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謎解きに誘われて  作者: 美雪
第二章 図書室の謎
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31 救出作戦



「本当に兄上が入る?」


 リチャードは心配でたまらなかった。


「私が入る」


 レイモンドは仕掛け本棚であらわれたスペースに入り、ミリアムに起きた状況を確認することにした。


「それほど大掛かりな仕掛けではない。なぜなら、大掛かりなものほど音がするからだ」


 部屋全体に関わるようなものであれば、それだけ大きな音がする。


 人が話していた程度では相殺できない。


 そのような音がしなかったということは、比較的単純な仕掛けだろうとレイモンドは予想した。


「私の推理によると、回転盤が動いて床が回るように動く」

「でも、水のビンはなくならなかったよ?」

「それは回転盤が動くための要素が足りないからだ。重さかもしれない」

「なるほどね。水のビンだと軽すぎるわけか」

「一人分程度の体重が必要ではないかと思うだけに試してみる」

「やっぱり心配だよ。他の者にさせたら?」


 レイモンドもそれについては考えた。


 だが、このような仕掛けで行く場所は大勢の人間が入ることを想定していない。


 一方通行のような場所であれば、ミリアムのあとを追って次に入った者が進むことになる。


 何の知識も準備もしていないと、屋敷内の遭難者が増えるだけ。


 だが、一方通行であれば、出口があるはずでもある。


 女性だけでは出口を開けられない可能性もあるため、次に行くのは男性の方がいい。


 そして、冷静に対応できる能力が必須になる。


 自分であれば大丈夫だとレイモンドは判断した。


「準備はした」


 レイモンドは小型のランプ、ロウソク、マッチ、ナイフ、地図、水、クッキー、薬、笛といった必要そうなものを準備させ、上着などのポケットに詰め込んだ。


「私がいなくなったら、先ほど教えたようにしろ」

「まずは後ろ側にいるかどうかを確認することからだね」

「そうだ。声が聞こえないか聞こえにくい場合は、笛の暗号で意志疎通をする。覚えているな?」

「大丈夫」


 レイモンドとリチャードは子どもの頃に暗号遊びをした。


 それによって手を叩いたり笛を吹いたりすることで意思疎通を図ることができた。


「対応もわかるな?」

「うん。でも、大丈夫かな?」


 リチャードは不安だった。


「兄上に何かあったら……」

「大丈夫だ。モードも協力を頼む。冷静にリチャードを支えてほしい」

「わかりました!」

「では、試す」


 レイモンドが空いたスペースの中に入り、仕掛け本棚が閉められた。


「兄上! 聞こえる?」


 まずはリチャードが呼びかけた。


 笛の音がした。


 リチャード、モード、部屋にいる侍従たちもホッとした。


「仕掛け本棚を閉めただけでは、兄上はそこにいるようだ」


 水のビンを置いて仕掛け本棚を閉めた。そのあとでまた開けたが、水のビンはなくなっていなかった。


 それと同じ。


「このまま開ければ兄上がいるはずだ。開けて」


 屋敷の者がフェイク置物を引き出すと、本棚が浮くようにして隙間ができた。


「兄上、いるよね?」

「いる」


 レイモンドは消えていなかった。


「なぜ、ミリアムはいなくなったのかな?」

「その謎は解けた」


 レイモンドは余計な仕掛けを動かさないように慎重に視線だけを動かし、周囲を観察していた。


「仕掛け本棚を閉じると、前面の横にでっぱりができる。小型のランプがあったおかげですぐにわかったが、何かを動かすためにあるのだろう。ミリアムは暗闇だ。手探りでその存在に気づき、仕掛け本棚を開けられると思って操作したに違いない」

