04 気になる客間
荷物を運んだために確認してほしいという知らせが届き、ミリアムとモードは西棟の三階にある客間に移動した。
「素敵なお部屋ね!」
客間は居間と寝室、衣装や荷物を置く小部屋、専用の化粧室や浴室などが一通りそろった部屋だった。
二人の荷物も間違いなく運ばれている。
だが、問題が一つだけあった。
それはベッドが一つしかないということ。
二人で使用できるほど大きなベッドだが、招待客であるモードは貴族の令嬢。同行者のミリアムは友人でも平民。
常識的に考えると、同じベッドで眠ることはない。
招待状においても屋敷での対応においても、招待客や同行者といった呼称によって分けていた。
「私はソファで寝ることになるのでしょうか?」
居間には大きなソファがあった。
「私は無慈悲ではないわ。ミリアムは友人よ。ベッドを半分ずつ使えばいいでしょう?」
モードは一緒にベッドを使うことを申し出た。
「だけど、他の招待客は困ってしまうかもしれないわね。本当に平民の友人を連れて来たのかわからないでしょう?」
ミリアムが化粧室に行っている間、モードはお茶を飲みながら周囲の様子を見ていた。
「様付けで呼んでいる人が結構いたわ。身分差を考えればおかしくないけれど、侍女や召使いを友人だと偽って同行させた者もいると思うのよ。招待客と同行者で区別するような感じにしているのも、それを見越している気がするの」
「そうかもしれません」
二人が話していると、ドアがノックされた。
姿をあらわしたのはリチャードだった。
「モード、よく来てくれたね! 一番に謎を解くなんてすごいよ! これは贈り物だ」
リチャードがそう言うと、美しい花籠を両手で抱えた侍従が前に出た。
リチャードは花籠を手に取るとモードに差し出した。
「気に入ってくれるといいけれど」
「飾り棚の上に置いてほしいわ」
モードは花籠を受け取らず、置く場所を指定した。
花籠を自分で受け取ってしまうと、自分で飾る場所に持って行かなければならない。
花籠を飾るのは側付きの侍女がすることであり、同行者のミリアムを侍女扱いするつもりはないからこその対応だった。
「わかった」
リチャードは花籠を侍従に渡し、侍従が飾り棚の上に置きに行った。
「素敵な花籠をありがとう。でも、謎を解いたのは友人のミリアムよ」
「ミリアム・ワイズです。お会いできて光栄です」
ミリアムは貴族たちがするような礼をした。
「礼儀作法は大丈夫なようだね」
「学校の同級生よ。礼儀作法の授業で習うようなことであれば知っているわ」
「それなら良かった。マナー違反は失格になる可能性があるからね」
リチャードはにっこりと微笑んだ。
「夜になったら晩餐会がある。兄上が来てからだから、六時頃かな。それまでは部屋でくつろいでいてほしい。お茶をこちらに運ばせようか?」
「嬉しいわ。だけど、気になることがあるの」
「何かな?」
「この客間にはベッドが一つしかないわ。私とミリアムは同じベッドでもいいけれど、他の客は違うと思うの。貴族と平民では身分が違うし、ダートランダー公爵家の対応が悪いと言われないか心配だわ」
「大丈夫だよ」
リチャードは微笑んだ。
「全員が宿泊になるかどうかはわからない。だから、謎解き用に二十室を用意した。宿泊者数が確定したあと、同行者は別の部屋に案内するよ。日帰りの客が多いほど、同行者に割り当てられる部屋もよくなると思う」
「そうなのね」
モードは納得した。
「ミリアムは別の部屋になるから、荷物を解かないでほしい。モードの部屋はここで確定だ。先に荷解きをしておくといいよ」
「わかったわ。ところで、謎を解いている客はどのぐらいいるの?」
「結構いるよ」
荷物を管理するためにもらった番号札が手がかりになっている。
そのことに気づく者は多かった。
ホテルであれば、宿泊する部屋に番号がつけられている。
中央棟にある客間を見学したあと、渡された番号札が宿泊する部屋の番号だと思い、受付に言いに行く者が多かった。
問題は、東棟と西棟のどちらか。
謎をきちんと解いていれば、正解を答えられる。
しかし、適当に考えているとあてずっぽうになる。
それでも二択。運が良ければ正解できる。
「西棟と答えたあと、受付の者の反応を見てやはり東棟だったと答えることは可能だったのでしょうか?」
ミリアムは気になった。
「答えることができるのは一回だけだ。正解なら宿泊する部屋の鍵がもらえる。部屋に荷物を運ぶことを伝えるし、不正解なら馬車に荷物を運ぶことを伝える」
「そうでしたか」
「晩餐会の席次は早く謎を解いた者ほど上位になっている。モードとミリアムは兄上と僕の隣だ。お洒落をしてきてほしい。兄上は晩餐会にふさわしい装いをしているかどうかを確認するだろうからね」
「それは大丈夫よ!」
モードは自信満々に答えた。
「ダートランダー公爵家に招待された以上、身だしなみに気を使うのは当然だわ!」
「モードについては心配していない。問題はミリアムの方だよ。お金持ちの平民かな?」
「普通の平民です」
ミリアムは冷静な口調で答えた。
「ご両親の職業は?」
「本屋を経営しています」
より正確に言えば、古本屋を営んでいる。
小さい頃からさまざまな本に触れていたからこそ、ミリアムは本が好きになった。
「そうか。じゃあ、たくさん本を読んでいて頭が良さそうだね」
「そうなの。だからこそ、私と同じ学校に通っているのよ!」
モードが答えた。
「ミリアムの衣装も大丈夫よ。私の衣装を貸すことにしたわ。小物も揃えてあるし、見た目だけなら貴族に見えると思うわ」
「それなら良かった」
リチャードは微笑んだ。
「僕からちょっとした助言だ。兄上は頭がいい。普通の話は退屈だ。ミリアムが持つ本の知識を活用すると、楽しい晩餐会になるかもしれないよ」
「そうね!」
モードは笑顔で答えた。
だが、ミリアムは食事をマナー本の解説通り食べることに集中するつもりだった。