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6話 蹂躙

次回は明日の19:00頃です


そこからの戦闘はまさに地獄だった。

大剣持ちの後ろで固まっていたゴブリン達だったが、大剣持ちがなにやら命令すると、キビキビと動き出した。

大剣持ちはその姿を見送り、愉しげな表情で近くに倒れていた木に腰を下ろす。


17匹のゴブリンが、レイン達に襲いかかる。

最初はうまく応戦していたが、次第にキツくなっていく。


最初に倒れたのはトーマスだった。

疲労からか、動きはどんどん精彩さを欠いた。遂には、矢による強烈な一撃をその身に受け、痛みに頭を下げてしまう。

その隙にとトーマスを囲んだゴブリンは、棍棒、鉈などによる攻撃をトーマスの全身に浴びせる。容赦ない攻撃に、遂には倒れ込んでしまう。


魔力を集中させたレインの魔法が、ゴブリンを思い切り吹き飛ばし、レントがトーマスの腕を引き上げる。

誕生日祝いにと父親に貰った全身鎧は、至る所がボコボコに凹んでおり、全身から吹き出した血が鎧を染め上げ、見るも無残な姿に変わり果てていた。


レントが呼びかけるが返事がない。


「《ヒール》!《ヒール》!《ヒール》!」


アルマが必死に魔法を唱えるが、傷が塞がらない。

回復魔法は死者には影響を及ぼさない。

その事実が、トーマスが息絶えている事を告げていた。


「……わたしはまだ見習いだから、魔法が効かないだけかもしれない。街でちゃんとした神官に癒してもらえればきっと!」


泣きじゃくるアルマを余所に、レントがレインに声をかける。


「……レイン、アルマを連れて逃げろ」


「レントはどうするんだよ!」


「俺は、トーマスを置いて行けねえ」


「そんなの僕だって!!トーマスを抱えて逃げればいいだろ!」


「できると思ってんのか!!」


レントが怒鳴り、レインの胸ぐらを掴む。


「それに、俺が時間を稼いだら2人は逃げれるかもしれないだろ」


レントが手を離し、真剣な目で見つめる。

その目は覚悟を決めた者の目だった。


「じゃあ僕が!」


「ここに来るって言い出したのは俺だ。俺が責任を取る」


「そんなの、僕だって同じだ!僕も賛成した!僕がアルマを誑かした!!」


レインは思考を回転させる。どうにかして、レントを説得しなければ。


「……そうだ!なら、僕達2人で残った方がいいだろ!アルマだけ逃がして!そっちの方が勝率は高い!!」


「お前、もう魔力がほとんど残ってないんだろ?そんなお前より、俺が残った方が勝率は高い。……それに、アルマが1人で逃げるなんてすると思うか?絶対抵抗する。だから、お前が引っ張って、連れて行ってくれ」


図星だ。レインの魔力は、先程の魔法でほとんど使い果たしていた。確かに、そんなレインが残るよりも、剣の扱いが上手いレントを残した方が、時間を稼ぐことが出来るだろう。

