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謎解きに誘われて  作者: 美雪
第一章 招待状の謎
21/67

21 謎解きの終わり?



 連休の最終日。


 豪華な朝食を食べたミリアムは、朝食をほとんど食べていないモードのことが気になった。


「モードに聞きたいことがあります」

「何かしら?」

「帰るのに時間がかかります。朝食を食べておかないと、途中でお腹が空いてしまうのではないでしょうか?」

「そうかもね。でも、普段から朝はほとんど食べないのよ。気にしないで」

「わかりました」

「ミリアムこそ、おかわりをしなくていいの? 私の分を食べてもいいのよ?」

「食べ過ぎは禁物です。馬車に酔うかもしれないので」

「ほどほどが良さそうよね」


 朝食を終えた後、ミリアムとモードは荷造りをした。


 モードは昨夜のうちにある程度は済ませていたため、それほど時間はかからなかった。


 そして、貴族用のドレスをどう扱っていいかわかっていないミリアムの荷造りを助けに来た。


「とにかく詰めればいいわけではないの。ドレスがしわになってしまうでしょう?」

「そうですね」

「帰宅するだけであれば、しわしわでもいいと思うかもしれないわ。でも、何らかの事情でもう一泊することになるかもしれないでしょう? 着替えを取り出した時にしわしわだったら困らない? お洒落じゃないし不名誉でしょう?」

「そうですね」


 平民なので気にしないと思いつつも、ミリアムは頷いた。


「家に帰って荷解きをした時だって、しわしわのドレスを見たら侍女ががっかりしてしまうわ。ドレスを洗濯してアイロンをかけるのは大変なの。ドレスのしわを防ぐことは、侍女や召使いの負担を軽減させることになるのよ」

「優秀な貴族の令嬢らしい知識と気遣いです」

「ミリアムは平民だから関係ないと思うでしょうね。だけど、このドレスは私のものだってことを忘れてはいけないわ。しわしわのドレスを返却するのは失礼なのよ?」

「その通りだと思います」


 お洒落や衣装、貴族の事情関連についてはモードに敵わない。


 ミリアムは従順一択だった。





 帰りの馬車が用意され、モードとミリアムの荷物が次々と載せられていった。


「モード!」


 いよいよ屋敷を出発する時になると、レイモンドとリチャードが見送りに出て来た。


「本当に昼食はいらない?」


 帰りの馬車の順番はダートランダー公爵家の方で決めていたため、モードとミリアムは最後だった。


 他の招待客よりも遅い時間の出立になってしまうため、昼食後に出立しても問題ないと言われていたが、モードは断っていた。


「お気遣いなく。もう馬車に乗るだけよ」

「あっという間だったよ。子どもの頃はよく一緒に過ごしたけれど、だんだんと会う機会が減ってしまった。今回の連休で一緒に過ごすことができて嬉しかったよ」

「私も楽しかったわ」

「本当に? 謎解きには興味がなさそうだったけれど」

「私に謎解きができないのは最初からわかっていたわ」


 モードはそう言うとミリアムを見た。


「だから、本を読んでばかりの同級生と親しくなる絶好の機会として活用したの。新しい友人と過ごすことができて楽しかったわ。ダートランダー公爵家のおかげね!」

 

 モードはにっこりと微笑んだ。


「やっぱりモードはすごいよ! 誰とでも仲良くなってしまう」

「貴族に社交力は必須だから。では、レイモンド様、リチャード様、わざわざお見送りいただきありがとうございました。これにて失礼させていただきます」


 モードはいかにも伯爵令嬢と言わんばかりの美しい礼を披露した。


 ミリアムもそれに合わせ、学校で習った通りに礼をした。


「気を付けて。本当に名残惜しいよ」

「また会えるわ」

「そうだね。また会おう」

「気をつけて帰れ」


 モードとミリアムは馬車に乗り込んだ。


 ドアを閉めたあと、ゆっくりと馬車が動き出す。


「謎解きはこれで終わりね」


 モードはミリアムに話しかけた。


「でも、ミリアムにはその件で話があるのよ」

「何でしょうか?」

「成功報酬のことよ」

「忘れないようにしてください」


 ミリアムは答えた。


「全部の謎を解きました。同行するのに十冊、泊まる部屋の謎で十冊、男性用の部屋の謎で十冊、小庭園の謎で百冊、最後の謎で十冊です。合計百四十冊になります」

「小庭園の謎と最後の謎についてはまとめて十冊よ」


 モードが言った。


「小庭園の謎は、最後の謎のための手がかりを集めるためだったでしょう? 正解でも不正解でもいいなら、成功報酬とは言えないわ。カウントするのは最後の謎の分だけよ」

「そうなると、四十冊ということですか?」

「そうね。新刊で四十冊でも結構な量だわ。お小遣いで足りるかしら? 高価な本はダメよ。私のお小遣いで買えそうなものにして」

「わかりました」

「ミリアムを友人にするのは高くつくわね」


 モードはミリアムを見つめた。


「だけど、友人は一生の宝物よ。そう考えると安いわね!」

「この連休だけでは?」

「まさか! 私は将来をしっかりと考える性格なの。連休を乗り切るためだけに何十冊も貢ぐわけがないでしょう? 一生を使ってしっかりと払った分以上に回収していくつもりよ」

