11 図書室
「ダートランダー公爵家の図書室だもの。きっとすごい図書室よね。ミリアムは冷静に見えるけれど、内心では相当興奮していそうね?」
ミリアムは答えない。
平常通りのすまし顔。
そして、ミリアムとモードはシェリーの同行者からカードを借りて図書室に入った。
「ここが図書室……」
ミリアムの表情は完全に崩れていた。
がっかりする方に。
モードも同じ。唖然としていた。
「嘘でしょう? これが図書室だなんて!」
モードはダートランダー公爵家にふさわしい図書室を予想していた。
ところが、予想以上に小さな部屋だった。
壁に沿って本棚があり、新聞や雑誌、一冊の本が置かれたテーブルがあるだけ。
あまりにもこじんまりとした図書室だった。
「ミリアム、しっかりして!」
モードは立ち尽くすミリアムを支えるように寄った。
「ミリアムがしっかりしてくれないと謎が解けないわ! 特別なスイーツがかかっているのよ!」
「……そう言うと思いました」
「深呼吸をして! ゆっくりね! 落ち着くのよ! 私も深呼吸をするわ!」
二人は動揺する気持ちを抑えるための深呼吸を繰り返した。
「大丈夫? 少しは落ち着いた?」
「大丈夫とは言えません。さすがにここまでとは思いませんでした」
「そうよね。別邸とはいえ、ダートランダー公爵家の図書室がこの程度だなんて! ありえないわ!」
ミリアムは本棚に近づくと、置いてある本を調べた。
「割と新しい本が多そうです」
「そうね」
モードはテーブルの上をざっと見た。
「新聞、雑誌、恋愛小説の新刊? どうしてこんなものが?」
レイモンドとリチャードには姉妹がいない。
若者向けの本だけに、公爵夫人や伯爵夫人が読むとも思えない。
モードは不思議に思った。
「時事ものの本を置く部屋のようだわ。新聞とか雑誌とか割と新しい本とか。よく読みそうな本を集めた感じというか」
「そうですね」
「でも、恋愛小説なんて意外なラインナップだわ! レイモンド様やリチャード様が読むとは思えないけれど、実はこっそり読んでいるのかしら?」
「本棚に礼儀作法や刺繍の本があります。女性向けの本も揃えてあるようです」
「客用かもしれないわね? だけど、ここは郊外よ。しょっちゅう客を招待するようにも思えないし、新しい本を買う必要はない気がするわ」
「しょっちゅう使わないというのに、これほど大きな屋敷をずっと維持する意味があるのでしょうか?」
「お金持ちだから気にしていないわよ」
「音楽室に戻ります」
「もういいの?」
「ハズレの部屋だということがよくわかりました」
「確かに期待ハズレね。図書室としても、特別なスイーツがないということでも」
「その通りです」
ハズレの部屋は期待ハズレ。
ユーモアが利いている。貴族らしい。頭もいい。
ミリアムはレイモンド・ダートランダーの性格が少しだけわかったような気がした。
「ところで、どうしてそれほどまでに特別なスイーツを食べたいのでしょうか?」
「甘いものが好きだからに決まっているでしょう? ミリアムは深く考え過ぎよ!」
「そうかもしれません」
ミリアムたちは一階にある図書室から二階にある音楽室に向かった。




