1話 女の子に転生するとか聞いていないんだが!?
意識を取り戻し、目を開ける知らない天井。やけに装飾に凝っていて、これまでの人生で一度もお目にかかれたようのない、なんだか場違い感を感じてしまった。
「あぶぅ……」
俺の口からは何やら声にならない声が聞こえた。
何やら柔らかい布団に寝かされているようだった。しかも身体は何だか小さきがする。すこし動かして自分の手を見てみると、もの凄く小さかった。
「あぶぶ」
もう一度口を動かしてみたが、さっきと同じく言葉が上手く話せない。
これらのことを考えるにどうやら今の俺は赤ちゃんみたいだ。
ということは俺は本当に転生をしたようである。
転生したという喜びはあるが、それ以上に。転生する直前にあの神様が言い残した言葉……。
傘をどうしてもどうしても振り回したくなる欲求を祝福として刷り込んでおいた、とか。何を考えているんだあの神様は。
もしかして俺をこの異世界でまた前世と同じような死にほうを晒すことを願っているとかそういう魂胆か? はっきりいってこんなもん祝福じゃねぇ、ただの呪いだ、呪い。
祝福と呪いは表裏一体とも言ったりするが、これに関しては何一つ祝う要素がない。純度100パーセント、俺のことを笑うためのものだ。完全に呪い。
どんなに良い感じに見ようとしても、見ることができない。まごうことなく呪いである。
一体人間を何だと思っているのやら。
あそこは神を楽しませてくれた礼にとかで、メチャクチャサービスをして転生させてくれるっていうのがお約束だろ。
俺のことを面白おかしな死にほうをしてくれる人間とでも考えているのだろうか……。いや、普通にあり得るな。だって神様だし。人間スケールの考えとか通用する相手じゃないな。
はぁ……無神論者が神様の口車に乗ったのが間違いだったか。
神様なんて、古今東西、どこの神話でも関わったらろくな目に遭わないっていのがお約束だしな。
……だけどまあ、祝福だか呪いだか、傘を振り回したくなる欲求だか知らんが。頑張って耐えれば、気にするようなことでもないか。
うん、そうだな。神様はあんなことを言い残したが、別にだからといって欲求に従わないといけない道理なんてない。
むしろこの程度の欲求を我慢するだけで、異世界に転生して、二度目の人生を楽しむことができるんだ。こんなの儲けもん以外のなにものでもないな。
そう考えてきたら楽しくなってきたぞ。
一応転生特典で、膨大な魔力をあげてくれるはずだし。……もしこれで何もなかったら、完全に俺を馬鹿にしてるけど……。流石にそこまではないはずだ。
あらかじめ考えていた通り、間抜けをやらかさないように気をつけて、たくさんの魔力を使って楽をしながらスローライフを送るか。
よーし、見てろよ神様。あんたの祝福なんて弾き飛ばして、俺はまともに生きて、今度はあんな間抜けな死にほうを絶対にしないぞ!
