05 晩餐会
晩餐会の時間になった。
まずは一階の指定された部屋に集合し、レイモンドとの顔合わせが行われた。
身分が高い招待客から順番にダートランダー公爵家の屋敷に招待してくれたことへのお礼を伝え、レイモンドとは面識がない自分の同行者を紹介するという流れだった。
それが終わると晩餐会が行われる食堂に移動。
席次は身分ではなく、お茶会の時に出された謎解きを早く答えた順番が考慮されていると伝えられた。
中央棟の客間を見に行かなかったモードとミリアムのペアが一番先に謎を解いたことに驚く女性たちが多かった。
レイモンドがどのようにして謎を解いたのかを尋ねてきたため、モードがミリアムに教えてもらった通りに答えた。
「ミリアムのおかげです」
モードはミリアムの手柄を横取りする気はなかった。
「謎解きがあることはわかっていましたが、一時間しかありません。宿泊できるかどうかもかかっているので動揺してしまいました。でも、ミリアムは冷静でした。頼りになる友人です」
「優秀でなによりだ」
レイモンドが隣に座るミリアムに視線を向けた。
「優秀ではありません。学校の成績は普通です」
ミリアムは正直に答えた。
「だが、謎は解けた。同行者に必要なのは招待客を支えるような能力を持っていることだ」
「まぐれでも解けるかもしれません」
「そうだな。全員が実力で解いたのかはわからない」
レイモンドは晩餐会の出席者たちを見渡した。
「簡単だったようだ。思った以上に残っている」
「そうだね」
リチャードが相槌を打った。
「明日、帰ることになるのは何人かな?」
瞬時に動揺する女性が多数。
「晩餐会のあとにも謎解きがある」
「楽しみです」
モードは満面の笑みを浮かべた。
「ミリアムもそうよね?」
まだ謎解きがあるのかとミリアムは思った。
晩餐会ではデザートが出てこなかった。
それは謎解きをするからであることが伝えられた。
貴族は晩餐会が終わると男性と女性に分かれ、別々の部屋で社交を楽しむ慣習がある。
だが、今回の招待客と同行者は全員が女性。
女性用の部屋が窮屈になってしまわないように、男性用の部屋にも行くことができることにした。
女性用の部屋にはお茶しかないが、男性用の部屋には特別なスイーツやお酒が用意されていることが説明された。
「特別なスイーツが用意されているから、デザートが出なかったのね」
「甘いものを食べたいわ!」
「男性用の部屋に行きたいわ!」
ほとんどの女性たちは謎解きに挑戦する姿勢を見せていた。
「特別なスイーツを食べるために謎を解かないとね!」
モードも同じ。やる気満々。
だがしかし。
「お茶もスイーツもお酒もいらない場合は、謎解きに参加しなくてもいいのでしょうか?」
ミリアムが尋ねた。
「謎解きに参加しないのであれば、自分が泊まる部屋に戻ればいい」
レイモンドが答えた。
「だが、謎解きに参加することが招待を受ける条件だ。不参加の場合は招待客と同行者の両方を失格にする。明日の朝一番で帰ってもらう。朝食は用意しない」
「そんな!」
「朝一番で?」
「早起きしないといけないの?」
「朝食が用意されないなんて!」
招待客である女性たちの正直な感想が次々と上がった。
「ミリアム、謎解きに参加して!」
モードは目力を込めて睨んだ。
「特別なスイーツを食べないと! 朝食も食べたいわよね?」
「食べ物が理由ですか」
レイモンドたちと過ごしたい、早く帰りたくないなどということではないのかとミリアムは思った。
「ミリアムにも理由があるわ。謎を解くことができれば、お礼として好きな本をもらえるでしょう? 追加のチャンスよ!」
「そうですが、最初の謎解きよりも難しそうな気がします」
「大丈夫よ! 私も協力するわ!」
モードが励ましの言葉をかけた。
「ミリアムがスイーツを食べたくないのなら、私がミリアムの分も食べてあげるわ! 任せておいて!」
「謎を解く方ではなく、スイーツを食べる方で協力してくれるのですね」
ミリアムはため息をついた。
「モードらしい活躍方法だね!」
「そうでしょう?」
リチャードとモードは笑い合う。
レイモンドは無表情で無言だった。