3話 騎士と一緒に森へ
結局というかなんというか……。私は神様の思惑通り、傘を振り回すことにハマってしまった。
今までゲームを我慢させられた子供がその抑圧から解放された瞬間にだだハマりしてしまうくらいには嵌りにハマって、のめり込んでしまった。
暇さえあれば傘をバンバン傘を振り回したり、物をふっ飛ばしたりした。
もちろんふっ飛ばしても良いものではある。流石にふっ飛ばしたりしてはいけないものをふっ飛ばすほどに見境はなくなっていない。その程度の理性はちゃんとある。
別に理性のない欲求第一なバーサーカになったわけじゃない。その点は勘違いしないように、気をつけてほしい。
まあ、しかし、理性はあっても夢中になってしまったことは事実。
私の頭の中はどうやって傘を振ったら楽しめるかで一杯であった。
おかげで魔法の授業には集中することができず、内容の九割以上が頭には入っていない。右から左、左から右へと内容が耳を素通りしてしまった。
それによって今の私が使える魔法は身体強化オンリー。せっかく異世界に転生したというのに、なんとも異世界感のない魔法のレパートリーである。まぁ使えるものが一つしかないのにレパートリーも何もないとは思うけど。
それと剣の授業のほうはかろうじて集中はできた。
……何も問題なくというわけではなかったけけど。鍛錬用の木剣があったのに、それを使わずに傘を使い続けて、ティークを終始困惑させ続ける始末だったけど。その上肝心の授業内容はフィーリングとしてでしか覚えていないという不真面目っぷりなんだけど。
もし今の私が傘を振ってもそのほとんどが我流みたいな感じになってしまうだろう。
あまりにもお粗末な学習結果である。
この結果にはティークも最後の授業の際に、「これは……うん……はい……まぁ、気にしなくても大丈夫です。その有り余る魔力があれば最低限の身は守れるでしょう」と漏らしてしまっていた。
……うん。本当、彼には失礼なことをしてしまったな、と反省はしている。だが、後悔はない。多分同じ状況になったらまた同じおようにするだろうと思う。一応今度また会ったら、一言謝っておこう。
なにはともあれ、私は神様によって刷り込まれた、『傘を振りたい』欲求。これにハマってしまった。
しかし、だからと言って全部が全部神様のせいというわけでもない。きっかけを生み出したのは神様であるが、最終判断をしたのは私自身である。
私自身が本質として子供の頃傘を振り回していた頃と変わっていない。その頃と変わらない、傘を振り回すという児戯を楽しんでいた精神年齢だったのかもしれない。
もしかしたら神様の祝福の効力が馬鹿にしていたよりもあって、その力をいかんなく発揮させただけかもしれない。ただ、そんな風に考えるよりも自分自身の適正でこうなったと考えたほうがよっぽど気分が良い。
それによくよく考えてみれば傘を振り回すこと自体は別に間抜けな姿ではない。少し変なことをしている、その程度だと思う。
ここから更にやらかして、間抜けな死にかたをするとかをしでかさなければ、別に問題ないのでは? というか間抜けなことをやらかして神様たちの話のタネにされるとか、そのこと自体、別に私自身が気にしなければ何一つ問題ないのではないだろうか。
だったら傘を振り回すことにハマることにも何も問題ない。
思う存分やりたいようにやっていけば良い。
簡単な話だった。何か注意していく必要もない。
そういうわけで私はこれから欲求のままに傘を振り回していこうと思う。……一応母や父に迷惑はかけないように、それだけは注意しておこう。
* * *
さてさて時が経つのは早いもので、あれから二年が経ち、私は一〇歳になった。
相変わらず傘を振り回すことに夢中な子供である。
一応一般的に見れば奇行とも呼べそうな行動ではあるが、両親は二人して特に気にしていない。むしろ傘がそんなに好きなのね、だったら新しい日傘を買ってあげましょうと、いくつもいくつも新しい日傘を買ってくれる。
私の趣味に対して理解のある両親であり、大変うれしいことである。
一応傘を振り回すときは魔力で強化しているため、壊れるなんてことはそうそうないため、日傘は買ってもらうほどにどんどん増えていく。多分私の持っている服よりも、日傘の数のほうが多いかもしれない。
前世では服装とかはあまり気にせず、必要最低限の数しか持っていなかったため、他の人たちがあんなにもたくさん服を買う意味があまり理解できなかった。