「だけど、違ったわけだ」

「別の仕掛けが動いてしまったわけね!」

「あれを操作すると、回転盤が動く気がする」


 水のビンを置いただけ、レイモンドがスペースに入っただけでは何も起きなかった。


 人為的な操作によって仕掛けが動くと考えた方が適切であり、それがでっぱりのような部分に触って何かすることだとレイモンドは考えた。


「今度は壁の裏側に移動するだろう。仕掛け本棚はびっしりと本があるせいか、中にいると音が聞き取りにくい。そこで笛を使った」

「ああ、そうか!」


 リチャードも気づいた。


「本棚の厚みを考えていなかった」


 普通のドアではない。本棚だからこその奥行きがある。


 しかも、本がびっしり置かれている状態だけに、極めて分厚いドアがあるのと同じ。


 声や音が聞き取りにくい状態になってしまっていた。


「でっぱりの部分を操作してみる。予想では、床と壁が百八十度回るだけだ」

「わかるよ」

「声が聞こえにくい可能性を考え、笛を使う。お前も笛にしろ。聞こえやすくなる」

「わかった」


 再度、レイモンドがスペースの中に入り、仕掛け本棚が閉められた。


 笛の音がした。


 リチャードは耳を澄ませた。


「わからなかったな……」

「埃臭さの方が気になるわ。でも、動いた感じがしたと思うの」


 モードも耳を澄ませていた。


「開けよう」


 仕掛け本棚が開けられた。


 レイモンドの姿がない。


「ほらね! 動いたのよ!」

「静かに動く装置ということか」

「笛を使ってみて」


 リチャードは笛を鳴らし、レイモンドに呼びかけた。


 すると、笛の音が聞こえた。


「いるよ!」

「そうね! 近くだわ!」

「兄上の言った通りだ。ここの壁が回転するんだよ」


 リチャードが壁を三回叩いた。


 すると、同じ数だけ音が返って来た。


「間違いなく、兄上はこの壁の向こう側にいる!」

「そうね!」


 モードは頷いた。


「壁を壊すわよ!」

「そうだね。だけど、兄上に怪我をさせないようにしないといけない」


 リチャードはもう一度笛を吹いた。


 返事の笛が鳴る。


 兄弟による笛の会話が続いた。


「何て言っているの?」

「前に進むって。進めるだけの空間があるようだ」


 リチャードが答えた。


「ミリアムもいないみたいだ」

「ミリアムならきっと前に進んで行くと思うわ」

「そうだね。進めば出られるかもしれないと思うはずだ」

「単純に進むだけなら合流できるわね」

「一方通行で、通路が一つだけならね」


 途中で分かれ道がないかどうかが心配だった。


「でも、ここは屋敷の中だ。複雑な迷路を壁の中に作るのは難しいと思う」

「そうね。少しだけ隠し通路を進むだけで、すぐに出られるようなものかもしれないわ」

「ちょっと待って」


 もう一度、リチャードは笛を吹いた。


 返事をするように笛が鳴る。


 ダートランダー公爵家の兄弟が笛を吹き合って意思疎通することを、モードは奇妙にも利口にも感じた。


「兄上は前に進む。僕たちは脱出口を作る」


 レイモンドが前に進めば、木製の壁を壊しやすい。


 そこに穴をあけて人が通れるようにすれば、仕掛け本棚の先にある通路につなげることができる。


「再確認する。木製の壁を全部破壊するようなことはダメだ。仕掛け自体を破壊すると問題が起きてしまう可能性がある。まずは壁の左に貫通する穴を開ける。そのあと、小窓のように少しずつ大きくする」


 動く木製壁の中央と外枠部分を残しながら、それ以外の部分を少しずつくりぬき、人が通れそうな隙間を作る作業を行う。


 それはレイモンドが事前に考え、指示していたことでもあった。


「早速とりかかろう。モードはここにいても仕方がない。六角形のホールまで戻っているといいよ。椅子があるし灯りもある。屋敷の部屋でくつろいでいてもいいから」

「六角形のホールにするわ」


 モードは図書室を離れるつもりはなかった。


「屋敷の見取り図を見せてくれる?」

「兄上が持って行ってしまったじゃないか」

「一枚しかないの?」

「ない」

「でも、枚数があるとかさむからってことで一階しか持って行かなかったわよね?」

「そうだね」

「二階や三階の見取り図を見るわ。同じような構造かもしれないでしょう?」

「かもしれない」

「屋敷で補修関係の仕事を担当している者はいない? 仕事に見取り図や地図を使うはずよ。家令でも執事でも侍従長でもいいわ。とにかく見取り図を集めて! ミリアムとレイモンド様がどこから脱出するかを考えないといけないわ!」

「それはわかる。でも、兄上に任せたらどうかな? ミリアムと二人なら大丈夫だよ」

「わかっていないわね」


 モードは眉を上げた。


「もしかしたら、ミリアムの父親もいるかもでしょう?」


 リチャードは目を見張った。


「二日も飲まず食わずなのよ? 途中で倒れていたり、怪我をしているかもしれないわ。レイモンド様やミリアムがいても、病人や怪我人がいたら脱出するのに負担になるわ。狭いスペースでは動きにくいもの。脱出口が完成するまでは出口からの支援を考えるべきだわ! 確実に人が通れる可能性が高いでしょう?」

「そうだね。さすがモードだよ!」

「レイモンド様に任されたもの! 大きな屋敷には見慣れているし、方向感覚もあるわ。見取り図から推理してみることにするわ!」

「わかった!」


 リチャードとモードも自分のできることをすることにした。


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