30 予想外
「困りました」
ミリアムは予想外の状況に遭遇していた。
リチャードが仕掛け本棚を閉めると、当然のことながら真っ暗になる。
手探りで何かないかを探すと、でっぱりのようなものがあった。
仕掛け本棚を閉めることによって前方にあらわれた。
これを操作すれば仕掛け本棚が開きそうだとミリアムは思った。
すると、ミリアムが立っていた場所が動いた。
くるん、と。
そのせいで、ミリアムは立ったまま、百八十度回転してしまった。
何が起きたのか考えることしばし。
「私は……壁の中?」
ミリアムは仕掛け本棚に注意が向いてしまい、足元をよく見てなかった。
暗かったせいでもある。
床を回転させるような装置があり、でっぱりを操作することで床部分が回転するのではないかとミリアムは考えた。
壁の後ろに行ってしまったというか、壁の奥に入ってしまったというか……
とにかく、もう一度、百八十度回転したい。
そうしないと、元の位置に戻れない。
ミリアムは暗闇の中に手を伸ばした。
また同じように前方にでっぱりのようなものがあり、それを操作すればいいのではないかと考えてみる。
だが、ミリアムの手は完全伸ばした状態でも、何かに触れることができなかった。
つまり、空いている。
前方に空間がある証拠だった。
横にもじりじりとずれて手を伸ばすが、両側共に壁しかなさそうだった。
仕方がないと感じたミリアムは前に進んだ。
恐る恐る、少しずつ。
慎重に数歩進んだ時だった。
後ろが動く気配がした。
ミリアムを乗せたまま回転した床の部分がまた回転したようだった。
ようするに元通り。
ミリアムがいないこと以外は。
「これは……完全にはまってしまいました」
ミリアムは悟った。
ここの仕掛けは一方通行に作られている。
だからこそ、人が乗ったことによる重量がなくなると、元に戻ってしまうのだと。
「慌てて戻って挟まれるよりはましですが、前に進むしかありません」
ミリアムは全く見えない暗闇の中を、手を伸ばしながら進むことになった。
ミリアムの心は年齢以上に頑丈だった。
暗い所で本を読んで怒られたことは数知れず。
真っ暗闇が怖くないと言えば嘘になるが、恐怖で動けなくなってしまうことはない。
状況的にも自分でなんとかしなければならないのがわかっている。
何かある。手がかりを探せという指令が頭の中に出ていた。
「灯りがないのが厳しいです」
狭い場所をミリアムは歩いていた。
最初は前に出るように進んだが、すぐに行き止まりになった。
今度は横に進むようになった。
他に進む場所がないだけに、横に進むしかない。
壁の中を移動しているとミリアムは感じた。
「なぜ、こんなものがあるのか……まさに謎です」
仕掛け本棚によって隠された秘密の部屋がある。
そのことにロマンを感じる者もいるはずだが、今のミリアムにはそんな余裕がない。
壁の中にある細くて狭い通路を強制的に歩かされているのと同じだった。
ミリアムは行き止まりに辿り着いた。
だが、行き止まりだからこそ、詰んだ。
手を伸ばすが、何もなさそうだった。
このあと、どうすれば……。
ミリアムは頭の中でレイモンドに見せられた見取り図を広げていた。
右側の部屋から調査をした。そのまま奥へ向かって進んだ。
おかしいと感じた本棚の位置、モードが見つけた偽物の本、ドアが開くように隙間ができた本棚の位置を思い出す。
「百八十度回転して、前に進んで、それから横に………私がいるのは図書室の外?」
レイモンドが持って来たのは図書室だけの地図。
その周辺については載っていなかった。
壁の中にある細い通路を歩いたことで、図書室の見取り図から出てしまっているとミリアムは思った。
「でも、壁があります。建物の中です。つまり、屋敷の中です」
ミリアムは図書室やその周囲のことを思い出そうとした。




