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6話 レイン・ブレラ留年

 私こと、レイン・ブレラは無事に一八歳となり、コール王国の中心にある魔法学園に入学。三年間その学び舎で過ごすこととなった。


 この魔法学園にはコール王国中の貴族の子供たちが集う。また貴族とは違い、入学試験があるものの、平民出身の子供も、この学校に様々なことを学び、己の血肉とするために集まってくる。


 まぁ、前に話した通り、大半の貴族の目的は学業ではなく、遊んだり、繋がりをつくったりという感じ。私も他の貴族たちの例に漏れず、ここでの目的は学業ではない。


 傘を思う存分振り回し、そして強くなることだ。


 しかしだからといって全く勉強しないというわけにもいかない。


 そんなことをすれば成績不足で留年。


 傘を振り回して、楽しむ余裕がなくなってしまう。


 そのため最低限は学業を頑張らなければいけない。


 一応家庭教師からある程度のことは教えてもらったが、悲しいことにそれだけで何とかなるほど私の頭はよろしくなかった。


 覚えるのに苦戦した歴史やマナー、魔物の生態。あとは魔法についてなどなど、身につけていない知識はたくさんある。ほんと、前世とは違う、そもそもの前提からして違う情報を覚えていくというのはなかなかに難しい。というか魔法に関しては、私に才能がないのではというレベルで上手く出来ない。魔力強化ができるようになってから、だいぶ時間が経つが、あのときから私の魔法の実力は少しも上達していない。


 相変わらず有り余る魔力を無駄にしている。……こんなことになるなら、転生特典を安直に膨大な魔力にしなければ良かったかもしれない。


 何はともあれ、そんな状態でスタートした学校生活。


 勉学に励んだり。


 傘を振り回したり。


 赤点を採ったり。


 傘を振り回して、放浪したり。


 赤点を採ったり。


 道場破りをしてみたり。


 生徒会にこっぺりと絞られたり。


 武者修行に出てみたり。


 追試を受けたり。


 赤点取ったり。


 同級生に拘束されて、追試を受けさせられたり。


 ……。


 …………。


 ………………なんだかおかしなものがいくつか混じっていたが、なにはともあれ私は魔法学校で一年のときを過ごした。


 実技系はある程度なんとかなっていたが、筆記系の科目の成績は少しばかし悪かった。だが、まあ、多分大丈夫なはず。なにせ私は人生二回目の人間だ。この程度の勉強、なんら問題はない。


 私は魔法学校二年生へと無事進級――



 *  *  *



 魔法学校の空き教室の一つ。


 その部屋に私はいた。そしてその正面には私の半分くらいの身長の女の子がいた。彼女は明らかにサイズの合っていない白衣に身を包み、片手で頭をぼりぼりとかき、もう片方の手で持っている書類を見て言った。


「いや、無理」


「はえ?」


「だって、この成績だよ。貴族だからと甘く成績を付けている部分もあるけど、それでもこれは酷すぎるって……」


「えーと、え? 何か聞き間違えました?」


「何一つ聞き間違えていないよ……」


「うーん……だったら誰か別な人と間違えました?」


「この成績表はレイン・ブレラ、君の成績表だよ。取り違えなんてしていない」


「それじゃあ、えっと………………あれー?」


 二年生へと進級するはずだったその日、私は急に担任の先生に空き教室へと呼び出された。


 ここしばらくは大人しくして、なにもやらかしていなかったはず。用は特にないのに何だろうと考えながらそこへ行くと、そこには険しい表情を浮かべた担任――ワカヅ先生が待っていた。


