第61話:夢を見たんだ
ぷにぷにして、柔らかい。
いいなぁ。
わたしも、これ、欲しいなぁ。
寝ぼけた頭の中。そんな思考が流れる。
ぷにぷに。
「うぅ……触らせるのと、触られるのって、こんなに違うんだ……」
ぼそりと、アカネからも率直な感想がこぼれる。
ぷにぷに。
「いいなぁ……これ、欲しいなぁ……」
雪人の思考が、声になってこぼれる。
「!?」
どういう意味か?
自分の物にして、自由にしたいのか?
自分の一部分としたいのか?
寝ぼけた雪人の、寝言に近いと思われるこの発言。
完全に覚醒したら、おそらく、黒歴史になる事、間違いなし。
聞かなかったことにしてあげるのが、優しさと言うもの。
「雪人くん、起きて」
ぺちぺち。
軽く、頬をたたいて覚醒を促す。
ぷにぷに。
雪人の手のひらはまだ、登山中。
「ほら、雪人くん」
ぺちぺち、ぷにーん。
頬をひっぱって、少し、痛みを与える。
「ん……」
うっすらと開かれていた雪人の眼が、さらに開かれる。
「アカネ?」
同時に。
右手のひらから感じる、柔らかな感触。
「おはよ、雪人くん」
「おはよう、アカネ」
ぷにぷに。
「柔らかい……」
「触っても、平気なの?」
「あ……」
寝ぼけた状態から覚醒しても、無意識に、手はそのまま。
「あー……、なんか、なんだろう?」
ぷにぷに。
アカネは、少しくすぐったいが、嫌がる訳ではない。
むしろウエルカム、と、自分でも言っていた程。
「なんかね……夢を見たんだ」
アカネに膝枕をされ。
頭をアカネの太ももに乗せたまま。
右手は持ち上げて、アカネに触れたまま。
覚醒したとは言え、まだ少し気怠い意識の中。
雪人が語る。
母達は、対面のソファで、そんな息子と娘の姿を温かく見守る。
「ちっちゃい頃、一緒にお風呂に入ってる夢でさ」
「へぇ……」
さわさわ。
「アカネと二人で、もちろん、裸で」
「うん、お風呂だったら、裸だね」
さわさわ。
「お互いに触れあって、洗い合ってて」
「うんうん、やってたね」
さわさわ。さわさわ。
アカネも、雪人の頭を優しく撫でる。
今は、洗い合っては居ないが、触れ合っている。
「なんかすごく懐かしくて」
「うん、そうだね」
「いいなって、思ったんだけど……」
「けど?」
「女の子らしくなったアカネとそういう事するのが、いけない事だって思って」
「いけない事じゃないよ?」
「うん、だから、少しづつ、前みたいに」
「うんうん」
「ん……すぅ……」
ぱたん。
持ち上げられていた雪人の手が落ちて。
「また寝た……」
「んー、それ程ショックだったのかな」
「うぅ、我が子ながらぁ、どれだけぇ……」
半ば呆れつつも、暖かく見守る家族。