第56話:ぐるぐるスライダーに挑む母子(おやこ)
『ぐるぐるスライダー』
施設の目玉の、ごっついスライダーに。
今度は、母子ペアが、挑む。
「私ぃ、今度はぁ、前、が、いいなぁ~」
順番待ちの列に並びつつ、雪枝がぽつり。
「ぇ……」
背の高さ、つまり座高の高さで言えば、息子の雪人より母・雪枝の方が高い。
雪枝が前になると、雪人が前方不注意になるが。
母親に、抱かれるのがいいか? 抱くのがいいか?
「どっちもなぁ……」
いずれにせよ、気乗りできない、雪人。
「まぁ、後ろでいいか」
結局、後ろから雪枝に抱かれると、子供子供して見られるのもどうか、と、抱き着く方で納得。
それでも、母親にしがみつく子供子供してるとも言えるが。
一方。
「わたし前がいい」
「私は後ろでいいよ」
アカネと美里の母娘ほぼ同じ身長。体格はアカネの方が、ややふっくら気味。
「母親として、しっかりと後ろから娘を抱きしめてあげるわっ。うひひっ」
「その不敵な笑いは、何っ!? セクハラ禁止よっ!?」
「ぇー?」
「えー、じゃ、なーい!」
ケンカする程、仲が良い?
「ほら、アカネ、美里ママ、次みたいだよ」
「はーい、行くよ、お姉ちゃんっ!」
「ぅぉーい!?」
母として。
姉呼ばわりされるのは屈辱的でもありつつ、まんざらでも無い、美里。
「美里の方がぁ、妹っぽい気も、しなくもなくもないけどぉ」
スタートする母娘を見送り、雪枝が、ぽつり。
声は、二人には届かずも、雪人には届く。
「さすがに、怒られるよ?」
「若く見られてぇ、喜ぶかもぉ?」
「あ……なるほど……」
「じゃあ、行きましょうかぁ、お兄ちゃぁん」
「!?」
雪枝に手を引かれ、雪人も進む。
さすがに、お兄ちゃんは無理がありすぎるだろう、と思いつつ。
「しっかりぃ、つかまってねぇ」
「はいよ」
と、母の背にはり付いて母のお腹の前で手のひらを組む。
腰が細いので、比較的余裕がある。
さきほどのアカネとのペアの時は、ちょうど肩越しに前が見れたが。
背の高い母だと、肩しか見えない。
少し身体をずらして、母の背から前を覗く。
そして、スタート。
水の流れに乗って、加速する母子。
右へ右へ、左へ左へ右左。カーブで身体が傾く傾く。
名実共に、ぐるんぐるん。
気を抜くと、手が離れてしまいそうにもなりつつ。
気合で母のお腹にしがみつく、息子。
アカネより、ぷにぷに感が少ないな、と、思うヒマも無く。
どぼーーん
終着点は、水の中。
前に居る母が水圧を受け止めてくれるため、雪人のダメージは少ないが。
「いやぁん!」
母にダメージ。
アカネに釘を刺されていた、『ぽろり』が発現。
幸い。
完全に飛ばされた訳ではなく、少し捲れた程度なので。
すぐに、再装着。
「あぶなかったぁ……」
「母さん、行くよ」
事なきを得た母の手を引いて、離脱した先で。
何やら先行していた姉妹……ではなく、母娘がもめている。
「信じらんないっ! 娘を何だと思ってるの!」
「事故だって言ってるでしょっ! 事故よ、事故。故意じゃないってばっ!」
「ウソよ、最後、クイってやったでしょ、クイって!」
「やってないモンっ!」
「やったっ!」
美里の『モン』が、何かを物語っていそうな気もしなくはないが。
雪人・雪枝がそれぞれ、アカネと美里の間に入り。
「二人とも、落ち着いて」
「何があったの?」
雪人がアカネを、雪枝が美里を抱き寄せて落ち着かせようとする。
「お母さんがわたしのブラをぺろーんしたのっ」
雪人の後ろから、アカネ。
「してないモン!」
雪枝の後ろから、美里。
それを聞いた、雪枝が。
「みぃさぁとぉ……?」
振り返って、美里を抱きしめながら、呼ぶ。
「な、なにかなっ! 雪枝さんっ!?」
後ずさりたいが、雪枝に抱きしめられて逃げられない、美里。
「美里がぁ、『モン』ってぇ、言うときはぁ……」
やはり、物語っていたらしい。
「げっ」
離脱しようともがく美里。
抱き寄せる、雪枝。
「おしおきぃ」
んちゅーーっ。
いや、だからそれ、おしおきじゃなくて、ご褒美だからぁ!
と、塞がれた口の奥でモゴモゴと言う美里。
「ちょ!」
それはいいが、こんな公衆の面前で。
「雪枝ママ! ストップ!!」
「かぁさんっ!!」
さすがに止めに入る、アカネと雪人。
ピピピピピ――ーっ!
「そこのひとおおおっ!?」
……それに、係のお姉さん。
さすがに、怒られました。
お陰様で。
もう一回残っていたカップリングは、無しに。
なので、美里のいたずらは、うやむやになりそうになったが。
「お母さん、有罪」
「うぅ……ごめんなさい」