 ワカヅ先生は古代魔法研究を専門としている先生で、その研究の過程で古代魔法を暴発。結果、肉体が若いときに戻ってしまい、その上成長することもできなくなったらしい。


 そのため見た目は幼女から少し成長した、ぐらい。いつも白衣を羽織って、ピンク色の髪を一本に纏っている。


 学校内にファンがかなり多い先生だ・


 そんな彼女が告げた言葉が、「君、留年」であった。


 流石に急すぎて、私は事態を認識できず、頭の中が疑問符だらけ。そうして先ほどのやり取りとなった。


「というかキミ、なんでそんなに驚いているんだよ。あんなに赤点だらけで、むしろ問題なく進級できると思っていたほうに、私は驚きだよ」


「いやだって、あんなに追試受けたじゃないですか!」


「追試を受けったって……確かに受けてはいたけど、それも赤点だったりしていたじゃん。別に追試って、受ければそれであとは問題ないっていう、便利な代物じゃないからね。合格点をちゃんと取らないと」


「そんなことは分かっていますよ。だから再追試をし続けたんじゃないですか」


 この学校の救済制度。再追試。追試で赤点を取っても、さらに追試を受けることができる。しかも合格点をとれるまで。


 いくらか点数はマイナスになるらしいが、これで合格点をとれば、最低限の成績は確保できるはずだ。


「うーん、あんなに再追試を受けたのはキミが初めてだと思うよ。何回だっけ、再追試の数」


「確か、五回……いや、六回だったかな。まぁ多分、そのくらいだったはずですね」


 改めて数えてみるとちょっと受け過ぎだな。


 合格点が取れるまで、何回も受けることができるとはいえ、最低でも五回は受けている。うん、これはダメだな。自分でもダメさが理解できてくる。


「ホント、いっぱい受けたね……」


「そんなに受けたのに、ダメなんですか?」


「むしろそんなに受けからだよ。受けた数が多ければ、成績として点数化するときの点数も低くなるに決まってるだろ。それを一回どころか、ほぼ毎回やってたんだ。最低限の成績を下回るに決まってるじゃないか」


「あれって最低限、成績が確保できるんじゃないんですか!?」


「私、何回も説明したよね!? なんで覚えてないの!?」


「うん。ダメだね。第一キミ、ろくに授業に出ていないじゃないか」


「ちょっと自分鍛えの旅に出ていたので」


 定期的に傘を振り回して魔物を倒したりしないと、身体が鈍ってしまうのだ。それに気分転換にもなるし。……まぁちょっと頻度が多すぎた気もしなくもないけど。


「めちゃくちゃ清々しく言うなぁー」


「それに旅って言ったって、三日ぐらいいなくなっただけじゃないですか」


「テスト当日にいなくなって、それを言うかー」


「あれ、ちょっと、日にちを間違えただけです。それに追試だってちゃんと受けました」


 ワカヅ先生はジト目で私を見上げた。そして成績表を見て、うーうーと唸り声をあげる。


 そのとき、私の中に良い考えが浮かんだ。


「魔物討伐の功績とか使えませんか?」


 結構魔物は倒したはずだし、その中で行商を助けたり、小さな村を救ったこともあったはずだ。あれを功績代わりにして、何か成績にねじ込めたりしないだろうか。


 しかしその希望はあっさりと砕け散った。


「もう使っているよ。ありとあらゆる手を使ったよ。私としても、留年させるなんてしたくないからね」


「その結果が留年?」


「というか、功績系はキミのやらかした問題行動の打ち消しで消えているから、ほぼ無いようなものだよ。……むしろマイナス負債のほうが多すぎる。はっきり言ってキミ、問題児なんだからね」


「えー、少し道場破りをしただけじゃないですか」


「それ自体は問題ないけど、流石にやりすぎ。頻度と規模を考えなさい」


 規模に関しては私だけの責任ではない。この学校に在籍していた三年の先輩方が予想以上に強く、魔法の威力も馬鹿みたいにデカかっただけだ。あの戦いにおける周囲への被害の大半は先輩のものだ。