そして、アルマの性格では、1人だけ逃げるなんて出来ないことも分かってる。

それでも……


「最期のお願いだ。アルマの事を守ってくれ。……頼む」


レントが頭を下げる。

これまでレインは、レントから何度も「最後のお願いだから」と称し、頼み事をされてきた。その度に「またか……」と辟易していた。

しかし、今回のものはいつもと違うものを感じていた。


「……嫌われる、かもしれないね」


「嫌わねーだろ。アイツ、お前のこと好きだし」


「……そうなの?」


「気づいてなかったのか?そういうとこ鈍感だよな、お前」


レントが冗談交じりに笑う。

危機迫った状況だが、いつものように語り合う。そんな時間が何時までも続けばいいのにと心の底から願った。


「いや、最近はあんまり話す機会なかったし」


「最近じゃなくてずっと前からだと思うぜ、多分な。ちなみに俺もアルマのこと、好きだぜ?」


「そうなの!?」


衝撃だ。レントが人の色恋の機微が分かるだけでなく、自身も恋愛感情を持っていたとは。


「お前もだろ?」


「……いや、まあ。……そんなに、分かる?」


「見てきたからな」


吹き飛んでいたゴブリン達は、チラホラ起き上がり、こちらに向かいつつある。語り合う時間も、もう終わり。終焉が刻一刻と迫ってきている。


「まあ、なんだ。最期とは言ったが、これで死ぬとは決まったわけじゃねー。もし、生きて帰ったら。──勝負だぜ、相棒」


「……うん、必ず。なんとか生き延びてくれよ、相棒」


「おう!」


最後に2人は拳をゴツンと突き合わせる。

合わせた拳は、少し震えていた。

レントだって、怖くない訳では無いのだ。

レントがゴブリンの方へ体を向き直る。


「ゆっくりしてたら、俺が奪っちゃうからな!」


そう言ってレントは駆け出していく。

レインは、それを尻目にアルマの元へ走り寄る。

アルマはトーマスにかけようとした回復魔法で、魔力を大量に消費したのか、息を切らしていた。


「アルマ、聞いてくれ。レントが、僕達の逃げる時間を稼いでくれてる。今のうちに逃げよう」


「どうして、レントだけ!皆で戦えば…」


「それしかないんだ!!早く!!」


溢れる涙を堪え、レインは無理矢理アルマの手を掴み、駆け出す。

逃げ出した2人を見てか、大剣持ちが動き出したのを横目で捉える。


「いかせねえぞ!!」と、レントの叫び声が聞こえる。

その直後に生じる剣戟の音。

──そして、断末魔の叫び。


「う、おおおおお!!」


レインはその声を聴かないようにと、上書きする様に声を上げる。

振り返ることは出来ない。

振り返ったら、レントが折角生み出した時間を無駄にしてしまう。


アルマの手を引き、無我夢中で走り続ける。


レイン達を止めるべくと放たれた矢が、頭上をスレスレに通り過ぎていく。

矢を避けるべく、蛇行し木を背に走る2人。

雨のように降り注ぐ矢をどうにか躱していたが、遂に右足に矢を受けてしまう。


「──っ、あっ!」


その痛みにつんのめり、転がる。

木を背にぶつけ、肺から空気が大量に漏れ出た。

右足のふくらはぎには、深々と矢が刺さっていた。


「──っ!《ヒール》!」


青白い顔をしたアルマが回復魔法を唱えるが、その光は淡く、力なさげに点滅している。

魔力が足りず、安定して発動していないのだ。

傷は塞がったものの、しまいにはふらりと力なさげに体を横に倒してしまう。


そんな2人の元に大剣持ちが歩いてくる。

手に持った大剣は、血でテラテラと赤黒く光っており、レントの結末を否応に伝えてくる。


「《ウィンドカッター》!」


最後の抵抗にと魔法を放つ。

それは避ける素振りのない大剣持ちに直撃する。しかし、それは大剣持ちの肌を浅く切り裂いただけで、致命の一撃とはならなかった。


──ここまでか。


魔力も尽きかけで、魔法も効かない。

脚も動かないし、アルマも倒れた。


もう、打つ手はない。

レント、トーマス、ごめん。


2人の死が無駄になってしまった。そのことに、心の中で謝罪する。


「アルマも、ごめんね。守るって言ったのに」


レインの傍らに倒れたアルマの手を握る。

意識を失ったのか、彼女からの反応は無い。


せめて、通用する魔法があったら──


そう考えた時、頭の中を一筋の光明が差す。


「……次元魔法」


素質はあるものの、いままで一度も発動しなかった魔法。

300年前の勇者が使っていたとされる伝説の魔法。


それを発動させることが出来れば、もしかしたら──


そう考え、レインは魔力を練る。

幸いな事に、大剣持ちはレインが無駄な努力をすると思っているのか、ニタニタと笑みを浮かべながら傍観している。


300年前に失われた魔法。

詠唱も分からない。

もし発動しても何が起こるかすら分からない。


しかし、今のレインはそれに縋るしかなかった。


「最期くらい、成功してみせろ!!」


体内の魔力を一滴残らず込める。

そして、杖先から溢れ出た魔力が、ぐるぐると目の前で黒く渦巻き──




──そして魔法が顕現する。



評価、レビュー、コメントなどよろしくお願いします。



(たまに更新!)登場人物図鑑


No.4

名前:トーマス

性別:男

職業:騎士

魔法素質:なし

趣味:幼なじみと遊ぶこと。トレーニング。

概要:幼なじみ4人組の1人。臆病な性格で、自信のなさからよく縮こまっているが、4人の中では一番背丈が高い。手先が器用で、戦闘では盾を使った立ち回りが得意。

よく変なことをするレントとレインに自分も参加したいと思っているが、親に怒られるのが嫌なため、傍観することが多い。

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