「あぶぁ―!!」
俺は小さい腕を伸ばし意気込んだ。
「ぶぶぶ……」
そしてもう一度自分のいる部屋を見回した。
俺がいるのは木製の柵付きベッドで、窓際に置いてあるため、太陽の陽がカーテン越しに俺に差し込んできている。
部屋の広さはそこまで広くはないが、しかし狭いと言うわけでもない程度。一人用の部屋と考えるとちょうどいい感じのサイズ感だ。
床には赤い絨毯が敷かれている。それもいかにも柔らかそうで、もし俺がベッドから落っこちてもできるだけ怪我をしないようにと配慮されたような見た目だ。
それから俺はベッドに寝かされているため、はっきりとは見えないが、その絨毯の上には赤ちゃん用のおもちゃらしきものがいくつか置いてあった。
そして置いてあるものどれもこれもが少し高そうな印象を受けた。
目覚めたときに見た天井からも感じたが、やけに豪華な感じの部屋である。もしかしたら俺が生まれたのは貴族の家とか、そんな感じなのだろうか。もしそうなら生きていく分にはお金では困ることはなさそうだ。
ただ、貴族となると権力とか政争とかみたいなやつが少し面倒臭そうだ。てか、そういうのに関わったら、神様の思惑通りの間抜けな死にほうを晒してしまう可能性が高まってしまう……。
うーん、お金に関しては困らないから良いかなって一瞬思ったが、やっぱりキツイな。
普通の人として産まれたほうが俺としては良かったかもしれない。
まぁこのことに関しては、気をつけて生きていけばそうそうないだろう。
そんな風に考えていたら俺のいた部屋の扉が開いた。
「あらあら、起きてたの」
中に入ってきたのは綺麗な女の人だった。蒼い髪が印象的な美人の女性。彼女は後ろにメイド服を着た女の人を一人連れており、ホワホワとしたような雰囲気をしていた。多分この人が今の俺を産んでくれた人だと思う。
推定俺の母親は、俺の顔を覗き込みながら不思議そうにして言った。
「さっきご飯は食べたばかりだけど、眠たくないのかしら」
俺の記憶にはないが、どうやら俺はさっきご飯を食べたらしい。ご飯という言い方だから、ミルクとかじゃなくて離乳食とかそんな感じだろうか。
うん。成人男性の意識を持って、女の人の胸を吸うというのは若干の抵抗があるから、そういうのをする過程を飛ばせたのは嬉しいことだ。
あの神様のことだからわざと産まれたときから始めさせて、その間の様子を見たりするとかはしないのかと思ったが、別にそういう戸惑う光景を求めているわけではないということなのだろう。
求めていることは間抜け面。それも何か状況によってしょうがなくなったという感じのものではなく、俺が考えて判断し行動した結果からの間抜け。きっとそういうものだろう。
「奥様、もしかしたら暑かったのかもしれません」
「うーん、確かにそうかもしれないわね」
「ベッドの方を動かしましょうか?」
「いえ、大丈夫わ。屋敷の中でお散歩でもしていれば、だんだんと眠くなってくれるわ」
「では薄めの毛布を用意いたしましょうか」
「ええ、そうしてちょうだい」
「了解いたしました」
メイドは母親とそんな会話をすると部屋を後にした。
ついさっき目覚めたばかりで意識をしていなかったが、確かに温かいな。陽ざしが差し込んでいるから、と考えるには少し暑い。俺の寝ているベッドも柔らかそうではあるが、その触り心地はサラサラとしていて、かけられている毛布も小さく死して薄い。俺が暑くならないようにしているみたいだ。
「そろそろこの暑さの原因の魔物を討伐できるからねぇ~。もう少しだけ我慢してね、レイン」
レイン。
それが俺の今世の名前らしい。
なんだか雨みたいなイメージを受ける。もしかして神様わざとか? 傘を振り回して死んだ俺に、傘にまつわる雨という名前を付けられる……。まあたまたまかもしれないか。
もしこれでアンブレラとかみたいな名前だったら完全に確信犯であるが、そうではないし偶然という線もある。
むしろあの呪いを刷り込んできた神だし、やるならこんな遠回しな感じではないだろう。
……それにしても魔物。魔物と言ったか。
魔法のある世界と言っていたが、ファンタジー作品とかでの定番である魔物もいるのか。
「あぶぶぶぅ」
「あらあら、どうしたの?」
「あぶぶ?」
俺は魔物のことを聞きたくて、言葉にならない声を発した。
「お母さん?」
「あぶ……」
残念ながら伝わらなかったようだ。
まあ当然と言えば当然である。むしろ普通赤ちゃんの発した言葉から『魔物』という単語を聞こうとしたと考えるよりも、『お母さん』と言ったと考えるほうが普通であるか。
「奥様、お持ちいたしまし――」
