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プロローグ 傘の間違った使い方

今日はあと3話更新します!

 『傘』。


 雨や太陽の光が直接身体に当たってしまうのを防ぐ為に使われる道具である。しかしそんな正しい使い方ではない、間違った使い方をみんな知っていると思う。


 小学生ぐらいの頃、誰もが登下校の最中にやったことがあるはずだ。


 傘を刀に見立ててチャンバラをしたり、傘の持ち手を上手く使ってグルグルと回転させたり、そんな風な用途。


 遊んでいたら大人に怒られたり、傘の先が地面に引っかかって壊れるなんていうのはご愛敬。そんな使い方が子供時代にはあった、アレだ。


 成長していくにつれて多くのことを学んでいく内にその使い方は間違っている、やってはいけないと理解していき、そうして正しい傘の使い方だけをしていくようになってくる。


 そうしていつの間にか傘では遊ばなくなってしまう。


 しかし、誰もがやったことがあるであろう使い方。


 子供というのは刀を振り回してみたいと憧れるお年頃。そんな子供にとって傘というのはちょうどいいサイズで、さらに登下校というタイミング。一緒に家に帰るときに友達と遊ぶのにちょうどいいツールだ。


 もし一人で帰るにしても、それはそれで手持ち無沙汰な手を動かすという意味でもちょうどいいツール。


 そんな登下校における万能ツール。


 それこそが傘であり、傘のもう一つの使い方だ。


 この間違った使い方であったとしても、そうして遊んでいるとき、その瞬間は楽しかったはずだろう。


 そもそも傘というツールの形やサイズが丁度良すぎるのだ。


 持ち方を変えればトンファーのように、また変えれば銃のように、またまた変えればクルクルと回しやすく。


 腰に差せば、まるで刀を持っているかのようなサイズ。


 雨風に耐えられるようにある程度の強度があるから、傘をぶつけ合ってもすぐには壊れない頑丈さ。


 重さもほとんどないから、振り回しやすい。


 何もかもが遊ぶために繋がっていると言いたくなるほどの丁度良さ。


 これほど良いツールはまたとない。


 こんなにも良いツールがあるのに遊ばないなんてことはないはずだ。だって絶対楽しいに決まっている――というよりも楽しかった。


 すごく、もの凄く。もしそうではなかった、もしくは遊ばなかったという人がいるなら、貴方はきっと子供時代の楽しみの四分の一を損している。……ちなみに残りの四分の三は学校給食、夏休み、それからクリスマスの三つだ(個人の独断と偏見を多大に含む)。


 ここまで長々と語ってしまったが、俺が何を言いたいのかというと、傘で遊ぶ。特に俺にとっては『傘を振り回す』、この行為をしているととても楽しいということだ。


 怪我をする、させる。


 傘が壊れる。


 だからやってはいけない。


 そんな正論はひとまず置いておいて、とにかく『傘を振り回す』のは楽しい。何者にも縛られていない、開放感みたいなものも感じられて気分が良くなる。


 そんな良いモノだから。

 

 就職する場所をミスってしまい、ブラック企業に就職。残業は日常茶飯事。定時帰り? なにそれ異世界の言葉? という社会人生活を送っている俺が、日々のストレスと大雨に打たれながら夜遅くに帰っているストレスから、傘を振り回したくなってしまったのは別に誰かに咎められることではないと思う。


 むしろみんなには共感してほしい。同情してほしい。そしてお金を恵んでほしい。


 だって毎日毎日、上司によって仕事が無限に積み重なって、やってもやって終わらない無間地獄。しかも期限は短い。文句を言えば残業すればいいと……。


 そのクセ、給料は全くと言っていいほど上がらず低賃金。文句を言えば、「自分が成長していくのを感じるだろ! それが報酬だ!」なんて返すのが日常風景。


 こんな生活でストレスがたまらんわけがないと思う。


 むしろ今までよく爆発せずにいられたと、褒めてほしいほどだ。


 まぁ、とうとう今日、それも爆発してしまったんだが……。


 初めはやけ食いでもしようかなぁと考えていたんだ。ただ、住宅街にも関わらず、すっかり夜も更け、大雨が降り注いでいるせいで、人っ子一人いない。

 

