22 古本屋
ミリアムの父親が営む古本屋にダートランダー公爵家からの使いが来た。
その内容は別邸にある図書室の本の査定について。
ミリアムから話を聞いていた父親は、ダートランダー公爵邸に行き、査定についての話し合いをした。
その結果、あまりにも大量の本がありそうな図書室だけに査定の見積もりを出すことができないということになり、現地である別邸に一週間出張して調査をすることになった。
送迎についてはダートランダー公爵家からの馬車が来る。
古本屋はミリアムの母親が査定等の受け付けをしないなどの条件で営業を続け、ミリアムも学校から帰ったあとは店を手伝うことになった。
金曜日の夕方。
「こんにちは」
モードはにっこりと微笑んだ。
「モード・チェスタットです。ミリアムと同じ学校の友人ですわ!」
「いつも娘がお世話になっております。お噂はかねがね」
「こちらこそ、ミリアムには力になってもらいましたわ。ダートランダー公爵家の招待の件で」
「なんとなくお話は聞いています。一生に一度あるかないかのお誘いでした」
「そうかもしれませんけれど、図書室の件があります。ミリアムもさぞお父様のお仕事について行きたかったことでしょうね」
「そうかもしれませんが、学校があるので」
会話が弾んでいる気がします……。
店番をしながら、自宅兼古本屋に来たモードと母親が話す様子をミリアムは観察していた。
「では、私はこれで」
モードがミリアムの両親が営む古本屋に来たのは、ミリアムがダートランダー公爵家の招待の報酬として要望した新刊の本を届けるためだった。
いきなり全部の報酬分を要望するのではなく、時期をずらして新刊を買うのでもいい。モードとしても小遣いの関係から助かるということで、ミリアムは手始めに十冊の要望を出した。
それを学校で渡すと持ち帰るのが大変になってしまう。
そこでモードは学校が終わると屋敷に帰って着替え、チェスタット伯爵家の馬車で本を届けに来てくれたのだった。
「ミリアム、また来週ね」
「わざわざ本をありがとうございました。気を付けて帰ってください」
見送るためにモードと一緒に店の外に出たミリアムは、速度を出している馬車が近づいてくるのを視界にとらえた。
「モード、危ないかもしれません。店の中へ」
馬車に何かトラブルがあった可能性に備え、ミリアムは素早くモードを庇うように前に立った。
「わかったわ!」
貴族の令嬢であるモードも、自分の身の安全には注意を払っている。
すぐに古本屋の中に駆け込み、ミリアムもそれに続こうとした。
すると、御者が馬を抑える声が響き、モードが乗って来たチェスタット伯爵家の馬車の後方に馬車が停まった。
「失礼! ワイズ古書店はこちらでしょうか?」
「そうですが、何か?」
馬車といい、御者の身なりといい、古書店という名称といい、相手は貴族関連だとミリアムは推理した。
「ダートランダー公爵家の者です。現在、ワイズ古書店の店主が出張されていると思うのですが、その件につきましてお話があります。今すぐ来ていただけないでしょうか?」
「今すぐですか?」
「できるだけ早くお呼びするようにとのことでした。緊急とのことです」
ただごとではないとミリアムは感じた。
「わかりました。母に伝えるのでお待ちください」
ミリアムはすぐに母親に事情を説明しに行くが、母親は困ってしまった。
「今すぐなんて……」
「緊急のようです」
「でも、ダートランダー公爵家なのよ? この格好で?」
母親は自分の身なりを見つめて無理だと言わんばかりに首を振った。
「ミリアムが話を聞いて来てくれないかしら? 別邸に行ったことがあるでしょう?」
「今回は本邸だと思うので、関係ない気がします」
「ご相談中申し訳ないのですが、とにかく急いでいただけませんか?」
御者はミリアムと母親の話が長引くのを懸念していた。
「わかりました。ミリアム、行きましょう!」
そう言ったのは、帰らずに様子を見ていたモードだった。
「貴族の屋敷に行くとなると、相応の支度が必要なのは当然だわ。でも、私の恰好なら大丈夫でしょう?」
ミリアムは首をかしげた。
「モードは関係がない気がしますが?」
「ミリアムがその恰好で行くのは不安でしょう? 私が一緒に行ってあげるわ。そうすれば、主賓とその付き添いということで、衣装の差は目をつぶってもらえるのよ」
「そうなのですか」
主賓をモードに据えることで、付き添いになる自分の衣装は貧相でも許してもらえるのだろうとミリアムは解釈した。
「とにかく任せておきなさい! 貴族のことを知るのは貴族よ!」
「ありがとうございます! よろしくお願いいたします!」
ミリアムよりもミリアムの母親の決断の方が早かった。
ミリアムはモードと一緒にダートランダー公爵家の屋敷に向かうことになった。




