第77話:雪人くん用の教本とかを買ってみた
本棚の左側は、ややリアルなイラストの表紙のもので、美里が担当。
アカネの担当は、右側のアニメ調のイラストが表紙のもの。
上の方にある新刊は、背の高い雪枝が、担当。
「あ、これ良さそう~」
「ふむふむ、こういうのもあるのね……」
時々、右と左で美里とアカネが入れ替わったりしてみる。
「んー……あんまりぃ、良いのが無いわねぇ……私も古本探そぅっ、とぉ」
新刊棚の雪枝の感触は、いまひとつの模様。
そんな、こんな、女性三人。
入口の近くの本棚の前をウロウロとしていると。
出入りする他の男性客が、ギョっとして、何事かと二度見三度見していくが。
気にする事なく、本を物色する、三人。
店内の、小さな買い物カゴに、それぞれ目ぼしい本を詰め込んで。
「そろそろぉ、いいかしらぁ」
「だいたい揃った」
差し出された候補の本を雪枝がチェック。
「アカネちゃん……コレはぁ、ダメねぇ。コレとコレもぉ」
「えー……」
アカネの選んだ本にダメ出し雪枝。
「ちょぉっと、趣味がぁ、悪い、わねぇ……」
「そうかなぁ?」
タイトルに並ぶ文字に偏りが見受けられる、アカネ・チョイス。
雪枝としては、息子の雪人にふさわしくない、と、判断。
「美里はぁ?」
「はい、これ」
美里の候補も、雪枝がチェック。
「美里ぉ、これって、ほとんどぉ、自分達用、じゃなぁい?」
「えー、そうかなぁ、こういうのも、雪人ちゃんに必要なんじゃないかな?」
美里のカゴに並ぶ本の背表紙。
タイトルに踊る、百と合うの文字。
「雪人にはぁ、必要、無いと思うのぉ……でもぉ、私達には良いからぁ、採用ぉ」
「ちょ、雪枝ママ!?」
雪人そっちのけで、自分達用のチョイスに、アカネがクレーム。
「お母さん達が自分達用買うなら、わたしも自分用、買うーっ」
「いいわよぉ~」
許可が下りたので、再度、自分用を物色するアカネ。
「そういう、雪枝さんのチョイスは?」
「こんな感じよぉ」
雪枝のカゴ。
見るからに、共通の単語が並んでいる。
「あー、まぁ、雪人ちゃんは、確かに未経験、なんだろうけど、かなりピンポイントね」
とは、美里の感想。
「内容にぃ、近親感が無いとぉ」
「? キンシンカン??」
「雪枝ママ、それを言うなら、親近感、では?」
「そぅとも言ぅ、かもぉ?」
「そうとしか言いませんって」
「あのぉ……」
そこへ、のそっと現れる、男性。
「恐れ入りますが、店内では、お静かに……」
店員さんが、恐る恐る、声をかけて来た。
「あぁ、ごめんなさぁぃ。お会計、よいですかぁ?」
「あ、はい! こちらへどうぞ」
ぞろぞろと。
レジに女性が三人。
前で先に会計をしている男性客が。
後ろをちらちら。
冷や汗、だらだら。
その男性客は会計を済ませると逃げる様に退店。
「?」
女性陣には解らない、男性の、心理。
故に、雪人の心理にも、気付けない、のかもしれないが。
ともあれ、雪枝がまとめて、会計を済ませて、駐車場の車へ。
車に戻って、そのまま帰る、かと、思いきや、荷物を置いて。
「ちょっと、お母さん達、もう一回見てくるから、アカネはここでちょっと待っててね」
無常、母。
「えー? なに、それー?」
憤る、娘。
「せっかくだから、奥の方ちょっと見たいモン」
「むぅ……わたしは奥には行けないのにー」
さらに、憤る。
「今買った本、読んでていいからぁ」
雪枝のアドバイス。
「まぁ、いっか。読みたいの、あるし。いいよ、いってらっしゃい」
今度は、腕を組んで、再度、入店、母二人。




