12 謎解きは全員で
音楽室には宿泊している女性の全員が集まっていた。
「これから謎解きについての話があります」
ミリアムは音楽室を見回した。
「正直に言いますと、難しかったです。なぜなら、私が平民だからです。この謎を解くには貴族の力が必要です。友人であるモード・チェスタット伯爵令嬢、積極的に協力をしてくださったマリアンヌ・レーゼルテイン公爵令嬢、シェリー・ベルンハイド侯爵令嬢のおかげで正解にたどり着けそうな気がしています」
モード、マリアンヌ、シェリーは頷いた。
「謎解きの答えを知りたいと思う方が集まっていると思うので、協力してください。その代わりに重要な情報を提供します。まず、全員が最初にもらった部屋のカードを手に持ってください」
誰かとカードを交換してしまった場合は、再度交換することで最初のカードになるようにする。
全員が協力すれば、元通りになるはずだとミリアムは伝えた。
「元通りのカードにするの? どうして?」
マリアンヌが尋ねた。
「理由はこれからすることでわかります。時間が気になるので急ぎたいのですが?」
「わかったわ。全員、最初にもらったカードに戻すのよ!」
マリアンヌの掛け声によってカード交換が始まり、全員が最初に渡された種類のカードを手にした。
「では、同行者だけ立ってください。招待客は座っていてください」
次々と同行者の女性たちが立ち上がった。
「音楽室のカードを持っている人は手を挙げてください」
ミリアムが手を挙げると、立っている女性たちの多くが手を挙げた。
「では、図書室のカードをもらった人は手を挙げてください」
手を挙げたのは立っている女性だけだった。
「予想通りです。同行者は音楽室か図書室のカードしかもらっていません。では、座っている招待客に聞きます。応接室のカードを持っている人は手を挙げてください」
マリアンヌ、シェリー、座っている女性たちが手を挙げた。
「次です。ビリヤード室のカードを持っている人は手を挙げてください」
モードを始めとする座った女性たちが手を挙げた。
「これで招待客に渡されたカードも確認できました。応接室とビリヤード室の二種類だけです」
「そうね」
マリアンヌが頷いた。
「それで?」
「レイモンド様は晩餐会のデザートを出しませんでした。配慮がないように思えます。ですが、そのあとの謎解きについては配慮していたようです」
ミリアムは冷静な口調で答えた。
「四種類のカードのうち、応接室が女性用の部屋でした。お茶が飲めます」
「そうね」
「私たちはカードを活用することで全員が音楽室に入れました。応接室も同じようにすれば全員が中に入れます。全員がお茶を飲めます」
「私たちは女性だわ。だから、カードをランダムに渡しても、全員が女性用の部屋でお茶を飲めるようになっていたということ?」
モードが尋ねた。
「そうです。貴族の慣習を考えてみてください。晩餐会のあと、女性たちは女性用の部屋に移動します。応接室のカードをもらったのは招待者ばかりです。招待者たちが協力してカードを使えば、全員が中に入ってお茶を飲めます」
「そうね」
「貴族の慣習通りにできるわね」
マリアンヌとシェリーが頷いた。
「ですが、問題があります。全員が座れないのです。立って過ごすとしても窮屈でしょう。そこで、レイモンド様は男性用の部屋に来ることができるようにしました」
「そうね。でも、そうなると全員が男性用の部屋に行くでしょうね」
女性用の部屋にお茶やお菓子を用意したとしても、飲んだり食べたりしてしまえば終わり。
混み合うのは嫌ということで、別の部屋に移動するのは普通。
男性用の部屋を見てみたい。酒が飲みたい。レイモンドたちと会話をしたいなどの理由もある。
結局、女性用と男性用の部屋があっても、どちらにも出入りできるようにした時点で、ほぼ全員が男性用の部屋に行く可能性が高かった。
「男性用の部屋が混み合うと、レイモンドたちがゆっくり過ごせないわ。だから、謎解きをさせることにしたのよ」
「女性たちが謎を解いている間はゆっくりできるものね」
マリアンヌやシェリーはそう思っていた。
「特別なスイーツ、お酒、レイモンド様たちと過ごせることを考えると、男性用の部屋に行きたいと思う女性がほとんどでしょう。四種類のカードがもらえました。部屋の名称が書いてあります。この中に女性用の部屋と男性用の部屋がありそうです。ところが、女性用の部屋しか見つかりません。なぜでしょうか?」
「謎解きだからよ」
シェリーが答えた。
「四種類の部屋のどれかを選んで行くだけでは、謎を解いたことにならないわ」
「謎を解いた褒美として、特別なスイーツやお酒を味わったり、レイモンドたちと過ごせるという趣向だからよ」
マリアンヌも答えた。
「その通りです」
ミリアムは頷いた。
「四種類のカードの中には、女性用でも男性用でもなかった部屋が三つあります。ハズレだと思われた方もいたでしょう。それは正しいのですが、別の見方もできます。手がかりがある部屋です」
「私もそう思ったわ」
シェリーが言った。
「中に入ることができた部屋はじっくりと見たし、他の部屋の様子も聞いたわ。誰もがハズレだと言っていたけれど、巧妙に手がかりが隠されていたのね?」
「そうです。手がかりがありました。三つの部屋に共通するものでした」
女性たちは困惑した。
「共通するもの?」
「何かあった?」
「手がかりの部屋ということは共通しているわね」
「ハズレの部屋ということもね」
「それだけじゃわからないわ!」
「同じものが置いてあったとか?」
「そうなると、三つの部屋の中に入らないとわからないわよね?」
「中に入れないと不利だわ」
「応接室のカードをもらうと、手がかりの部屋に行くのが一回だけになるわ。不公平じゃない?」
「そうね。ビリヤード室との組み合わせなら、手がかりの部屋に二回行けるわ」
「共通するものを見つけやすくなるわよね」
「自分とは違うカードを持っている人と協力すればいいんじゃない?」
「そうね。四種類の部屋を見ることができるわ」
「カード交換も情報交換もできるわよね」
女性たちは意見を言い合った。