 そんな状況に積もりに積もったストレスが爆発し、子供の頃を思い出し傘を回し始めたのがスタート。


 もう雨に濡れるとか気にするもんか。むしろ風邪ひいて、その風邪をあの上司にうつしてやる。そんな勢いで俺は傘で遊び始めてしまった。


「給料上げろォォォおおお!!」


 そう叫びながら傘をグルグルと回転させる。傘の柄が描く軌跡はまるでヨーヨーのようでもあった。


 雨の勢いはさらに強くなり、俺の着ているワイシャツは水分を吸って重くなり、身体にぴたりと付いていた。


 カバンのほうにも雨が染み込んでしまっているのか、若干色が変わっていた。中には色々と資料が入っているが、もう知るか。


 ここまで来たらとことんまで遊んで羽目を外してやる、そんな意気込みを抱いて、俺はアパートまでの道を傘を振り回しながら駆けだした。


「クソ上司がぁぁああ!! 風邪ひきやがれぇぇええ!!」


 叫び声が住宅街にこだまする。一瞬通り過ぎた家のカーテンが開いたような気がしたが、気のせいだろう。……気のせいだと信じたい。


 しかし。しかしだなぁ……。


 傘を振り回すのは危ないし、傘が壊れるかもだしで、良くないことっていうのは分かるよ……。


 だけどこんな日々を送っているんだから、この程度羽目を外すくらい見逃してくれてもいいじゃん。


 ちょっと気分が乗りすぎて、大声を――もしかしたら奇声レベルの声を出してしまって近所迷惑だったかもしれないが、そこも多めに見てほしい。


 もしかしたらしばらくの間、ここら辺で不審者が出たってなるかもしれないが、今日だけなので本当に許してほしい。


「ああーもう!!」


 雨を全身で浴びながら、俺は思いっきりビニール傘を振り回した。


 あの頃は良かったな。


 将来なんて考える必要もなく、ただ毎日を楽しんで暮らすことだけを考えていた。それが今はどうだろう? 仕事に押しつぶされて、日々を楽しむ余裕なんてなく、趣味はもはや積み上げるだけの収集品になり下がってしまっている。


「こんなはずじゃなかったんだけどなぁ……」


 思わず立ち止まって、言葉を漏らしてしまう。


 過去に戻れるものなら戻りたい。今みたいに傘をブンブンと振り回せるような、そんな時代に。……まぁ、そんなこと実際に起きるわけもないか。


「……うぅぅ……寒っ……」


 雨をずっと浴びていたせいか、すっかり身体が冷えてしまった。そのせいか段々とさっきまでの熱も引いてきて、実際問題、明日も仕事があるという現実を思い出してきてしまった。


「最後に思いっきり振り回して、あとは大人しく帰るか……」


 アパートに帰ったら濡れたワイシャツやズボン、それにカバンとその中身を乾かして……それからご飯を適当に食べて……。そんな風に頭の中で予定を組み立てながら、俺は傘をブンブンと回転させ始めた。回転するスピードはどんどん速くなっていく。もしこれが側溝の溝に引っかかったら、即ぶっ壊れるな。


 そんなことを考えながら、だけど手は一切緩めない。


 回転する傘は視界いっぱいの雨粒を切り裂きながら円を描く。


 雨で手元がすべらないように、しかし握りすぎてスピードが落ちてしまわないように。上手い具合の力加減で傘を回転させる。


 そうして傘の回転が最高潮に達したその瞬間――


「っ!?」


 ――回転させていた傘が俺に急ブレーキをかけた。


 きれいなフラグ回収と言うべきか、俺の振り回していた傘は見事に側溝の溝にはまっていた。そして傘は真ん中の辺りでお手本のような折れほうをしていた。


 急ブレーキをかけられた衝撃で俺は地面に倒れ込んでしまう。しかも雨で地面が濡れいるせいで、まともに受け身を取ることもできなかった。


 勢い良く、全体重を乗っけて頭を地面へと叩きつけてしまい、俺の意識は無くなった。



 *  *  *



「そういう訳でお主は死んだぞ」


「えー」


 意識を失った俺が目覚めたのは何もない真っ白な空間だった。そしてそこにいた一人の老人にそう告げられた俺は思わずそんな風に言葉を漏らしてしまった。


「あんなんで死んじゃうんですか」


「まぁ、人間だからな。あの程度で死ぬなんてのは造作もないぞ」


「マジかぁ……子供みたいに傘を振り回して、その上奇声を吐いていたら、間抜けに死亡……。絶対に笑われる。会社とか、同窓会とか、ご近所周りとかで噂されて笑われるわ……」


