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領主様、こんにちは



 セシルがクラウディオとともに、のどかな山村の道を歩いていると、領民たちがにこやかに話しかけてきた。


「領主様、こんにちは」


「領主様、いつもありがとうございます」


「領主様、うちの裏の木になった果実が美味しそうなので、ぜひ、お持ち帰りください」


 ……めちゃめちゃ慕われてるな、クラウディオ様。


 いい領主様なのだろうな、とセシルは思う。


 なのに、何故、悪魔だと言い出したりするのだろう?


 クラウディオは、チラとこちらを見たあとで、

「お前はここで待っておれ」

と言う。


 道の先から、こちらを見ている若者のところに急いで行ってしまった。


 あとに残されたセシルのもとに、近くにいた農家のおじさんやおばさんが、にこにことやってくる。


「もしや、領主様の奥様になられる方ですか?」


「え?

 いえ……」


「領主様をよろしくお願いいたしますっ」


「ほんとうにいい方なのですが。

 あまり女性に興味がなく。


 親族の方が薦めてこられるお嬢様方をみな断ってしまわれるのです」


 は、はあ……とセシルは曖昧な返事をする。


 いや、違います、とハッキリ言えなかったのは、領民たちの期待に満ちた笑顔に勝てなかったからだ。


 そのあと、戻ってきたクラウディオに、さっきの若者のところに連れていかれた。


 人の良さそうな若い男は一生懸命言ってくる。


「ク、クラウディオ様は、悪魔のような方ですっ」


 そうなんですか?

 ほんとうにそうなら、本人の目の前で言うのは大問題だし。


 本人が、よし、よく言ったっ、という顔で、あなたを見てないと思うのですが……。


「クラウディオ様は、ときに領民の仕事を奪い」


 クラウディオ様、なんかせっせと彼らの仕事を手伝ってそうだな、領主様なのに……。


「ときに、領民たちに娯楽を与え。

 堕落の道へと(いざな)おうとされるのですっ」


 楽団とか曲芸師とか連れてきたのかな……。


 どうですか、今のでっ、という顔で、彼はクラウディオを見上げる。


 どうですかっ、ご主人様っ、と、わふわふ、主人に向かっていく忠犬のようだった。


 クラウディオは、ありがとう、すまないなっ、という顔で彼を見下ろす。


 この自称、悪魔と領民の間には、すごい信頼関係があるようだ……。


 そんなこちらの視線に気がついたように、クラウディオはちょっと強めに言ってきた。


「さあ、こちらに来るのだ、セシル!」


 近くで見ていたおばさんたちが小声で話しているのが聞こえてくる。


「あら、いいじゃない」


「強引な男はいいわよね。

 ……好みのタイプに限るけど」


「でも、領主様にしては頑張ってるわよね~」


 悪魔の言動を評価する領民たちの言葉に押されたように、クラウディオはセシルの手首をつかもうとしたが。


 指先が手首に触れた瞬間、セシルが見上げると、それだけで、びくりとしたように離してしまう。


「と、ともかく来るのだ……っ」


 クラウディオは、せかせか歩いていってしまった。


 クラウディオが離れたので、おばちゃんたちの声が大きくなる。


「ああして、ちょっと照れたところを見せてくるのもいいわよね~」


 ……うーむ。

 いいかどうかはともかく、ちょっと面白いな、この人、

と思ったセシルは、手を引かれなくとも、自分から彼についていってみた。





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