「私は何もできません。ただの平民ですが?」

「だからいいのよ。貴族の友人はたくさんいるわ。でも、平民の友人はほとんどいないもの。また声をかけるわ」

「なるほど」

「私の予感によると、それほど遠くない未来だと思うわ」

「今回のことがなければ、同級生のままでした。普段の生活をする上で、関わり合うことがない証拠です」

「私はちゃんとミリアムのことを視界に入れていたわよ? 友人は多い方がいいし、個性や能力が豊かな方がいいもの。同級生なら別のクラスの生徒よりも目につくわ。声をかける絶好の機会をうかがっていたの。普通に声をかけるよりも有効でしょう?」

「モードらしいです」

「チェスタット伯爵令嬢とは言わなくなったわね」


 モードはにっこりと微笑んだ。


「また謎解きがある時はよろしくね!」

「謎解き専用の友人ですか?」

「世界には多くの謎が満ちているわ! ミリアムが活躍する機会もたくさんあるはずよ!」


 ミリアムは窓の外を見つめた。


 視線の先にあるのは遠くに見えるダートランダー公爵家の別邸。


「さすがにミリアムでも、ダートランダー公爵家の屋敷が名残惜しい?」


 モードもまたダートランダー公爵家の別邸に視線を向けた。


「とても素晴らしい図書室があったようだしね」

「圧巻でした」

「きっとまた会えるわ。レイモンド様に」


 ミリアムは眉をひそめた。


「会えないと思います」

「本の査定を頼まれたわよね?」

「本の査定をするのは父で、私ではありません」

「一緒についていけば? そうすれば図書室に行けるわ。レイモンド様にも会えるわよ」

「図書室には惹かれますが、レイモンド様に会いたいとは思いません」

「そう? でも、レイモンド様は違うかもしれないわ。ミリアムに話しかけていたでしょう?」


 それは弟のためにモードのことを探ろうとしただけです……。


 だが、あくまでも推測の域を出ない。


 余計なことかもしれないだけに、言いにくいとミリアムは思った。


「他の女性への牽制だと思います。私は平民なので、貴族の女性が加わりやすい会話ではない可能性があります」

「そうかもね。だけど、結構話していたわよね?」

「私の記憶によると、ほとんどが謎についての話です。レイモンド様が考えた謎解きなので、どのようにして解いたのか知りたかったのだと思います」

「そうね。それがきっかけで、ミリアムのことを知りたいと思うかもしれないわ」

「勝手な想像はしないでください」


 ミリアムはいつものすまし顔をモードに向けた。


「私はレイモンド様に興味を持っていません。身分が違います」

「わかっているわ。だけど、そうなったら面白いのにと思ったのよ」

「モードこそ、どうなのですか? 身分から言うと、レイモンド様やリチャード様と交際したり結婚したりしてもおかしくないはずです」

「身分だけで考えればそうかもね。だけど、身分だけで全てが決まるわけではないでしょう?」

「そうですね」

「ここだけの話だけど、お父様は私を爵位持ちの貴族に嫁がせたいと思っているの」

「なるほど」

「爵位がないから無理だなんて、リチャード様には言えないでしょう?」

「……言えませんね」

「レイモンド様とリチャード様はとても仲がいいの。だから、私とレイモンド様が結婚する可能性はゼロ。でも、お父様はレイモンド様がいいわけ。私がいかに大変かわかる?」

「確かに大変なようです」

「相当ね」


 モードはため息をついた。


「でも、連休を乗り切ったわ」

「そうですね」


 二人は車窓から見える郊外の景色を見つめた。


 連休はこれで終わり。


 だが、人生はまだまだ続く。未来がどうなるかはわからない。


 しかし、自宅に帰り、両親と話をしたり荷物を出したりする。


 連休明けの学校でダートランダー公爵家に招待されたこと、謎解きに参加した話をするのは、推理をしなくてもわかることだった。


 第一章(完)


 面白かったな、続きが読みたいなと思っていただけたのであれば、応援していただけると励みになります!

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