
「椎名はお父さんとお母さん、どっちのお仕事について書くの?」
帰り道、夢子が質問した。
「僕はお母さんかな。」
「そっか!じゃあ、私もお母さんにするね。」
今の父親は、嘘ではなく本当に公務員だけど、過去の因縁から公務員と言う単語は避けたかった。
家に帰って来た私は、早速母親に質問した。
「お母さんのお仕事って何?」
「車の運転を教える学校で働いてるわよ。」
「えっ?」
車の運転を教える学校とは、自動車学校の事だろうか...前世の彼氏が教官だったから、母親の職場が教習所なのは皮肉に感じる。
「お母さんのお仕事について作文書きたいから、どんなお仕事か教えて!」
その言葉が嬉しかったのか、母親は職場を案内すると言い出した。
会社は違えど、自動車学校は前世の私にとって思い入れのある存在だから、行けば何か思い出すかも知れない。
女神からの課題を解消すべく、私は母親の職場を見学する事にした。