 傘を振り回すのは危ないというのは理解していたが、その結果がこんな間抜けすぎる死にかたとか、あまりにも恥ずかしい。どうか俺の死に様が噂されないことを願う。


「そういえば聞いていなかったんですけど、貴方は誰ですか?」


「儂はもちろん神じゃぞ。思う存分崇めて良いぞ」


「はぁー、やっぱり死んだら神様にあったりするもんなんだ」


「うん? 普通はないぞ」


「え? じゃあなんで……?」


「そりゃ、久しぶりに間抜けすぎる死にかたをした人間がいると話題になってな。その話題の魂を呼び寄せただけじゃぞ」


「えぇ……」


 まさか神様にすら間抜けすぎる死にかたと思われるとか。


「それに最近の神様界隈だと、ありふれた死に様しかなくてな。お主の死にかたはなかなかに良い話のタネになっておるぞ」


「マジで………」


「うむ。多分、これから50年ほどはお主の死にかたを話のタネにしていくと思うから、光栄に思うが良いぞ」


「マジ? 50年も俺の死にかたが話のタネに?」


「うむ、50年じゃ。なんだ短かったか?」


「いやいやいや……むしろ長すぎるくらいだろ……」


 悲報、俺の死にかた、神様たちの話のタネになっているらしい。どんな刑罰だよこれ。死んでからも笑われるなんて、しかもそれが50年もとか。神様たちの感覚からしたら短いのだろうが、人間にとっては十分以上の時間だ。


 あまりにも恥ずかしい。もう恥ずかしすぎてもう一回死ねる勢いだ。


「そして儂がお主を呼び寄せたのには理由がある!」


「俺をからかって笑うためですか?」


「そうじゃないぞ。というかお主、何だか口の利きほうが軽くなってない? 一応儂神じゃぞ」


「自分の間抜けさに呆れてきて、自暴自棄になっているだけですよ……」


「そうかそうか。だが自暴自棄になるのは早い。早速で悪いが、お主には記憶を持って転生して、新しい人生を送って欲しいのじゃ」


「記憶を持って?」


「うむ。それと転生先は前とは違う世界じゃ」


 つまり異世界転生ということか……。


 間抜けな死にかたをし、死後もしばらく笑われて得られるのが異世界転生。なんだか少し悪くない気もしてきたが……。


「なんじゃその怪しい者を見るような目は」


「いや、だって……」


 あんなにも神様の間で話のタネにされているという発言を聞いて、そこからの異世界転生させてやるという話。


 なにか裏があるように感じてならない。


「俺を転生させる目的って?」


「特にはないぞ」


「本当に?」


「本当のホントじゃ」


 神様は白い髭を揺らしながら笑った。そして「ただ――」と繋げて言った。


「あんな死にかたをしたお主の人生というものを面白おかしく見て、話しのタネの一つにするだけじゃ」


「やっぱり、裏があった!! 絶対嫌だからね!! 転生しないから。どうせまた笑いわれたりするくらいなら転生してたまるか!!」


「何を言うか! 神の話のタネにしてもらえるのじゃぞ。むしろ光栄に思わんか、この罰当たりが!」


「すいませんね。こっちは無神論者で生きてきたんでー」


「はぁー、もう最近の人間はこういう奴等ばかりじゃ。昔だったら、泣いて喜ぶ奴等ばっかじゃったのに……」


 神様はため息を漏らしながらそう言った。


「だったら転生特典というものも付けておいてやる」


 転生特典。


 転生して、また恥ずかしい思いをするのは嫌であるが、その言葉は少し気になってしまう。……というか転生すること自体はむしろ嬉しいほうだ。


「例えば……?」


「うーむ、お主を転生させる世界は魔力があるからな。普通の人間よりも膨大な魔力とか。あとは何か特別な魔法とか」


 ……別に、転生して、また間抜けな死にほうをするとは限らないし。


 それに変なことをやらかさず、スローライフを送っていれば、特段間抜けなこともやらかさない。俺自身、傘を振り回していたら死んだみたいなレベルの間抜けをやってきたわけではないし。そういうことを日常的にやらかす人間ではないし。


 気をつけて生きていけば、別に俺にとっては特にデメリットはないのか。


「うん、まあ、じゃあ良い……転生して」


「おっ、本当か? いやー良かった良かった。同意を得ずに無理やり転生させるのは少し面倒じゃからどうなると思ったが。うむ、良かった良かった」


「転生特典は……膨大な魔力とかで」


 魔力がある世界だし、ひとまず魔力が多ければ困ることはないだろう。


「うむ。分かった。では早速転生させるぞ」


 そう言うが早いか、俺の身体は青白い光に包まれ出した。そして段々と意識が遠くなっていくような感覚がしてきた。


 絶対に次の生では今回みたいな間抜けはやらかさないようにしないと。目指すはスローライフか。


 そんな頭で考えていると、神様が何やら面白そうな笑みを浮かべて言った。


「ちなみに、お主の魂には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()欲求を祝福として刷り込んでおいたからな」


「は?」


 何それ聞いていない!?


「せいぜい面白い(間抜けな)人生を見せてくれよ」


「えっ、ちょっ、ま――」


 最後の最後で爆弾発言を残し、俺は何も文句を言えぬまま、意識を失った。

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