06 二つ目の謎解き
「謎解きを始める。二時間程度の予定だ」
レイモンドが言った。
「これからカードを配る。それを見て女性用の部屋と男性用の部屋がどこかを考え、自分の行きたい部屋に行くだけだ」
「男性用の部屋に決まっているわよね」
「特別なスイーツがあるもの!」
「お酒もね」
「レイモンド様とリチャード様がいる部屋がいいに決まっているわ!」
女性用の部屋に行きたいと思う招待客はいなかった。
「カードはランダムに配るよ」
リチャードがトランプサイズのカードをシャッフルした。
「僕は招待客に配る。同行者は兄上からもらってほしい」
次々とカードが手渡されていく。
ミリアムはその様子をじっくりと見ていたため、レイモンドからカードを受け取ったのは最後だった。
「僕と兄上は移動する。今から十五分は食堂にいるように。カードを見せ合ったり、考えたりするための時間にするといいよ」
リチャードとレイモンドが食堂から出て行った。
「何のカードだったの?」
モードがミリアムに駆け寄って尋ねた。
「音楽室です」
ミリアムはカードを見せた。
「私はビリヤード室だったわ」
モードも部屋の名称が書かれたカードを見せた。
「とってもシンプルなカードね」
「そのようです」
「聞きなさい!」
招待客の中で最も身分が高いマリアンヌ・レーゼルテイン公爵令嬢が大きな声を上げた。
「カードには部屋の名称が書かれているわ。でも、複数あるようね。カードを見せ合ってもいいようだし、どんな部屋の名称があるのかを全員で確認するわよ!」
「賛成!」
「わかったわ」
「そうしましょう!」
「教えてくれるなら教えるわ」
次々と賛同する声が上がった。
「ミリアム、どうする?」
「隠す意味はありません。すでに私たちは何のカードかを口にしてしまいました。他の人がどんなカードをもらったのかがわかれば、謎解きの手がかりになりそうです」
「それもそうね」
食堂にいる女性たちは、それぞれ自分がもらったカードに書かれていた部屋の名称を教え合った。
その結果、応接室、ビリヤード室、音楽室、図書室の四種類があることがわかった。
カードの枚数には差があり、応接室と音楽室が多い。
リチャードがランダムに配ると言ってシャッフルしていたため、偶然その枚数になったのだろうということになった。
「四つの部屋のどこかに行けばいいということ?」
「たぶん、そうね」
「女性用の部屋と男性用の部屋があるわけよね?」
「なぜ、二種類ではなく四種類のカードがあるの?」
「二択じゃ謎解きにならないからよ」
「四択でも大差ない気がするけれど?」
「何も考えず、運任せで選ぶこともできそうよね」
「宿泊する部屋を答える時、適当に東か西かを言っていた人もいるでしょうしね」
「ということは、残る二つはハズレ?」
「何もなし?」
「女性用の部屋、男性用の部屋、ハズレの部屋が二つということ?」
「お茶だけしか用意されていない時点で、女性用の部屋もハズレだわ」
女性たちは意見を出し合った。
「ミリアム、どの部屋へ行く?」
「図書室に行きます」
ミリアムは即答した。
「どうして?」
「なぜ、図書室なの?」
「理由を教えて!」
「貴方のカードは違うわよね?」
「音楽室だと言っていたわ」
すぐに周囲にいる女性たちがミリアムに質問した。
「私は友人のために謎解きに参加しなければなりません。どこかの部屋に行く必要があるなら、個人的に興味がある図書室に行きます」
女性たちは唖然とした。
モードの表情も変わった。
「ミリアム、本が好きだから図書室を選ぶというのはダメよ!」
「レイモンド様は自分の行きたい部屋に行くだけだと言っていました。図書室に行っても問題ないと思うのですが?」
「女性用の部屋と男性用の部屋がどこかを考えていないわ! 謎を解くために頑張っていないじゃないの!」
モードの意見が正しいと感じる女性が多かった。
「まずは謎を解くために考えないと」
「招待客の役に立つために同行したはずよ。しっかりと考えるべきではないの?」
「自分の好きな場所を単に選ぶなんて、よくないと思うわ」
「一つ目の謎解きも適当に答えたのね?」
「運で残って、あとからさも頭を使って解いたかのような説明をくっつけただけじゃないの?」
「手抜きだわ」
「最低ね」
「平民のくせに」
ミリアムを悪く言う言葉が多くなり、差別するような雰囲気が強まった。
すると、
「やめて!」
モードが叫んだ。
「これは私とミリアムの会話よ。他の人には関係ないわ。私の味方をしてくれるよう頼んでもいないし、勝手に口出しをして友人を悪く言うなんて酷いわ! 友情にひびが入ったら貴方たちのせいよ!」
モードはミリアムの悪口を言う女性たちに怒りを向けた。
「十五分以上経っているわ。二時間程度の予定だと言っていたし、謎解きをしに行った方がいいわ。私とミリアムはもう少しここで話すことにするわ。今後のことについていろいろとね」
「そうね。ここにいても仕方がないわ」
「移動しましょう」
「四つの部屋のどれかにね」
「どこに行く?」
「普通はもらったカードの場所に行かない?」
「そうよね」
「行きましょう!」
「どうやって行けばいいの?」
「召使いに聞けばいいわよ」
「カードに書いてある場所なら教えてくれそうじゃない?」
「そうよね」
女性たちが食堂を出て行く。
食堂に残ったのはミリアムとモードだけだった。
「ミリアム、ごめんなさい」
モードは謝罪の言葉を口にした。
「やる気がなさそうな感じがしたから、つい苛立ってしまったわ。そのせいで他の人たちに悪く言われてしまうなんて……次は気を付けるわ。だから、謎解きに手を抜かないで! お願い!」
ミリアムはモードをじっと見つめた。
「なぜ、私を誘ったのですか? もっと頭が良さそうな女性も同行を喜ぶ女性もいたはずです。わざわざ乗り気ではない同級生の私を誘う必要はありません。本で釣りやすいと思ったからですか?」
モードはため息をついた。
「私にとって最も重要なのは、チェスタット伯爵家とダートランダー公爵家との関係を悪くしないことだからよ」
招待されたのはあくまでも招待客の方で、同行者は付属している者の扱い。
侍女や召使いであればわきまえているが、平民の友人でなくてはならない。
同行者が招待客以上に目立とうとすると、無礼だと思われてしまう。
礼儀作法ができていない者を選べば、招待客に人を見る目がないことを証明するのと同じ。
自分やチェスタット伯爵家の名誉を守らなければならないとモードは説明した。
「私の友人としての立場をしっかり守ってくれて、無事連休の招待を乗り切ることができる平民の同志が必要だったの。だから、ミリアムを選んだのよ」
モードはにっこりと微笑んだ。
「ミリアムは私が考えていた以上に優秀だわ。だって、自分は優秀ではない、学校の成績は普通だって言ったでしょう? 普通は逆のことを言うのよ。自分をよく見せようとするわけ。やっぱり私の目に狂いはないわ! ミリアム、これからも友人としてよろしくね!」
モードにはモードならではの能力――眼力があった。
「謎解きをするわよ! どこに行く?」
「図書室に」
「わかったわ。でも、本に夢中にならないよう気をつけてね。謎解きには時間制限があるわ。早く解かないと、特別なスイーツがなくなってしまうかもしれないでしょう?」
「本当に食べたいのですか? レイモンド様やリチャード様に興味がないことをアピールするためではなく?」
「本当に食べたいの! 甘いものは別腹よ!」
モードの本音をミリアムは知った。