だがこうして傘をいくつも買ってもらうようになって何となく理解できた。
毎日同じようなものでは味気ないし、選ぶという楽しみもない。服がたくさんあるというのは日常のほんの一コマを楽しむ、そのためのモノ。……まぁそのことを理解したのが、女の子になったことでではなく、傘を買ってもらってというのはなんとも奇妙な話ではある。
屋敷の正面に私と父母、それとメイド数人が出ていた。私の後ろの方には鎧に身を包んだ騎士がいた。
「お父様、今日も行ってきます」
「ああ、レイン。今日も怪我をしないようにな。それと騎士の人の言うことは聞くんだぞ」
「はーい、分かっていますよ」
「本当に怪我だけはしないようにな!」
「大丈夫ですよ」
「ほんとに?」
「いつも大丈夫じゃん。ねぇ、お母様」
「レインの言う通りよ、貴方」
「うぅ……そうか」
心配性が発動され、しつこく引き留めていた父をなだめ、私は騎士と共に屋敷を出発した。
私が最近一番にハマっているのは魔物討伐である。
前まではそんなリスキーなことはせず、スローライフを送ろうと考えていたが、傘を振り回すことにハマり、色々と吹っ切れた結果、魔物討伐にハマった。
やはり前世にはないことだから、なんやかんや楽しい。
慈善活動になるから気分も良いし。それも魔物討伐自体、スリルが少し楽しいが、それに加えて傘を振り回して魔物を蹂躙しているというのがさらに楽しさを引き立てる。
剣とかを武器にしなくて大丈夫なのかという疑問があるかもしれないが、傘を魔力で強化してしまえば強度は問題ない。
それに私の有り余った魔力で強化しているのだ、これで壊れるなんてことはほぼあり得ない。
魔力強化による丈夫さ以外に傘自体が使い勝手の良い武器だ。
振り回してヨシ。
突いてヨシ。
叩け付けるのもヨシ。
斬ることだけはできないが、それ以外のことは何でもできる。
そんなスーパーアイテム。
だから私としては、傘を武器にすること自体は結構理に適っていると思う。
そして私は今日も領地内を巡回する騎士の人たちにくっついて、魔物退治をしている。
「ふ、ふ、ふ~ん」
鼻歌交じりに傘を軽く揺らして騎士の人たちについて行きながら道を歩いていく。
「れ、レイン様、転んでしまわないように注意してくださいよ」
「分かっていますよ。大丈夫、大丈夫。傘を引っかけて転ぶなんてことはやらかさないから」
自分の住む場所の領主の一人娘を連れているからか、騎士の動きは若干固く、前を行きながら頻繁に私のほうを見てくる。
まあそれも当然のことか。もしこの任務中に、少しでも私を怪我させてしまう、そんなことが起きてしまえば、何が起きるか分からないという恐怖があるんだろう。
それにしてもだいぶ森の奥のほうに入ってきたが、魔物の一匹も見当たらない。
このこと自体は何も問題はない。
なにせこの場所は森の奥ではあるものの、森自体は結構街に近い。
そのため騎士たちがしっかりと魔物を討伐し、整備をしている。それによりここいらで魔物が出るというのはあまりないし、出たとしてもスライムやみたいな小さな魔物ぐらい。大型な魔物はあまり出て来ない。
こうやって騎士の人たちについて行くのは今日だけじゃなく、これまでに何回もやっているが、その中で実際に魔物と出会った回数は両手で数えられるほどだ。
だけどそういう珍しさ、貴重さというのも魔物退治の楽しさの一つだ。感覚としては釣りと同じ。魚が餌にかかるのを待つかのように、魔物が出てくるのを期待しながら歩いていく。非常に似ていると思う。
ただそれはそれとして、いつまでも歩き続けるというのは少し退屈になってくる。
周りに人がいるから、傘を大きく振り回したりするというのは危ないので、軽く揺らす程度しかできないし。
「ねぇ、騎士さん騎士さん」
「うん? なんでしょうか、レイン様」
「最近であった中で一番強かった魔物はどんなやつだった?」
暇つぶしがてら、私は一番近くにいた騎士の一人にそう尋ねた。
「うーん、そうですね……」
ガチャガチャと身につけた鎧を鳴らして歩くその騎士は、年齢は二〇過ぎぐらい。まだ騎士になって日が浅そうである。そのため、魔物に対する視点としては私に近いだろう。
「……一番強かった……と言うよりも厄介だったのはオークでしたね」
「それはやっぱり力が強いから?」
「それもありますが、やはりオークになってくるとゴブリンとは違って、私たちのように言葉も話してきますから。それで命乞いをしてきたりしますから、それが罠だとは分かっていても理性が止めようとしてくる……それが一番です」
