11.授業1
「この学問は別名『魔法化学』といいます。これは魔法を使う際の考え方に由来していて、例えばあなたが魔法を使って魔物を火で攻撃したいとき、どうしますか?」
「えっと、単純に炎魔法を使います!」
「確かに炎魔法でも火をつけることは可能ですが、弱ければすぐ消え、強くしようとしたら多大な魔力量が必要となります。
しかし、草魔法・風魔法を合わせて使えば、持続的で強力な炎になります。火が燃え続ける条件は3つ。燃焼物の存在、酸素の持続的な供給、燃焼温度の維持です。
それらを知識として身につけ、最も効率のよい魔法を取捨選択するのが魔法化学なのです。ちなみに、自身のもつ魔法属性の魔法は特に使いやすいため、それを極力組み込むのも一つの手ですよ。」
(な、なるほど…!)
ただ魔法を発動させればいいという話ではないらしい。魔術師の給金が良い理由が分かった気がする。これは膨大な知識量が必要そうだ。
ダッドリー夫人がニコリと笑う。
「さぁ、基本的な考え方は理解できましたよね?」
そしてその後ライト家の書斎へ場所を移し、シャーロットが魔法化学書を読んで分からないところは質問する形で知識を少しずつ付けていくことになった。
本のページを捲りながらシャーロットは目を輝かせる。
(お、面白い…!魔法化学ってこんなに面白いものなのね!)
今まで当たり前だったことが化学という明確なもので解き明かされていくのは、シャーロットにとって、とても興味深いものだった。
そのため、そのまま没頭し続けてダッドリーに声を掛けられるまで、何も口にしないまま6時間が経過していた。積み上げていった本の数を数えると、13冊。まずまずだろう。今の実力にとりあえず満足して、思わず口の端が上がる。
さて、実践の時間がやってきた。
「とりあえず、今どの段階にいるか把握しましょう。この的に向けて炎を打ってみてください。手から力を発揮するイメージです」
「わぁ、早速使って良いんですね!上手くできるかしら…!」
ワクワクしながらシャーロットは目を瞑り、いわれた通りのイメージをする。
そして、人生初の魔法を発動した。
ポンッ
「…え?」
まさかとは思うが、今のポップコーン弾けました!みたいな軽快な音を鳴らしたのはうちの炎魔法ではなかろうか。
「レベル1ですね」
「レベル1!?」
この世界には1~100の魔法レベルが存在する。発動時間、発動規模のコントロール能力、魔法化学を使った魔法の組み合わせ方でレベル付けをするものだ。ただ、魔法初心者であったとしてもセンス次第でレベル5程にはなるのだが…。
「センスは皆無のようですね」
ダッドリー伯爵夫人はきっぱりと言いきった。
まったく歯に衣着せぬ言い方がもはや清々しい。
「わー、火の玉ストレートですね!もうちょっとオブラートに包んでいただければ私の心に優しいかもです」
「それは失礼しました。それで、どんなイメージでやったらこんなことに?」
くすくすと笑われながら返される。どうやらからかわれていたようで、シャーロットは頬を膨らませる。しかし、そんな軽口が叩けるくらいまでには、この数時間で二人は仲良くなったのだった。