 それにあの人、三年だったからあんなに戦うことができたのは去年が最後だし。頻度が多すぎたのは仕方ない。


 あれを逃したら、同じようにやれるのなんていつになるかもわからないし。……あの人は確か卒業後は騎士団に入って、国境付近に配属されたとか言ってたよな。元気にしてるだろうか。


 あ、ちなみに先輩との戦績は前線全敗。最後の戦いではあと一歩までいったが、綺麗に打ち上げられて負けた。やっぱり魔法が使えるのはズルい。私も魔力強化以外も、まともに使えるようになりたい。


「ちょっと、聞いてる? 私の話を聞いてる、この問題児?」


「あ。聞き逃しました」


「うん、素直でよろしい。その素直さを勉強にも注いでくれたら良かったのに」


「ちゃんと注ぎましたよ」


「どの程度?」


「傘を振り回すの次くらいには」


「はぁ。それはキミの場合、ほぼないと同意義じゃないか。ていうかキミ、どんだけ傘振り回すのが好きなんだよ……。私も長らく教師をしてきたけど、こんな生徒初めてさ」


 流石にそれは言い過ぎだと思う。


 きっと過去にも一人ぐらいはいたはず。いたと思う。……居てほしい。


「留年だよ、留年。もうこれ以上は無理だ。残念だけど、もう一年私のクラスにいてもらうから」


「そんなぁー」


「そんなも、何もないよ。だいたいキミは実技系はまあまあなんだから、後はちょっと机に向かい合って勉強すれば問題ないはずなんだけどなぁ。……なんでそんなに勉強しないの?」


「傘を振り回すのが楽しいので」


「うん、知ってた。知ってたよ。そんな子だっていうのは十分以上に知ってるさ」


 ため息を漏らすようにして、ワカヅ先生は呟いた。


 私としても留年するとつもりなんてないのだ。ただ少し、傘を振り回すのを我慢できなくなって、ちょっとだけ、ちょっとだけと、抜けだしたりしていた結果だ。うん。全部、私が悪いな。


「まぁ今年度からは去年みたいに問題行動を起こさないでよ」


「あとそれからもう一つ」


「?」


「多分君、このままいけば今年も、去年と同じことの繰り返しになるだろう?」


「流石にそんなことは……」


「ないと言い切れるの?」


「……言い切れ……ない……ですね。はい」


 去年だって、いけると思っていたが、いけなかった。色々と問題行動が絡んだせいでもあるが、実際問題として、勉強が分からなかったのは事実。また追試地獄になる可能性は十分にあった。


「うん。だからそんなキミをサポートするために、生徒会長が勉強を手伝ってくれるって」


 生徒会長。一年生ながら生徒会に入り、そのまま生徒会長になった凄い人だ。


 ちなみに一年のときのクラスメイト。なかなかに強く、剣術の授業のときは楽しくやらせてもらった。それに結構私に話しかけて、色々と気にかけてくれた。


「それは嬉しいですけど、どうしてまた?」


 生徒会長になったばかりで、色々と忙しいはずなのに。()()()()()()()()()()()()()になぜそんなことをしてくれるのか。


 ワカヅ先生も不思議に思っていたのか、顎に手をやりながら首を傾げた。その姿は少し可愛らしかった。


「私も詳しいことは知らないけど。キミのことを活躍だとか、恩だとか、なんとか言って、そのために云々だったかな」


「????」


 どゆこと?


 言っちゃ悪いが、彼女とは特別仲が良かったわけではない。


 ますますわからなくなった。


「まあ、そういうわけだから、その内彼女が勉強会を開くらしいから、ちゃんと忘れずに行くんだよ」


「はーい」


 それにしても留年か……。我が両親の性格からして、このことで怒ったりはしないだろうけど、だからと言って呑気にしていることもできないな。


 しばらくの間、傘を振り回して遊ぶのは控えるか。それで勉学に励んで、二度目の留年とかいう間抜けをやらかさないようにしないと。


 私はガクリと肩を落としながら、空き教室を出て行った。

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