「なるほど」
「レイン様も気をつけてくださいね。魔物という種は、人類に敵対する生き物。その思考は私たちとは相いれず、時には狡猾な手を使って私たちを殺そうとしてきますから」
「うん、気をつけておきます」
私は笑顔でそう返した。
すると騎士は顔を赤らめ、私から顔を逸らしてしまった。
一応今世の私の見た目はかなり可愛い部類だ。母譲りの蒼い髪。それと紅い瞳。陶磁器のように白い肌。胸は少し大きいぐらい。誰でも一目見れば可愛いと思う。
私としても毎日眼の保養になってとても良い。
最初は女の子に転生って、と思っていたがなんやかんやこの性別を楽しんでいる。
それにしても魔物いないなー。前に魔物と出会ったのはいつだったか……五回くらい前かな? そのときに遭遇たのは確かスライムだったはず。
魔物としては結構よく見られる。ただし思考能力はほぼなく、反射反応だけで生きているような魔物。そのため魔物を倒したことのない人たちが最初に倒す魔物として使われたりもする。
あのときは森の一角にスライムが数十匹積み重なっていた。直近の雨風で飛ばされてきたんだろうと騎士の人は言っていた。
そのスライムたちを、騎士たちと一緒に倒していった。傘の先でスライムの核を突いたり、フルスイングして壊したりして、倒していった。ちなみに私的に一番気持ち良かった倒し方はフルスイングだ。
スライムの変幻自在で、粘度のある肉体の中を傘の先が通過していく感覚。ムニュムニュとした感触が傘を通じて私の手に味合わせてくれて、結構癖になるのだ。ちなみに剣でスライムを斬ると、その感触はしないらしい。
……あの感触は好きであるが、やはり魔物と戦うとしたら、ああいう作業感のある感じではなく、しっかりと命の取り合いみたいなことをしてみたい。
そんなこんなと考えていると、急に騎士たちが立ち止まった。どうしたのかと疑問に思うがすぐにその理由は分かった。何やら草をかき分けて走ってくるような音が聞こえてきたのだ。
騎士たちは剣の柄に手をやり、いつでも抜ける体勢に。私もそれにならい、傘を弄ぶのを止め、全身を魔力での強化をしっかりと行って備えた。
そしてわき道から飛び出してきたのはスライムやゴブリンではなく――一人の男だった。
彼は着ている服を土や血で染め、息を切らすようにしていた。よく見ると服の下から結構の血を垂れ流しており、脂汗をかいている。
その背には、少し土を付けて汚れてしまっているが、煌びやかさの感じる服を着ている桃色の髪をした、私と同じくらいの齢の少女がいた。
「何者だ貴様は!」
「ッ!? あ、あ、あなた、がた……は……?」
「私たちは騎士だ。貴様は何者で、その背に背負っている少女は誰だ!」
騎士たちは男にじりじりと近寄りながら叫んだ。
男は騎士の言葉に膝から崩れて、漏らすように言った。
「ああ……わた、しは……わたしは、この方の、執事をしているもの、です。すこし、まえに……まものに、おそわれて…………いのちからがら、にげてきたのです」
「何? 魔物に襲われたのはどこだ」
「ここから、すこしはなれたばしょで……みずうみの、あるところです。あそこで、きゅうけいを、していたらきゅうに……。ほかにも! ほかにも、まだひとが!!」
「あそこか。分かった、良く逃げてきた。あとは私たちに任せて休め」
騎士の一人はそう言って男の肩を背負い立ち上がらせた。
「これより救助および魔物退治に行く。レイン様、騎士を数人つけますので、ここでこの二人と一緒にいて貰えますでしょうか」
「……はい、分かりました」
私も行ってみたかったが、流石に貴族の娘をこんな突発的な事態に巻き込ませるというのは危険、むしろ足手まといとなるからと判断したのだろう。そう考えると私は大人しくそう答えた。
「では行動開始!」
「「「はい!」」」
私の返事を聞くや否や、すぐさま騎士たちは男の飛び出してきたところから奥の方へ走り出していった。土埃が舞い、地響きが聞こえ、すぐにその姿は森の奥に消えていってしまった。
私はそれを眺めながら、ひとまず疲れて寝てしまった男とその背に背負われていた少女の近くに行った。
この場に残った騎士たちは周りを警戒しつ、男の治療をするために荷物を広げ始めた。
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