「ねぇ、聞いたかしら、聞いたかしら。今の、聞いたかしら!」
「どういたしました、奥様?」
「今、レインがね、私のことを『お母さん』と呼んでくれたのよ!」
「そ、そうですか。こちら毛布になります」
よほどうれしかったのか、母親は毛布を持ってきたメイドに詰め寄り、若干ぎみに言った。
メイドは若干その圧に圧倒されながらも、持ってきた毛布を押し付けるようにして渡しながら優しく押し返した。
「ねぇ~、もう一度言ってレイン。お母さんって、もう一度」
俺を軽く毛布でくるみ、抱き上げながらそう言った。
「あぶぅーぶ」
なんとなく『お母さん』と返してみるとまた嬉しそうにして、スキップするみたいに歩き出した。
興奮している様子ではあるが、俺のことを落としたりしてしまわないように、配慮しながら歩いている。まだ理性はなくしていないみたいだ。
メイドはそんな母親の姿に呆れつつも、微笑ましいものを見るような様子で見ていた。
部屋の外にでると、廊下も部屋の中と同じく、高そうなものが置いてあるという印象を抱いた。
メイドとかがいるし、完全に俺の生まれが貴族であることは間違えようもないみたいだ。
それにしても、冷静になって考えてみると、神様はなんで俺を貴族の生まれなんかにしたのだろうか。わざわざ呪いで俺に『どうしてもどうしても傘を振り回したくなる』なんていう欲求を刷り込んでまで。
別に欲求を刷り込むまでは理解できる。……理解はしたくないが、勘弁して欲しいし、何してくれてんだという感じであるが、理解できないことはない。
ただそんな欲求を刷り込むなら、貴族の生まれとかじゃなくて、平民の生まれとかのほうがよっぽど傘と接触する機会がりそうな気もする。そっちのほうが俺の傘による間抜けな姿を見やすいと思うのだが……。
もしかしたら貴族というのは自分で傘をさすよりも、従者とかメイドみたいなのに傘を持たせるイメージなのだが、違うのだろうか。
それとも貴族だからこそ、そんな奇行を晒してしまう、そういう間抜けさや奇抜さみたいなものを見たいのか。
うーむ、神様の考えというのは分からん。そもそも俺の間抜けな姿を見て話のタネにしたいから転生させるってことをやる時点でなかなかに理解不能ではある。
よく考えてみれば、こういうのは魔王を倒せとか、世界を救えみたいな使命があって転生させるものだろうに。
まあ、現実と物語というのは違うものだし、実際問題としてそういうことはないだけか。
そんな風に考えながら俺は母親の腕の中で揺られて、家の中を歩いていく。
肉体が赤ちゃんであるせいか、何だか眠気がしてきた。瞼が勝手に落ちてきて、首がこくこくと少しずつ船を漕いでいく。
ひとまずこれからの人生も長いし、今はこの眠気に身を任せて寝ておくか。
「それにしても本当に可愛いわね」
「そうですね奥様。奥様似の可愛らしいお嬢様です」
うん?
なんか今変なことを言わなかったか?
「うふふ、きっと可愛い子に育ってくれるわよ」
お嬢……様……?
「きっと奥様のような綺麗なお方に育ちますよ」
まさか……。
「ええもちろん。だって私の子ですもの」
レインという名前で特に気にしてもいなかったが……。
「あぶ………………」
今世の俺、男じゃなくて女の子かよ!?
「あぶぶぅ!?」
「あら、どうしたのレイン。急に暴れたら危ないわよ」
「なにか気になってしまったのかもしれないですね」
二人は微笑ましそうに俺を眺める。
しかし俺はそんなことを気にしてられない。見向きもできない。
女の子に転生させるなんて神様は言っていなかったから油断した。普通にこういうこともあり得るか。別にあの神様、俺のことをまた男として転生させるなんて言っていなかったし。性別なんて二分の一。どっちかで産まれるなら、そりゃ女の子として生まれる可能性も普通にあったわ。
男の意識を持って女の子として生きていくとか、かなり厳しいものがあるんだが。
ちゃんと転生する前に言っておくべきだった……。
てかまさかあの神様が俺を転生させようとしたときやけに面白そうにしていたのって、こうなることを知っていたからとかないか。転生させる前から俺が間抜けを晒して、それを面白がっていたのでは?
なんだか悔しい……。
実際にそうでなかったとしても、そうかもってことが頭を過って悔しすぎる。
これ以上は。これ以上はこんなことはやらかさないぞ!! 絶対に、絶対にだ。神様たちの話のタネにされるような人生を送ってたまるか!!
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