08 音楽室
音楽室は二階だった。
女性が好みそうな華やかな内装の部屋でかなり広い。
多くの椅子が用意されており、女性たちが座って話をしていた。
ミリアムは部屋の中を見回した後、考え込んだ。
ここが音楽室?
学校にある音楽室のようなものをイメージしていたが、全然違った。
金持ちであれば持っていそうなピアノもなければ、他の楽器もない。音楽家の肖像画もなければ、音楽に関係すると思えるもの自体がない。
多くの椅子があるだけ。座っておしゃべりを楽しむための部屋に見えた。
「私たちよりも先にあちこちの部屋に行ったわよね? 謎解きはどう? 順調?」
モードは近くにいる令嬢に声をかけた。
「全然ダメ」
「わからないわ」
「さっぱりだわ!」
ほとんどの女性たちはカードにある名称の部屋のうち、いずれかが女性用の部屋や男性用の部屋だと思っていた。
とりあえず、部屋に行けばわかる。
お茶、スイーツ、酒、レイモンドたちがいるかどうかで判別できると思っていた。
その結果、食堂の近くにあった応接室にお茶が用意されていることがわかった。
女性用の部屋にはお茶が用意されているはずであるため、応接室が女性用の部屋ということになる。
お茶を飲めるのは応接室のカードを持っている者とその同行者だけ。
応接室に入るには応接室のカードを持っている必要があるため、当然とも言う。
だが、女性たちが行きたいのは女性用の部屋ではない。特別なスイーツや酒があり、レイモンドたちがいる男性用の部屋だった。
情報交換をしたところ、図書室やビリヤード室には何もない。
音楽室もそうだが、特別なスイーツも酒も用意されていなければ、レイモンドたちもいない。
そうなると、ハズレの部屋が三つということになる。
お茶だけで我慢できる者は女性用の部屋である応接室で過ごせばいいが、ほとんどの者が我慢できない。
男性用の部屋がどこにあるのかを考えるため、音楽室に集まっていることがわかった。
「音楽室は椅子がたくさんあるし、座って話せるでしょう?」
「応接室にはソファがあるけれど、数が少ないの」
「図書室には椅子が全くないらしいわ」
「ビリヤード室は狭い感じがするし、人がいないから情報交換できないわ」
「他のカードと交換して音楽室に入っている者もいるのよ」
「なるほどね」
モードはなんとなく状況がつかめたと感じた。
「今度はそっちの番よ」
「謎は解けた?」
「手がかりはあったの?」
「最初の謎を一番で解いたでしょう?」
「何か知っているなら教えてよ!」
「私たちも教えてあげたでしょう?」
女性たちはモードに詰め寄った。
「落ち着いて! 私たちもまだよくわからないわ。図書室に行ったらカードがなくて入れないし、ビリヤード室には何もないし、それでここに来たところよ」
「図書室に行ったの?」
女性たちは驚いた。
「喧嘩していたのに」
「そうよ。ダメだと言っていたわ!」
「やっぱり折れたってこと?」
「あのあと、二人でしっかりと話し合ったのよ」
モードは平民の友人という条件にあてはまる女性ということで、同級生のミリアムに頼んで同行してもらった。
貴族であり招待客でもあるモードがしっかりと対応しようと思っていたが、ダートランダー公爵家からの招待であることや謎解きがあることによって緊張していた。
だが、ミリアムがすぐに泊まる部屋の謎を解いてくれたおかげで安心してしまった。
晩餐会では平民のミリアムがレイモンドの隣の席になって恐縮していることに気づかず、一番先に謎を解いたことで席次が良くなったことに浮かれてしまった。
ミリアムであれば、次の謎解きも大丈夫。早く解いて特別なスイーツを食べたいと思ったために、ミリアムが謎解きよりも自分の嗜好に合わせて図書室を選んだと感じてしまい、苛ついてしまった。
しかし、ミリアムは謎解きをする気がないわけではない。謎解きのために誘われたような同行者で、本人もそれをわかっている。
四種類の部屋があるため、初めにどの部屋に行くかというだけのことだった。
モードは短気になってしまったこと、自分のせいで他の招待客からミリアムが悪く言われてしまったことを謝り、仕切り直して謎解きに挑戦することになったという説明をした。
「私が冷静にならないといけなかったのよ。言葉も足りなかったわ。ミリアムとは和解して、冷静に図書室から順番に見に行くことにしたわ」
「そうなのね」
「まあ、貴族と平民では何かと考え方に差があるから」
「そうよね。わかりにくい部分が多くあるもの」
女性たちはモードの説明に納得した。
「ミリアムは私の友人よ。意見が違うこともあるだろうし、ぶつかってしまうこともあるかもしれないわ。でも、一時的なことでしかないの。今度またあのようなことがあったら、絶対にミリアムを悪く言わないで! ミリアムを悪く言うのは、ミリアムを友人として認めた私を悪く言うのと同じ。チェスタット伯爵家の名誉にかかわってしまうわ!」
「こっちもよく考えずに言ってしまったわ」
「友人同士で話し合っていただけなのに、余計なお世話だったわよね」
「近くにいたから、思わず口を挟んでしまったわ」
近くにいる女性たちはすぐに謝罪した。
「嫉妬してしまったのもあるの」
「平民なのにレイモンド様の隣の席にいたのよ? ずるいわ!」
「貴族でも隣に座れることなんてないのに!」
「わかるわ。私だってあんなご褒美があるとは思ってもみなかったもの」
モードは理解できるというように頷いた。
「でも、私たちがいがみあう必要はないわ。晩餐会の席がどうなるかなんて、最初の謎解きをする時にはわからなかったでしょう? 宿泊できる人数に上限があったわけでもないし、全員が謎解きに成功しても全然いいのよ。この連休をダートランダー公爵家の別邸で過ごすだけでも自慢できるわ。楽しい思い出にしたいし、お互いに嫌な思いをしないようにしましょうよ」
モードの言葉に賛同する声と拍手が響き渡った。
「そうね!」
「ライバルだと思っていたけれど、よくよく考えると関係ないわよね?」
「全員、宿泊できるものね」
「楽しい思い出にしたいわ!」
「謎が解ければ、楽しい思い出になるかもしれないわね」
「特別なスイーツも食べられるわ」
「レイモンド様たちにも会えるわよね」
「でも、男性用の部屋はどこなの?」
女性たちが一斉にため息をついた。
「提案があるの」
モードが言った。
「私はどうしても特別なスイーツを食べたいの。だから、謎を解く手がかりを探したいわ。ビリヤード室を自分の目で見てみたい人はいない? 図書室のカードと交換してほしいの!」
モードは自分のカードと図書室のカードの交換を呼び掛けた。