第13話:雪人のアルバイト(後編
母の会社でアルバイトに入る、雪人。
「どうですか?」
渡された洋服に着替え終え、簡易更衣室から出て、メイクさんに。
「うんうん。グッド、グッド。いいよー、雪人くん! いや、ユキちゃん! 可愛い可愛い、ホント可愛い!」
「……勘弁して下さい……」
「先輩! このコ、お持ち帰りしていいですか!?」
メイクさんの暴走も、いつもの事。
「ダメに決まってるでしょ。社長に首、切られるわよ?」
「……母さんより、アカネの方がヤバいかと……」
慣れる様で、慣れない、少女向けの衣装。
どこから、どう見ても、女の子。
もちろん、このアルバイトの時だけ。
普段から自宅で、と、言う訳ではない。
そういう趣味がある訳でも、無い。
アルバイトだから。仕事だから、やむなく。
ちゃんとしたモデルを雇うのにも費用がかかる。
できるだけコストは削減したい。
でも、クオリティはそれなりにしたい。
丁度、商品のターゲットは十代の少女。
アカネに白羽の矢が立つも、アカネ本人は拒否。
雪人にお鉢が回って来た次第。
雪人も最初はいやがっていたが、二人の母に加えて担当社員さんにも泣きつかれ。
一応、それなりのアルバイト代も出してもらえると言う事で。
それに、女装した雪人は、別人に見えるため、写真が出回っても影響は無い、と。
「じゃあ、さくさくっと撮っちゃうねー。ライト、レフ、よろしくー」
撮影スタジオ風に仕立てた会議室。
そのお立ち台に、立つ。
「雪人くんは、いつもの感じで適当にポーズお願いねー」
「はい、わかりました」
雪人がポーズを取る。
カメラのシャッター音。
フラッシュは焚かず、ライティングで。
自動露出補正で、五カット同時撮影。
シャッターが切られたら、少しポーズを変えて、停止。
またシャッターが切られる。
いつも同じメンツで、ルーティンを理解しているため、余計な確認はあまり必要ない。
「はい、オッケー、次お願いね」
「はーい。雪人くん、こっちに着替えてねー」
「了解です」
新しい衣装で、また撮影。
いくつもの衣装を撮影する。
「あ、これ、アカネに似合いそうだな……」
最後の衣装。
少しボーイッシュなパンツスタイル。
でも、トップスは、ガーリーなフレアがあしらわれている。
ウィッグも、アカネの髪型と同じくらいのショートボブ。
着てみる。
「ん。いい感じ」
「ユキちゃん! なんか良いよ! その表情! キープね、キープ! レフっ、急いでっ!」
カカカカカ
連射。連射。連射。
「ユキちゃん、お疲れ様」
「お疲れ様、です。あの……」
「なぁに?」
「この衣装、貰っちゃってもよいですか?」
「え?」
「あー、いや、違います、違います。アカネにあげようと思って」
「あー、なるほど。いいよ!」
「ホントですかっ!?」
「アルバイト代から天引きしておくねっ!」
「ぉおぅ……」
まあ、いい、か。
たまには、嫁のご機嫌を取っておくのも、旦那(予定)の役目。
アカネに代わってアルバイトを引き受けた件も含めて。
嫁に甘い、旦那(予定)であった。
そんな旦那(予定)・雪人が働いている間、自宅では……