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謎解きに誘われて  作者: 美雪
第三章 愛の謎
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39 園遊会



 サウザンド公爵家の園遊会は毎年恒例の催しで、サウザンド公爵邸の庭園で開かれている。


 王都内とは思えないほど広い敷地の中には趣向を凝らした庭園があり、それを自慢するために始められた催しだった。


 レイモンドとリチャードが園遊会の会場に姿をあらわすと、大きなざわめきが起きた。


 そのほとんどは驚き。


 女性たちの喜びが急激に高まったあとに下がり、落胆と嫉妬が入り混じった視線をミリアムとモードの二人は浴びることになった。


 しかし、男性たちの反応は違った。


「モードが来た!」

「チェスタット伯爵令嬢だ!」


 次々と喜びの声が上がり、モードめがけて男性たちが突進した。


「皆様、ごきげんよう」


 モードはにっこりと笑みを浮かべた。


「サウザンド公爵家の園遊会に参加できて光栄ですわ。噂には聞いていましたけれど、とても多くの人がいるのね」

「来ないと思っていたが、来てくれたのか」

「会えて嬉しい」

「一緒に楽しもう」


 エスコート役のリチャードがいるにもかかわらず、男性たちはモードを囲んで話しかけた。


 ミリアムはその光景に既視感を持った。


 レイモンド様が主催した舞踏会と同じです。


 ダートランダー公爵家の別邸で開かれた舞踏会では、モードが男性の招待客にモテまくっていた。


 モードはニコニコしながら、誰か一人と特別親しくすることはなく、自分の周囲にいる男性たちとの会話をそつなくこなしていた。


 リチャードだけは別として。


 ミリアムから見ると、リチャードはモードに特別な好意を持っているように思える。


 多くの女性たちがいる場では全員に対して同じような態度をしようとするが、モードには特別な配慮をしてしまう。


 モードに対して積極的なアピールをしていると思える時もしばしばあったが、他の男性たちがいる場では全く違った。


 側で微笑むだけ。ほとんど言葉を発しない。


 温かく見守っているつもりなのかもしれないが、存在感が極めて薄くなってしまっていた。


 あれでは……。


 ミリアムはリチャードの味方をするつもりはない。


 冷静に第三者として観察しているだけだった。


 しかし、リチャードが他の男性たちに対して完全に負けてしまっているのを見て、なんとなく歯がゆさを感じていた。


「ミリアムがいるなんて」


 突然、自分の名前を呼ばれたことにミリアムは反応して体を揺らした。


「レイモンドと来るなんて。なぜなの?」


 声をかけてきたのはマリアンヌ・レーゼルテイン公爵令嬢。


 その隣にはシェリー・ベルンハイド侯爵令嬢もいた。


「付き人だ」


 レイモンドが答えた。


「モードが来ている。一人で行動するのはよくない。女性だけになった時、頼れる者がいた方がいい」

「そういうことね」


 マリアンヌはミリアムを見た。


「レイモンドの隣にいても全く意味がないものね」


 レイモンドは多くの女性たちに囲まれていた。


 その視線も声かけも全てレイモンドに集中している状態で、側にいるミリアムのことは完全無視。


 客観的に見ると、モードの側にいるリチャードと同じような立場だった。


 だからこそ、ミリアムはモードを観察していたとも言う。


「初参加でも、謎解きの役には立ちそうね」


 シェリーも見定めるような視線をミリアムに向けた。


「それなりの結果が出るといいわね」

「モードの足を引っ張らないようにしなさい」


 ミリアムはレイモンドのパートナー役として側にいるように言われている。


 モードとリチャードのペアとは常に一緒とは限らない。


 モードよりもレイモンドの足を引っ張らないように注意すべきかもしれないとミリアムは思っていた。


「そろそろ行くわ」

「またあとで会うかもしれないわね」


 マリアンヌとシェリーは一緒に行ってしまった。


「私も行く。道を開けろ」


 レイモンドがそう言うと、前方にいた女性たちが移動して道ができた。


 大勢の女性たちに囲まれても無表情、一切答えないメンタルの強さだけでなく、人を従わせるだけの圧倒的オーラがある。


 これがレイモンドの凄さなのかもしれないと思ったミリアムにレイモンドが視線を向けた。


 途端に女性たちの視線もまたミリアムに向く。


「歩いていい」


 決して良いものとは言えない視線に飾られた道を、無表情のレイモンドとすまし顔のミリアムは歩いていく。


 平然としていられるのは、他人に左右されない芯の強さがあることの証明だった。


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