第78話:雪人が自分で選ぶ、教本
さてさて。
特殊な『本屋』さんから帰宅した女性陣三名。
もともとの作戦の通り、アルバイト帰りの雪人も一人で外食なので、女性陣も、外食を済ませて、夜。
「ただいまぁ、暑いぃ」
雪人も、帰宅して。
「駅から家まで歩くだけで、汗だくだくだよねぇ。シャワーもらうね」
と、一旦自室に戻って着替えを取ってから、バスルームへ。
向かう途中。
リビングを通りがかって、ふと、テーブルの上にあるものに気付く。
「あれ? ビデオカメラなんて買ったの?」
「あ」
「あ」
「あああっ! それわっ!」
「何か撮ったの? 後で見せてよ?」
何気なく、触れて、改めてバスルームへ向かう雪人。
「消して消して、すぐ消してっ!」
「わかってるってば、これをこーして、あーして、あれ?」
「貸してみなさぁい」
結局、雪枝が。
「と、言うかぁ、これぐらいなら、見せてもぉ、大丈夫、じゃないぃ?」
一理ありそうな、発言。
「いやいや、それで何をしようとしてたかとか問われたらどーすんの」
突っ込み娘、アカネの鋭い切り返し。
「わかったわぁ……ぽちぽちっと」
無事、消去完了。
「でも、ちょっと残念、かもぉ……」
名残は尽きないようですが。
「この間のプールじゃないけどさ。どこか家族旅行行ったらちゃんと撮ろうよ」
「そうねー」
「それがいい、わねぇ」
普通は、そうです。
誤った使い方、とは言えないものの。
健全かつ、一般的な、用途に。
再デビューの決まった、ビデオカメラちゃん。
今は、一旦、お休みなさい。
とか、遊んで(?)いると、雪人がシャワー終了。
「ふぅ、疲れたぁ……」
冷蔵庫から麦茶を取り出して、コップに注ぎ、ぐびっと一杯。
「ぷふぁー」
っと、まるでビールでも飲んだかの如く。
「で、何撮ったって?」
「何も撮ってないわよー。今度、旅行に行ったらこれで撮ろうねーって」
「ふーん……」
三人の挙動から。
何か、よからぬ事を考えての事ではないかと邪推する、雪人。
邪推、と言うか、大正解と言いますか。
知らぬは、雪人、ばかリなり。
それはさておき。
「そぅそぅ、雪人ぉ、プレゼントが、あるのぉ」
と、雪枝が代表で。
どさっと。
テーブルに紙袋を乗せる。
「何、これ……えっ!?」
紙袋を開いて、中を見て、硬直、雪人。
「また、こんなモノを……」
「色々考えてぇ、雪人にもっとぉ、お勉強、してもらいたくてぇ、ね?」
紙袋の中身と、母を見比べ、見比べ。
「はぁ……」
巨大なため息をつく、雪人。
期待されていること。
期待に応えないといけないこと。
わかってるってば、と、言いたいところでは、あるのだが。
とりあえず、袋の中から、一通り取り出して、テーブルに並べてみる。
上から順に、タイトルを確認。
裏表紙の『あらすじ』をチェック。
右。
左。
左。
右。
二つの山に、分けてゆく。
「?」
無言で作業する雪人を、これまた無言で見守る、女性陣三名。
何をしているのか?
二つの山が、出来上がった。
片方の山は大きく、もう片方は、小さい。
小さい方の山を、母の方に、ずらして。
「これは、要らない……」
「え?」
単純に、自分が読むものを選別していただけの模様。
「どうして?」
「なんか、内容が、イマイチ好みじゃない」
母達が、雪人のはじいた本を手に、確認。
「うぅ……私が選んだの、ばっかりじゃなぁい……」
雪枝が、嘆く。
「それ、一対多じゃない?」
雪人が、解説。
「モテモテ、うはうはよぉ~」
雪枝が、うはうはする。
「うはうはしてどうする」
雪人は、頭を抱える。
母二人も、サポートとして健在ではあるが、基本的、根本的には、雪人とアカネの、二人の夫婦物語。
女の子がいっぱいの、ハーレムは、根本的に却下されるべきであろう。
「って、言うか、こんな大量に……どこまで買いに行ってたのさ」
苦笑、雪人。
なんなら、自分好みの作品が無いか、探しに行ってみたいな、と。
こっそり、思う、雪人。