我こそが悪魔である。お前を呪うために、やってきたっ……たぶん
「私は悪魔の木に呪われよ、と王子に命じられ、ここに来ました」
娘は第一王子の元婚約者、セシルだと名乗り、そんな告白をはじめた。
なんとっ。
王子は何故、こんな可憐な娘と婚約破棄し。
悪魔の木に呪われろとまで暴言を吐くのかっ?
そんな奴が第一王子とは。
この国は滅びた方がいいのでは……?
とまでクラウディオが考えとき、セシルが言った。
「なので、私はあなたの妻にはなれません。
ここで悪魔を待って、呪われねば」
どこまで本気なのかわからないが、セシルはそんなことを言う。
もしかしたら、ただのていのいい断りの文句なのかもしれないが……。
……いや、ていのいい断りの文句か? これ。
悪魔を待って、呪われねばならないとか、
と思いながら、クラウディオは咳払いして言った。
「そうか。
実は、私こそが、その悪魔なのだ」
クラウディオはなんとしても、セシルの側にいたかった。
「私が悪魔である、その証拠に――」
と言いながら、
えっ?
証拠に、なにっ?
と自分で思う。
小市民的なまでに堅実に生きてきたクラウディオには、自分が犯したなんの悪事も思いつかなかった。
「証拠に――
そうだっ。
今も一人、呪い殺してきたところなのだっ」
嘘ではない。
うっかり名前を出したばっかりに。
話の中で、善良な領民、オッジを殺してしまった。
……すまん、オッジ。
なんかよくわかんないこと言い出したぞ、この人。
セシルは突然、悪魔を名乗りはじめた領主、クラウディオを前に思っていた。
神の使いのごとき、光り輝く美貌のクラウディオは、どう見ても悪魔には見えない。
なんか人が良さそうだ……。
どうしたもんかな、と思うセシルにクラウディオは言う。
「とりあえず、私と来るのだ」
……まあ、ここにいてもしょうがないしな、と思ったセシルは素直にクラウディオについていった。
歩く道中、クラウディオが低い声で言う。
「お前の足元に、トゲトゲしい実が落ちている……。
踏むと、返しがついているのでなかなか抜けず、血まみれになる、悪魔の実だ」
足を止め、下を見ると、なるほど、緑のトゲトゲした実が落ちている。
「そう、それが、伝説の悪魔の実だ――。
……気をつけろ」
気をつけろ、なんだ?
親切で言ってくれたのかな? と思いながら、セシルはクラウディオについて、山を下りた。
街まで、たいした道のりではなかった。
そこはいつものクラウディオの散歩コースだったからだ。