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超短編小説『千夜千字物語』

『千夜千字物語』その27~最終バス

作者: 天海樹

「すっかり遅くなっちゃった。

 この時間じゃ終バスか」

ソウタは久しぶりに実家に帰るところだった。


ソウタはこの最終バスがあまり好きではない。

行き先が辺鄙な場所なだけに

利用者はほとんどいないからだ。

ソウタの実家はバスで30分。

バスを降りる頃には一人きりで

いつも心細くてたまらないのだ。


バスに乗り優先席前の席に座った。

何か視線を感じたのでそちらの方を向くと

おばあさんと目が合ったので、

知り合いかと思いソウタは会釈をした。

そうするとおばあさんは手を合わせて

こちらにお辞儀をした。

(ほんと年寄りってなんでも手を合わせるよな)

ちょっとおかしくなって

プッと吹き出した。


住宅街を過ぎるとバスは山間へ入って行く。

ここまでくると街頭は疎らで、

逆にバスの車内灯が辺りを照らしているほどだ。

乗客はわずか5人。

ソウタは車内を怪しまれないように見回し、

(見ちゃいけない人とかいないだろうなぁ)

そう思いながら一人ひとり確認していった。


酔っぱらってうたた寝をしている親父。

その二つ前の席には

パート帰りと思われる30代ぐらいの主婦。

そして一番後ろの席には小学生ぐらいの男の子。

あとはおばあさんとソウタ。


(怪しいのはあの小学生だ。

 だいたいこんな時間に一人なんて)

勝手な想像をして勝手に怖がるが、

どうしても気になるらしく

ついつい見てしまう。

(次見た時いなかったらどうしよう)

ドキドキしながらもどこか楽しんでいた。


半分も行くと乗客は3人になった。

ソウタの実家は終点の1つ前のバス停。

どれだけ人が残っているのか

とても気が気じゃなかった。

特にあの小学生が。


「次、停まります」

自動車内アナウンスが流れた。

小学生が立ち上がり、

降車口まで歩いてきた。

見れば有名塾のバッグを背負ってた。

(塾帰りかぁ。ならこのバスもありか)

納得すると同時に少し安心した。

おばあさんとソウタだけが残った。


するとバスの運転手が話しかけた。

「おばあさん、どこで降ります?」

「終点で降りますよ」

とおばあさんが答えると、

バスは速度を上げていった。

ソウタが降りるバス停が近づいているが、

停まりそうもなく速度は落ちない。

ソウタが運転手に何か言おうとすると

おばあさんがソウタに手招きをした。

そして窓の外を指さすと、

遠くのほうに煌々と明るい家が見えた。

ソウタの実家だった。

そしてバスが通り過ぎるバス停の横に

大きな看板が立てかけてあったのが見えた。

“故マエダソウタ様葬儀式場”の看板だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 深夜最終バスの寂しげな情景を感じることが出来ました。 終電も寂しいですが、数人しか乗ってないということはまず無さそうなので別の寂しさがありますよね。 バスにはあまり乗ることが無いので、この…
2024/07/01 18:25 退会済み
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