01 謎解きに誘われて
謎解きを意識して書いてみた作品です。
よろしくお願いいたします!
王都にある高校の教室。
休み時間に本を読んでいたミリアム・ワイズは、同級生であるモード・チェスタット伯爵令嬢に話しかけられた。
「謎解きですか?」
「そうなの。一緒に来て!」
モードは懇願した。
「謎解きなんて絶対に無理だもの!」
ダートランダー公爵の孫であるレイモンドは貴族の若い女性が憧れる人物。
頭脳明晰。スポーツ万能。容姿端麗。
ダートランダー公爵家は領地運営の他にも不動産業や時計事業などで莫大な富を築き上げている。
将来的には大富豪の公爵になるだけに、夢のような恋人や結婚相手だと思われている。
現在は大学生。
そのレイモンドが連休に若い女性たちを屋敷に招待することにした。
モードの父親であるチェスタット伯爵はレイモンドの父親であるダートランダー伯爵と交流があるため、モードも屋敷に招待された。
だが、ただの招待ではなかった。
一つ目は平民で役に立ちそうな友人を一人同行させること。
二つ目は謎解きに参加すること。
三つ目は謎が解けなかったり失格になったりした場合は屋敷に滞在できないために帰ること。
普通ではない条件だというのに、それでも招待を受けたい女性が多くいることもまた普通ではなかった。
「遠慮します。他の方を誘ってください」
「そう言うと思ったわ。でも、平民で役に立ちそうな友人でないとダメなのよ!」
モードの交友関係は広い。
多くの友人がいるが、ほとんどは貴族。
平民で役に立ちそうな友人となると困ってしまうため、同級生のミリアムに目をつけた。
「たぶんだけど、謎解きが難しいのよ。それで助けてくれそうな友人を同行させていいことにしたわけ。そして、謎解きに失敗すると失格になって帰ることになるのよ」
「そうですか。頑張ってください」
「乗り気ではないのはわかっているわ。だけど、お父様に必ず招待を受けるよう言われているの。もちろん、チェスタット伯爵令嬢にふさわしく謎を解くようにもね! 必要な物は私の方で用意するし、費用だって出すわ。お礼もするわよ? 好きな本を買ってあげるわ!」
「まさかとは思いますが、たった一冊の本で私を釣るつもりでしょうか?」
「十冊。新刊でどう?」
「わかりました」
本好きのミリアムはモードに同行することを了承した。
レイモンドが招待したのは王都内にあるダートランダー公爵邸ではなく、郊外にある別邸だった。
「すごいお屋敷です」
森に囲まれた別邸は、窓の位置から推測すると屋根裏込みで四階建て。
宮殿ではないかと思えるほど巨大で立派な建物だった。
「平民だとそうかもね。でも、領地を持つ貴族であれば、領地にこういった屋敷やお城を持っているのが普通よ」
「貴族の普通がいかに平民の普通と違うかがわかります」
「行くわよ!」
モードと一緒に屋敷の中に入ったミリアムはため息をつきたくなった。
「これで別邸ですか」
まさに貴族の中の貴族。富豪の中の富豪といった内装。
豪華絢爛な玄関ホールの中央は巨大な置時計が飾られている。
ダートランダー公爵家は時計事業でも莫大な財を築いているため、それを誇示するような特注品だと思われた。
「本邸と言ってもでもおかしくなさそうです」
「レイモンド様のためにダートランダー公爵が購入したお屋敷よ」
レイモンドは幼少時に喘息持ちだった。
王都の空気は汚れているということで、学校に入るまでは空気が綺麗な郊外の屋敷に住んでいたという話をモードがした。
「狩猟用ではなく、病気療養のための屋敷でしたか」
「ようこそおいでくださいました」
侍従がにこやかに挨拶をした。
「まずは受付の方でお名前をお伝えください」
受付に行くと、招待状の確認や事前に知らせた同行者に変更がないかどうかが確認された。
「モード・チェスタット様には九千三百三番の番号札をお渡しいたします。同行者の方も同じ番号になります」
このあと、到着した招待客をもてなすお茶会が開かれる。
その時に謎解きがあり、謎が解けない者は用意された馬車で帰ることになることが伝えられた。
「こちらの番号札はお預かりした荷物を管理する番号になります。謎が解けない場合は帰りの馬車に荷物を載せなくてはなりません。別の方の荷物と間違えないよう番号をご確認ください」
「ミリアム、絶対に謎を解いてね!」
「あまり期待しないでください」
「好きな本を十冊あげるでしょう? 新刊なんだから頑張って!」
「それはここに同行するための対価です。謎を解けるかどうかは別です」
「謎を解いてくれたら成功報酬として十冊追加するわ。これでどう?」
「わかりました。努力します」
ミリアムはすました顔で答えた。