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謎解きに誘われて  作者: 美雪
第一章 招待状の謎
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09 交換交渉



 女性たちは顔を見合わすだけ。


 すぐに応じる者はいなかった。


「もしかして、すでに誰かと交換してビリヤード室を見てしまったの? ビリヤード室のカードの数は少なかったと思ったけれど」

「応接室との交換ではないからです」


 ミリアムが言った。


「モードは招待客です。そして、招待客の女性に配られたのは、応接室かビリヤード室のカードです」

「そうなの?」

「招待客に配られたカードは二種類だったの?」

「気づかなかったわ!」


 ほとんどの女性が何種類のカードがあるのかに着目してしまい、招待客や同行者で配られたカードが違うことに気づいていなかった。


「同行者にカードを配ったのはレイモンド様です。私はレイモンド様がカードを配る様子を観察していました」


 リチャードは用意されていた一山のカードをシャッフルしてから渡していた。


 それはランダムに配布するための行動。


 つまり、カードは種類ごとに固まっていたと仮定できる。


 レイモンドは別にあった一山のカードをシャッフルしなかった。


 カードを混ぜないまま、上下のどちらかから取ったカードを渡していた。


 適当に上下を決めているのであれば、レイモンドもランダムな配布をしていると言える。


 しかし、意図的に上と下を使い分けていれば、特定の相手に渡したいカードを渡すことができる。


 レイモンドを見ていた結果、基本的には上から渡すが、時々下から渡していることがわかった。


 レーゼルテイン公爵令嬢の同行者が集計していた数と比べると、レイモンドが上から渡していたのが音楽室のカード、下から渡していたのが図書室のカードだと思ったことをミリアムが説明した。


「図書室のカードの枚数が少なかったことは全員が知っています。カードの希少さは情報の貴重さにもなるので、持っている同行者は交換するかどうか迷います。ペアを組んでいる招待客の意向がわからないと交換することはできないと思うでしょう」

「そういうことね」


 モードは納得した。


 同行者は平民。招待客がいるからこそ、同行できた者でもある。


 自分だけでカードを交換するかどうかを決めると、招待客に怒られるかもしれない。


 だからこそ、すぐには決められない。交換に名乗り出ないということを理解した。


「じゃあ、招待客が持つ応接室のカードなら、交換に応じると言ってもらえそうかしら?」

「応接室のカードでいいなら交換してあげるわ」


 豪華な椅子に座っていたマリアンヌ・レーゼルテイン公爵令嬢が声を上げた。


「だけど、条件があるわ。手がかりを見つけたら教えるのよ。ダートランダー公爵家の晩餐会に出席してデザートがないなんてありえないわ! 絶対に特別なスイーツを食べないと気が済まないわ!」

「わかります!」


 モードは力強く同意した。


「ありえませんよね!」

「特別なスイーツが一つしか用意されていないということはないはずよ。最低でも二つは用意されているはず。その場合、私とモードで食べればいいわ!」


 マリアンヌの言葉は傲慢さや自己中心的であることを感じさせた。


 だが、自分と同じように特別なスイーツを食べたいモードのことも考えているだけに、独り占めしようと思っているわけではない。


 同志については受け入れる。配慮もする。


 ただ、自分が偉いと信じて疑わない性格。どうするかの指示を出すのも、決めるのも自分。その判断は正義。それが通用する世界で生きて来たからこその言動をする。


 本人に悪意はないのだろうとミリアムは分析した。


「では、カードの交換をお願いします!」


 モードとマリアンヌが手持ちのカードを交換した。


「ミリアム、応接室を見に行きましょう! 聞いたところ女性用の部屋のようだし、お茶が飲めるわ。ハズレの部屋ではないわけだし、だからこその手がかりがあるかもしれないわよね?」


 モードの言葉を聞き、そうかもしれないと思った女性たちが多くいた。


「待ちなさい」


 優雅な椅子に座っていたシェリー・ベルンハイド侯爵令嬢が呼び止めた。


「私の同行者は図書室のカードを持っているの。応接室と音楽室のカードを交換してここに来たのよ」


 シェリーは鋭い視線をミリアムに向けた。


「最初に図書室に行きたいと言っていたし、和解したあとにも行ったのよね? 入れなくて残念だったはず。謎解きのためにも自分の嗜好のためにも図書室の中を見たいでしょう?」

「そうですね」


 ミリアムは頷いた。


「一時的に図書室のカードを貸してあげるわ。その代わり、男性用の部屋がどこかわかったら教えるのよ」


 カードとカードを交換するのではなく、希少なカードと重要な情報を交換するという方法だった。


「レーゼルテイン公爵令嬢とベルンハイド侯爵令嬢にお聞きします。カードの交換や貸し出しによる取引は失格になる可能性があります。そうなったとしても、自己責任ということでよろしいでしょうか?」

「失格にはならないわ」


 マリアンヌが答えた。


「レイモンドは冷たそうに見えるけれど、冷酷ではないわ。最初の謎解きだって、手がかりになる番号札をくれたでしょう? この謎解きも同じ、カードが手がかりよ。見せ合ってもいいと言っていたし、カード交換も情報交換も一緒よ!」

「私もそう思うわ。正直に言うと、レイモンドには怒っているの。招待しておいて、最初の謎を解けなかったら日帰りだったのよ? 晩餐会でデザートを出さないばかりか、謎解きをしないと食後酒を楽しめないなんて!」


 シェリーは食後酒を楽しみたくて仕方がなかった。


「男性用の部屋を教えることで失格になってしまう可能性がないとは言えないわね。だから、手がかりでいいわ。でも、貴方たちについて行けばいいだけよね? 謎が解けたら、男性用の部屋に行くはずだわ!」

「謎が解けるかどうかはわかりません。もう少し足りないと思うのです」

「もう少し? もしかして、おぼろげにわかってきているの?」


 モードは驚いた。


 ミリアムはいつもすまし顔。


 そのせいで何を考えているかがわかりにくい。


 もうすぐ謎が解けそうな様子には見えなかった。


「どんな感じなの? 私も手伝うわ! 教えて!」

「取りあえず、応接室に行ってお茶を飲んで頭を休めます。何か思いつくかもしれません」

「そうね!」

「ベルンハイド侯爵令嬢の申し出は保留にします。応接室に行けば、謎が解けるかもしれませんので」


 ざわめきが起きた。


 女性たちの期待する視線がミリアムに集まった。


「応接室の場所を知らないでしょう? 案内してあげるわ!」


 マリアンヌが申し出た。


 マリアンヌの同行者が先導役になり、モード、ミリアム、マリアンヌ、音楽室にいた全員がぞろぞろとついていった。


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